令和4年司法試験民法再現答案

設問1⑴
 CはAに対して所有権に基づき甲明渡を請求する。その要件はCの甲土地所有とAの甲土地占有であり、後者に問題はない。
 Cは契約②により甲所有権を取得したと主張する(555条176条)。もっともAB間の契約①は虚偽であり、Bは実際には無権利者であるから、Bからの譲受人Cも所有権を取得しないのが原則である。ただ本件ではCはBの下に甲土地登記があることを契機に契約②を締結したと考えられ保護されないか。
 本件でAB間に通謀はないから94条2項を直接適用できない。ただ同条の趣旨は虚偽の外観につき本人に帰責性ある場合にそれを信頼した第三者を保護する点にあるから(外観法理)、①虚偽の外観②①について本人の帰責性③①についての第三者の信頼がある場合には類推適用できる。本件は①契約①が存在しないにもかかわらずBの下に所有権登記が存在し虚偽の外観が存在する。
 判例は、外観作出と本人の意思が合致しておらず(意思外形非対応)、本人が外形作出につき積極・能動的には関与していない事案において、本人に積極的行為による場合と同視しうるほどの帰責性があり、第三者が善意無過失であることを要求しており(94条1項、110条類推)、私見も同様に考える。本件では②Aは確かに登記に必要な重要書類等をBに交付してしまっており、一定の帰責性がある。しかし、判例の事案は、本人が書類を交付したに留まらず、自身の目の前で手続が行われるのを漫然と見ており、かつ数か月にわたりその状況を放置したという事案だった。本件は、Bによる手続がAの目の前で行われたわけではないし、外観作出からCの登場までわずか数日しかなかった等帰責性が高くない。また不動産取引に疎い者が。まず知人の詳しい者に相談するという事は一般的に良くあることであり、本件も疎いAは知人で不動産業に携わっていたBに相談したのであって、Aを強く責めれない。以上を踏まえると、Aに積極的行為と同視すべき帰責性があるとは評価できない。
 仮にAの帰責性を認めても、Cは契約②の締結に当たり短期間のうちの所有権移転という不自然な経緯をBに尋ねており、Bから「知らない人と契約することに不安を感じたAの意向でいったん自分を経由することとした」旨説明を受けており、それが真実かをAに確認する契機を得た。そして短期間の所有権移転が不自然であることからすれば、CはAに確認するべき義務を負っていたがそれを怠った。よってCには過失がある。
 以上より、本件でCは保護を受けれず、Cの請求は認められない。
設問1⑵
1請求1について
 DのCに対する所有権に基づく請求である。Dは契約③により甲所有権を取得した(555条176条)。もっともDは移転登記を具備していないから「第三者」(177条)に対して所有権を対抗できない。そこで第三者の意義が問題となる。
 177条の趣旨は自由競争下における不動産取引の安全を図る趣旨である。よって「第三者」とは当事者及びその包括承継人以外の者であって登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者を指す。なお単純悪意者は第三者に当たるが、背信的悪意者は自由競争の範囲を超えるため第三者に当たらない。そして、背信的悪意者は権利を取得しないのではなく信義則上対抗ができないだけであること及び背信性は信義則に基づく属人的ものであることから、背信的悪意者からの譲受人はその者自体が背信性を有しない限りは、やはり第三者に当たる。
 本件でBはDへの恨みを晴らそうとして契約③を阻止し損害を与える目的で契約④を締結しており背信性を有する。もっともBからの譲受人であるCは、契約⑤締結当時に契約③の存在をしっており悪意ではあるものの、BがDを害する意図を有していたことは知らずまた自身でDを害そう等の意図があったわけではないから背信的悪意者とは言えない。したがってCは「第三者」に当たる。
 以上より登記を有しないDは第三者Cに所有権を対抗できず請求1は認められない。
2請求2について
 Dは債務者Aが締結した契約④の取消とともに転得者の下にある移転登記をAに戻すべき旨の詐害行為取消請求を行う(424条の5第1号、424条の6第1項)。なお請求2は426条の期間制限を満たす。
⑴受益者に対して詐害行為取消請求できること
 詐害行為取消の制度は、債務者の責任財産保全のための制度だから、被保全債権は原則として金銭債権であることを要し、「債権者を害する」とは当該行為により債務者の責任財産を減少させる行為を指す。本件でDがAに対して有しているのは甲土地移転登記手続請求権と言う特定物債権ではあるものの、既に転得者Cの下に登記が移転しており、この義務は履行不能(412条の2)となっているから、損害賠償権に転化している(415条)。よって金銭債権が被保全債権である。契約④の当時甲はAの唯一の財産であり、それを売却すればAの責任財産は減少する。そしてAはこのことを認識しつつ契約④を行っている。よって「債権者を害することを知ってした行為」に当たる。Bは契約④の際Dに損害を加える目的で行為しておりAを害することを知っていたといえる。その他本件では同条2項3項も満たす。よって受益者Aに対する詐害行為取消が認められる。
⑵Cの主観
 Cは契約⑤の当時、契約③の存在やAが十分な資力を有しないことを知っており「転得の当時、債務者の行為が債権者を害することを知っていた」(424条の5第1号)。
以上より要件を満たし、請求2は認められる。なお甲土地は不可分であるからその全体につき取消が可能である(424条の8第1項反対解釈)
設問2
1㋐は賃貸人の地位がHに移転したことを根拠にする。契約⑥に基づきGは乙建物の引渡を受けているため借借法31条による対抗力を有する。この場合目的不動産が譲渡された場合賃貸人の地位は移転する(605条の2第1項)。Hは登記を具備しているので賃貸人たる地位をGに対抗できる(同条3項)。よって賃貸人はHである。
 ㋑は譲渡担保の法的性質と関係する。契約⑦は債務αを担保する目的乙を譲渡するいわゆる譲渡担保である。譲渡担保は所有権移転の形式を採るが、あくまで担保目的であるのだから当事者間に所有権移転の意思まではない(176条参照)。よってHに乙の所有権は移転しておらず「譲渡」(605条の2第1項)があったとは言えない。
 ㋒は賃貸人たる地位の留保合意があったとするものである(605条の2第2項)
2㋑に関して
 譲渡担保は所有権移転の形式をとりそれを重視するべきであるが、所有権移転の効力はあくまでも債権担保に必要な限度においてのみ認めれば足りる。そして本件においてHの債権を担保するためにFG間で締結された賃貸借の賃貸人の地位をHに移転させることは必ずしも必要ではない。そうするとHF間の譲渡担保契約によって賃貸人たる地位が移転することはない。よってFの反論は妥当である。
㋒に関して
 賃貸人たる地位の留保の場面では、譲渡人と譲受人との間で賃貸借契約の存在が擬制される(605条の2第2項後段参照)。そして、そもそも賃貸借とは目的物の使用収益権を賃借人に与える旨の契約である(601条)。そうすると、HF間におけるFが乙の使用収益権を有するとの合意は、以上の賃貸人たる地位の留保合意の一環としての合意と位置付けられ、よってHF間で留保合意があったということができる。よってFの反論は妥当である。
3以上を踏まえると、賃貸人たる地位は依然としてFが有していた。よって契約⑥に基づく賃料請求としての請求3は認めらえる。なお、譲渡担保契約において弁済期経過後は担保権者が目的不動産を処分する権能を取得するから、これにより担保権者が処分を実行すれば賃貸人たる地位も移転するといえる。もっとも本件では、債務αの弁済期は経過したものの、いまだHが実行をしていない。そうすると賃貸人たる地位の移転は7月の時点でも生じていない。よって賃貸人Fの下で5月・6月分の賃料が有効に生じている以上、両月分の賃料の請求が可能である。
設問3
 Mは所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記手続請求を求めており、M所有、Kの移転登記義務が要件となる。Mは契約⑧(死因贈与)により丙を取得している。もっとも本件ではN県へ丙を遺贈する旨の遺言がある。
 Lは、554条で準用される1023条1項により、丙をN県に遺贈することと抵触する丙のMへの死因贈与部分が撤回されているため、Mは丙を所有していないと反論する。もっとも、554条は「性質上反しない」限度でのみ準用を認めるところ、死因贈与はあくまでも契約であり当事者の意思の合致が必要であるのに対して、遺贈は本人が単独ですることができてしまうため、両者の性質に差があり、単独で可能な遺贈により契約である死因贈与の撤回を認めることは妥当でない。よって死因贈与に1023条は準用されない。
 以上を踏まえると、本件ではKを起点として、死因贈与によるMへの譲渡と、遺贈によるN県への譲渡が存在し、二重譲渡が生じている。この場合、両者の優劣は対抗問題で決する。Mは登記を具備していないから「第三者」に対抗できないところ、N県は「第三者」に当たる。よってMの請求は認められない。

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