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告白雨雲【毎週ショートショートnote】

 付き合っている彼女が突然、雨雲好きを僕に告白してきた。「実は私、雨雲が好きなんだ」って。

「どういうこと?」
「もちろん、◯◯くんのことも好きなんだけど、それ以上に雨雲のことが好きなの。変よね、私って」
「そんなことないよ」

 いや実際、そんなことは全然あったが、相手が雨雲ならしょうがない。別に一位の座を譲ったところで、ほかの男に彼女を奪われたわけじゃない。僕はそう自分に言い聞かせた。

 以後、西で大きな雨雲が発生したと聞けば、僕たちはデート中でも西に向かい、東で低気圧が発達したと聞けば日本海を目指した。危険もあったが、台風の進行方向に向かって車を走らせることもあった。

 でもそんな僕らの関係も唐突に終わりを迎えることになる。
 彼女が気象予報士の試験に合格したのだ。

「雨雲が好きだなんて嘘だったんだね」
「いいえ、そんなことないわ。あのときは好きだったの。でも、いまはお天気キャスターにしか目がないのよ。本当にごめんなさい」

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