無菌アイソレータ導入の注意点

グレードBの無菌室管理の煩わしさから、無菌アイソレータを採用する製薬工場が増えている思いますが、先般、無菌粉末充填設備にアイソレータを導入した経験から、注意すべき点をまとめてみました。

1. 風速・差圧設定は慎重に
無菌操作法ガイドラインやPIC/S GMP ガイドライン Annex1等のレギュレーションには、風速は0.45m/s±20%、周囲環境との差圧は17.5Pa程度以上との記載があるが、これを遵守するのが意外に難しい。というのも、グローブ操作、滅菌トンネル、マウスホール等により差圧が変動し、それに伴い風速も変わるためである。また、その変動の度合いもアイソレータが小さいほど大きい。数値の意味するところを考察すると、要は層流と陽圧が確保されていることが重要であると考える。したがって、静的な環境ではこの数値を遵守するも、生産時などの動的な環境においては、プロセスシミュレーションテスト等にてどこまでこの数値からの逸脱が許容できるのかを検証しておくことが大切であると考えている。

2. 作業性と安全性は十分に検証を
人のアクセスが完全に制限されているアイソレータでは、設計時に実寸大の模型を作って作業性と安全性を確認すること(モックアップすること)が一般的であるが、ここでも盲点がある。それは、慣れれば問題ない作業性なのか、慣れても許容できない作業性なのかの見極めが難しいことである。慣れれば大丈夫かなと思っていざ実物が出来上がってみると、無理な体勢で身体を痛めたり、時間がかかり過ぎてスケジュール通りに生産ができなかったりする。これを解決するためには、モックアップで確認する各作業に許容できる時間制限を設けておくことと、複数の作業者(男女、身長等が様々である方が望ましい)で複数回検証することを強くお勧めしたい。

3. 過酸化水素除染は繊細
アイソレータの除染検証は長い道のりである。負荷物の洗い出しと設置パターンの設定、過酸化水素の使用量や温湿度条件を設定するサイクル開発、開発したサイクルでのチャレンジテストなど、大きなアイソレータだと2-3ヶ月はかかる。ここで失敗したのは、湿度コントロールである。過酸化水素除染は、加熱して蒸気になった過酸化水素が冷えて凝縮する際に殺菌力を発揮する。ここで問題になるのがアイソレータ内の初期湿度であり、初期湿度が高いと過酸化水素蒸気が凝縮しやすいのだが、十分に濃度を高くすることができない。一方で、初期湿度が低いと過酸化水素蒸気の濃度は高く出来るのだが、凝縮しにくくなる。したがって、アイソレータ内の初期湿度は30〜60%RHが最も過酸化水素除染に適しているらしいです。そして、初期湿度だけコントロールできていれば、その後の除染工程中の湿度は成り行きで問題ないとのこと。しかしながら、この初期湿度とはアイソレータの周囲環境(グレードC)の湿度のことであり、一般的にこのグレードCの湿度は60%RH以下で下限設定はしていないのではないでしょうか。それ故に私は、夏場に設定した除染条件で冬場に再除染検証をしたところ、いくつかのポイントでBI陽性が出てしまった。結局、冬場のワーストとなる低湿度条件を作り出し、除染条件の再設定を行った。2週間のタイムロスであった。

4. グローブリークテストは効率的に
アイソレータ導入と共にグローブリークテスター
を購入し、毎バッチ全てのグローブをテストすることで運用しているのだが、これがかなり時間がかかる。これだけで1日が潰れてしまい、グローブリークテストの効率化は必須であると感じた。具体的には、あまり使用していないグローブは閉止して数を減らしたり、破損リスクの低いグローブのテスト頻度を減らしたり、グローブの位置を集約して一括でテストしたり、場合によってはお金はかかるがグローブリークテスターをもう一台購入するなど、設計時から対策を考えてないと想定以上に時間がかかることを実感されると思います。

5. 掃除は思ったより大変
私が導入したアイソレータは粉末充填機で使用しているため、粉の飛散でアイソレータ内がかなり汚れます。そして、この掃除が非常に大変で、ドレンパンを付けて水洗い可能な仕様にしていなかったため、全て拭き取り作業をしており、手の届きにくいところの汚れを清掃するのが非常に大変です。アイソレータ内の造物が少なければ拭き取りだけで十分かもしれないが、充填機ともなると造物が多くて拭き取りだけでは綺麗に清掃ができない。封じ込めアイソレータでなくても、場合によってはウエットダウン仕様にしておくことをお勧めしたい。

先日、当該設備の査察があったのだが、査察官はアイソレータを非常によく見られていたため、それだけ無菌性保証の重要設備であること実感がしした。因みに、指摘事項もアイソレータの差圧に関わる内容であった。アイソレータを導入すれば無菌性に関する査察での説明が楽になると思ったのだが、逆に設計思想や運用面をたくさん聞かれたため、導入にはある程度ノウハウが必要であると実感したと共に、良い経験をさせたもらったと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?