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恋した女性は義手だった
なにぶんにも母が教育ママだったもので、小学生の頃からいろいろな本を読まされたものである。
図書館から色々な本を借りてきたものだった。
その中で、大瀬しのぶというハゲのローカルタレントの自叙伝もあった。
昭和の末頃、いろいろなローカルCMに出ていたので、当時の故郷の人の間では有名な存在だったはずだ。
YouTubeで残っているのはこのくらいだろうか。
しかしトレードマークのハゲがこれでは分からない。
ともあれ、本自体は昭和60年に、芸歴30年を記念して出版した本なのだという。
大瀬しのぶは、若いころ家業が嫌でいろいろな職を転々としたようだ。
それでも、行く先行く先で、その話術の面白さから周囲の人気を得ていたようだ。
そのことが、芸人としての道を歩むことにつながっていったようだ。
大要としては以下の通り。
林業の飯場の親方の娘が札幌から遊びに来た。
レースの手袋が上品なその娘さんと小川原湖でボートを漕いだり、持ち前の話術で大いに楽しんでもらった。
で、その晩のこと。
宿となった飯場では、父である親方とその娘さんが話し込んでいる。
そして、そのテーブルの上には、ニョッキリ腕が生えている。
あの腕はなんだ…?
そして、しばらくして合点が行った。
あの腕は義手なのだ。
あんな可憐な女性が義手だなんて…とかわいそうになった。
そして翌日のこと。
「あなた、昨日見たでしょう」
「なんのこと」
「小さい頃に丸木に潰されたの。でも私は義手でもりんごの皮も剥けるし、一通りの事はできるのよ」
「なあ・・・一緒になろう」
思いがけないプロポーズに対して、彼女は微笑むだけだった。
母親に相談すると「あんたがいいと言うなら、それでいいかもしれない。でも、あんたに似合う五体満足な女性がいるのではないのかね…」
結局、家業すら逃げ出すような半人前の著者では、結婚を断念するしかなかった。
これが書かれたのはいつ頃だろうか。
昭和60年に芸歴30年というから、その前になるわけで、おそらく昭和20年代だろうか。
自分が同じ状況になったらどうなっていただろうか。
絶対に引き止めたり押し倒したりしていなかったという保証はなかったかもしれない。
ともあれ、教育のために本を借りてきたであろう母は、息子がこんな異常なフェチを拗らせることになるだろうとは思っていなかっただろう。
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