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動かない棒茄子

昔、マジックバーである手品師のショーを見た。

トランプやコインを使ったいわゆるよくある手品芸を見せてくれたあと、最後に手品師はバーの冷蔵庫から一本の茄子を取り出し、置いてあった割り箸を突き刺した。

「ここにタネも仕掛けもない棒茄子があります。ところが不思議なことにこの棒茄子、絶対に動かすことができないのです。どうか試してみてください」

カウンターで見ていた客が次々に棒茄子を動かそうと掴んだり、押したり、引っ張ったりしてみるも、棒茄子はうんともすんともしない。客の中にレスラーもいたが、力自慢の彼でも一ミリも動かすことができなかった。ボンドでカチカチに固めてしまったみたいにカウンターの天板に張り付いてしまっていたのである。

「ねえ、不思議でしょう」と手品師は言って、茄子から割り箸を引き抜くとまた元のように動かせるようになった。

もう何年も昔の話だがいまだにどんな仕掛けがあったのか分からないでいる。

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