100分de名著「戦争は女の顔をしていない」アレクシエーヴィチ

講師 沼野恭子


「屋根の下の戦争」アダモヴィチ
証言集「燃える村から来た私」

ユートピアの声5部作
「戦争は女の顔をしていない」
「ボタン穴から見た戦争」
「アフガン帰還兵の証言」
「チェルノブイリの祈り」
「セカンドハンドの時代」

1978 取材開始
1985 初版
1991 --------ソ連崩壊
2004  増補版

ソ連が無くなったことで追加の証言が沢山出てきた
初版時の検閲(アレクシエーヴィチ自身の自己検閲含む)で削られた部分の補完

証言は生き物

包帯で作ったウエディングドレス
男性の語りとのコントラスト
ディテールの重要性 文学
論理が感情より上のヒエラルキー

❷ジェンダーと戦争
第二次世界大戦 他国とは比にならない数の女性兵士
共産主義的「男女平等」という建て前
『男たちに「やはり女は…」と言われない為に努力した』
ロシア→強い家父長制「女は人間ではない」諺
ダブルスタンダード(二重規範)

身体性の記憶 生理が止まった
ペレストロイカ以降、特に女性作家が表現。
現代ロシア文学リュドミラ・ペトルシェフスカヤ

土佐日記との共通点 紀貫之(きのつらゆき)
「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとて、するなり。」
男=漢文 
紀貫之が娘を亡くし悲嘆にくれる→漢文では表現できず女言葉(ひらがな)で書いたのが土佐日記
公→漢字 私的→ひらがな
公→男 家庭→女

パルチザン(連絡係)
一般民衆組織 占領軍への抵抗などを行う非正規軍の部隊、構成員
パルチザンがいると分かると村を焼かれたり全員殺されたりした。

子供5人と一緒に連れて行かれた母親。
納屋に連れて行かれる途中で子供達は少しづつ殺された、敵は銃を発しながら楽しんでいた。
最後に残った乳飲み子の男児を「空中に放りあげろ、仕留めるから」とファシストの身振り。
母親は自分で赤ちゃんを地面に投げつけて殺した。自分の子を。

これまで男性によって語られてきた戦争
イデオロギー
女性の語りは戦争を異化(別の角度からの視点)する

❸時代に翻弄された人々
プロパガンダ
戦後捕虜が帰国した際に過酷な収容所へ送られた
(スターリンは捕虜は裏切り者として扱った)
共産主義者無しの暮らしを見聞きした人
初版時には削除された部分(捕虜は無かったものとされた)
男性は収容所
女性は更に酷い 帰国後同性からの誹謗中傷
虐めていた女性自身ダブルスタンダード
男視線が内面化
戦地では戦友であった男性兵士が戦後帰国した際女性兵士を庇ってはくれなかった。
女性兵士が発言すると差別されるので口をつぐむようになり事実は表には出ず、隠さなければならない重圧に耐えた。
それらを表に出そうとしたアレクシエーヴィチ。
戦争自体の二面性。
戦争体験者の中の二面性。1人の人間の中にある2つの真実。建て前と本音の乖離。

❹歴史学と文学の違い

「セカンドハンドの時代」(2013)

赤いものが家に何もない置けない
電気椅子を経験し今はアイロンもかけられない

対等に共感する
沢山の声同士(矛盾含む)互いに浄化
敵にも寄せた共感

人間の心は一つ

伊集院光氏「戦争によって消えてしまうもの、それでも消えないもの」

自然、動物への共感
アレクシエーヴィチ2016年来日福島へ

現在 ベラルーシ
【民主化運動は女の顔をしている】

1.多様な文化が共生できる社会の為にはまず他社の声を聞くこと
2.それをわが事として引き受ける、自分のこととして考える
アレクシエーヴィチが書いたことは現代日本に通じることばかり
男尊女卑
権力者にとって都合の悪いことは隠す

2021年7月オンライン科研研究会
「アレクシエーヴィチとの対話」刊行に寄せてより  通訳 吉岡ゆき

【この本でとても重要だと私が考えるのは戦争に対する別の視線 女性の視線です 女性たちは戦争の正当性が見つけられない見つけ出したいとは思わないということです 女性たちは命あるもの「生きている命」を守るのです 血、武器、暴力の時代は去ったのです 命の捉え方を今までとは違うものに切り替えるべきなのです 『人の命は物事を測るものさしであってはならない』これが「戦争は女の顔をしていない」の軸となる考えなのです


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