ジュリエット釣り【毎週ショートショートnote】
仕事で田舎のローカルバスに乗っていたら、聞きなれない停車駅があった。
『ジュリエット釣り堀前』。
ジュリエットって、あのロミジュリのジュリエット? の釣り堀? てな感じで頭の中が?でいっぱいになったが、乗客のほとんどが地元民で、疑問を抱く人はいないみたいだった。
まあ自分の施設に変な名前をつけたがる人はいるし、最近はネーミングライツ(命名権)だってある。キャピュレット家がお金を出して釣り堀に娘の名前を冠した可能性もある。
ぼくは隣の席に座るおばあさんにそっと尋ねてみた。「あの『ジュリエット釣り堀前』って、あのジュリエットのことですかね?」
おばあさんは、あんたそんなことも知らんのかね、という表情で、「ああ、あれはあんた、昔あそこの釣り堀の脇の水路で若い女性が溺死してね、であんな風変わりな名前になったんだよ」と言った。
溺死したのはハムレットのオフィーリアじゃなかったでしたっけ? と思ったけれど、僕は黙っておくことにした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?