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ビール傘【毎週ショートショートnote】

 知り合いに登山に誘われたので同行することにした。

 今回の目的地は彼女だけが知っている秘密の場所で、ある変わった山の恵みにありつけるとのこと。

 山頂を目指すコースから横に逸れ、獣道のような険しい山道を登った先に彼女の言う山の恵みは存在していた。

 それは黄金色に輝く傘茸(カラカサダケ)のことで、大地に自生するそれはまるで樽から出したばかりの生ビールのように美しい。琥珀色の傘の上にちょこんとクリーミーな泡がついたミニチュアの生ビールもどきが辺り一面に生えている姿は壮観の一言だった。

「これ、味も格別なの」

 通称"ビール傘"といわれるそのきのこは、一噛みするだけで、プレミアムモルツみたいな芳醇な麦芽の味が口の中にジュワッと広がった。「たしかに最高だね、これは」「つまみが欲しくなるね」「つぎは乾き物も持参しなきゃね」

 でも、そんなたのしいほろ酔い気分が続いたのは、帰り道の途中で飲酒検問に引っかかるまでのことでした。

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