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ある男の夏の終わり

  吸いかけの煙草が口元から落ちた。残り火が死んだセミの羽を燃やし、ミーンとひと鳴きさせる。膨張したビニール袋の中には、淀んだ水にぷかぷか浮かぶ金魚の死骸。サンダルからはみ出した足の日焼けがペりりとめくれ、新しい皮膚が顔を出す。日除けのためのサングラスは顔を隠すためだけのものになった。新しい靴を買いに出かけようか。女から剥がした中指の爪が、うん、と答える。シャツに染みた血の臭いが、「あんたは獣だ」という女の罵り声をよみがえらせる。

全てを秋の気配のせいにして足元のセミを踏み潰した。

夏が、終わった。

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