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ご褒美ドルチェ

 今年の冬は寒く、外になかなか出れず、いつも洗濯物を干しながらベランダから外の景色を眺めていた。ベランダの前には誰の畑だろうか、200羽程の鳥達が異常に集まり、ミカンを食べている。ピヨピヨピヨピヨ小さくて可愛い声を響かせながら。次の日もまた次の日も鳥たちはどんどん増えて、そのうち私は大スクープを見つけた記者のように、動画を撮ることにした。動画はSNSのストーリーで流し「大崎上島ここは鳥たちの楽園です」とコメントを書き込んだ。
そんな日々の中、完熟したミカンが1か月程で食べつくされた頃、近所の人からその畑の噂を聞いた。「ミカン畑はもう荒らすんじゃと」「え~もったいない」私は条件反射のように持ち主との交渉をお願いした。その時、食べつくされたミカンの木とは別に、7~8本あるデコポンの木はちょうど収穫期を迎えていた。収穫からやりなさいと言って貰えたのでその日からもぎはじめることにする。
収穫したデコポンはコンテナ20ケース分にもなり、車庫でしばらく寝かしたのち出荷することに。私はインターネットを使い、ありとあらゆる声掛けと発信を試みた。その甲斐あって友人の友人、何年も連絡をとっていない友人からも注文が入り、毎日郵便局に通い、宅配業者にも集荷に来て貰う。お客さんとのやりとり、出荷作業、帳簿つけ、そのうち私は一人芝居をしている役者のような気持ちになり、デコポンがなくなるまで頭は回転し続けた。
 3月も彼岸の頃、デコポンがすべて出荷された、そんなある日、キラキラと輝く笑顔で可愛いお客様が訪れた。彼女はイタリア生まれイタリア育ち。ちょうど友人から頂いたセモリナ粉を何かに使えないかと考えていた時で、彼女は「おじいちゃんがおやつに作ってくれたセモリナのお菓子を作りましょう」と言ってくれた。お客さんが来ているにも関わらず、私は落ち着きがなく家の前のデコポン畑の片付けをしていた。台所に戻るとふんわりホカホカ優しいおやつが出来ていた。おやつを食べながらホッと一息。春のお彼岸、今は亡きイタリア人のおじいちゃんに想いを寄せながら作る『イタリアドルチェ』話を聞くとそのおじいちゃん島に移住してきてから亡くなったんだと「きっとおじいちゃん今頃よろこんでるねぇ」と話しながら頂いたイタリアの味。
デコポンの出荷がちょうど終わったその頃、ご縁が繋がり見えない世界から「お疲れ様。よく頑張ったね」と言われているような出来事。可愛いお客様と珍しいイタリアの手作りおやつでほっこりとした春の訪れであった。
                           2021年4月6日

セモリナドルチェ作り方
※厚手の鍋に牛乳250cc砂糖30g塩を入れゆっくり煮溶かす。そこにセモリナ粉30gを入れ木べらで焦げないように混ぜる。最後にレモンの皮をすりおろして入れ、混ぜ合わせた後、バットに入れ冷ます。冷蔵庫で冷やし固め、四角く包丁で切り、溶き卵をくぐらせ、セモリナ粉を付け、きつね色に揚げる。熱々のところに粉糖をかけ頂く。

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