ヒハマタノボリクリカエス 22

 痩せているハルが言うから、まあ説得力はある。
 けど、こういうストレートに語るかな。
 ハルは私よりずっと食べるのが早かった。
 黙々と口に入れていく。
 私の方なんて見向きもしない。
 少しは私の方も見ようよ。
 ていうか食べるの。早すぎ。
 私がやっと半分進んだ頃には、ハルの皿は空になっていた。
 だから食べるの、早すぎ。
 ハルはすぐに足を組んでタバコに火をつけた。
 煙を上に吐く。
 ヘビースモーカー。
「あ、気にせずゆっくり食べて」
「いや、気にするよ。食べるの、早すぎだし」
「そう、ごめん、癖でさ」
「癖?」
「癖。ちっちゃい時から、ご飯を急いで食べていたから。なかなか直らなくて。まあ、あまり直すつもりはないけど」
「どういう家庭?お母さんに怒られなかった?私の親なんて変にそういうところ厳しくてさ。ご飯はゆっくり食べなさい、ひじをついていけません。姿勢は正しくって、昔からしつこく注意されていたよ。マジで嫌だった。嫌だよね?」
「俺はそういうの、羨ましいけどな。家族がいるって一番幸せなことだと思うぜ」
 あれ、地雷踏んだかも。
 ハルに今両親がいないことを思い出した。
 やばい。
 挽回しようと何か言おうとしたが、良い言葉が浮かばなかった。
 どんな親だったのだろう。どんな子供時代を過ごしたのだろう。
 ハルのこと、もっと知りたい。

 レストランを出たら、陽が暮れかけていた。
 そして私はそっとハルの左手を握った。
 ハルも握り返してくれて、そのまま歩いた。
 ただ道なりに。
 歩きやすい靴を履いてきてよかった。
 ハルの手、冷たい。
 これが映画だと、多分ここが、一番出演者が楽しそうにしている場面だと思う。
 実際凄く楽しいけど。
 そうそう、音楽はロックを大音量で流したりしてね。
 勿論私の好きなバンドの代表曲を。
 私達以外の歩行者はみんなエキストラ。
 ああ、バカだ。
 けど、バカでいい、今はバカでいたい。
 バカで何が悪い。
 最後は、バー?
 またバーですか?
 道の先にはバーが多く入るテナントビルがあった。場所はゴンちゃんの店の近く。ハルの仕事場の近くでもある。
 ゴンちゃんのバーよりは大きそうだし、綺麗そう。
 名前は「セブンティーンズカルテ」という。
 ハルはまた無言で先に入っていく。
 はいはい、お供しますよ。
「あら、お久しぶりね。ハル元気だった?アタシはチョー元気よ」
 ん、どこかおかしい。
 だって、これを言ったの、男だもん。

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