令和4年司法試験民事訴訟法再現答案

設問1課題1
 当事者確定基準としては、当事者らしく行動した者を当事者とする見解(行動説)、訴状の一切の記載を考慮して判断する見解(表示説)等がある
1 甲を当事者とする見解(行動説)
 訴訟は実体上の権利義務の存否を争う場であるところ、訴訟において相手方の主張する請求原因を認める行為は、それにより訴訟で争われている権利義務の存在が判断され、自身が義務を負う事を導く行為であるから。そのような行為を行う者は当該訴訟に当事者として積極的に関与している者と評価でき、よって被告として行動しているといえる。
 本件では、第2回口頭弁論期日において、AがXの主張する請求原因を認める旨の陳述をしている。請求原因には原告と被告との賃貸借契約は令和2年4月10日とされているところ、乙の設立は令和3年4月2日であるから、論理的に考えて乙が設立前の日に賃貸借契約を結ぶことはあり得ない。そするとAのこの行為は契約締結時既に存在していた甲の代表として行ったものと見るのが合理的である。よって本件でXの請求原因を認める行為をしたのは甲と言えるから、甲が被告である。
2 乙を当事者とする見解(表示説)
 Xが提出した訴状には、被告が「株式会社Mテック」と表示されている。そして当時「Mテック」とは乙の商号であった。またXが添付した代表者事項証明書には、会社商号、所在地、法人番号、代表者の氏名住所の記載があり、これらを全て乙のそれを示している。なお本件では、賃貸借契約締結日が令和2年となっていたが、代表者事項証明書に乙の設立日は記載されていなかったから、表示のみから契約主体が甲であると推認できたわけでなないため、この点は考慮されない。以上より訴状の記載を踏まえると、被告は乙となる。
 なお、これから手続を続けるにあたっての当事者確定は基準の明確性が強く求められるから表示説が妥当である。
設問1課題2

自白とは、口頭弁論・弁論準備期日における相手方の主張する事実を認める旨の陳述を指す。乙は、第二回口頭弁論期日において、Xが主張する請求原因を認める旨陳述しており、形式的には自白の要件に該当する。もっとも本件では、実体的論理的には乙が締結し得ない契約について自白しているところ、実体的真実に反する自白を成立させて良いか問題となる。
私的自治の訴訟への反映として訴訟資料を当事者の権能とした建前上(弁論主義)、裁判所としては当事者が自白するのであればそれを一応前提とするべきである。また当該自白が真実か否かをその度審理するのでは審理の迅速性を害するし、自白の持つ審理促進・争点限定機能を害することになりかねない。よってこのような場合でも、裁判所は自白として扱うべきである。

 自白が成立すると裁判所はその自白に拘束される(第二テーゼ)。そして、当該自白に裁判所拘束力が生じる結果、相手方としては当該自白が真実と合理的に期待するため信頼保護の観点から自白の撤回を原則として禁止され、例外的に反真実かつ錯誤の立証等があれば撤回できる。本件で乙はこの反真実かつ錯誤により自白を撤回しようとしていると考えられる。
 もっとも、自白の撤回も攻撃防御方法として157条の適用を受ける。「時機に遅れて」とはより早期の提出が期待できたか否かで判断する。Aは時間稼ぎのために一計を案じ確信犯的に自白しているのだから、より早期の提出を期待できたというべきある。「訴訟の完結を遅延させる」とは当該攻撃防御方法の提出を許したとき場合と否定した場合とを比較して前者の場合に審理が長引くか否かで判断する(絶対的遅延)。本件で乙は判決言い渡しの直前に自白を撤回しようとしており、これによりXの請求原因について改めての認定が必要となるから審理が長引く。よって完結を遅延させる。
Aは前述のように確信犯的に行為におよんでおり、当初は認否を明らかにせず「追って認否する」としその後請求原因を自白した後、判決直前になって不意打ち的に自白を撤回しXを混乱させようとしており、信義則に照らし許し難い。そうするとAには故意・又は少なくとも重過失が認められる。
以上より、裁判所はAの自白の撤回を時機後れとして却下すべきである。
設問2
 判例は明文なき主観的追加的併合を各弊害から否定するものの、併合の必要性が各弊害を上回る場合にまで一律に否定する必要もない。本件では、Xが改めて甲を相手に訴え提起しなおすのは非効率であり、またXとしては乙を甲と認識して本件訴訟に追力してきたのであるから、追加的併合を認める必要がある。
1訴訟経済に資さないという点について
 本件では甲と乙に実体的な同一性があり法人格否認とされる疑いが濃厚な事案であるから、Xと乙間で締結されたとされていた賃貸借契約の関係書類等がそのままXの甲に対する訴えでも有力な訴訟資料となる。そうなると旧訴の訴訟時状態を新訴でも流用でき、訴訟経済に反することはない。
2訴訟を複雑化させるという点について
 旧訴被告とは独立した主体に係る新訴の場合だと、両訴間に密接な関係を見いだしがたく、争点も拡散する恐れがあるから訴訟の複雑化につながる。もっとも、本件では甲乙は事実上同一主体であり、また新訴で争われることが見込まれる争点は専ら契約主体が甲か否かという点等に限定されるから、争点が拡散しない。よって訴訟を複雑化させない。
3軽率な濫訴を招くという点について
 本件でXが甲を改めて訴え直さなければならなくなったのは、乙による確信犯的で信義則に抵触するような一計のためであって、いわばXは被害者の立場であり、乙のこのような態度に対応して能動的に新訴を提起するにすぎない。また、Xが乙を甲と見誤ったのは乙の巧みな偽装によるものだから取違についてXを強く非難できない。そうすると、軽率な提訴濫訴を招くという批判は当たらない。
4訴訟遅延を招くという点について
 確かに、契約の相手方が甲か否かという点について改めて審理する必要を生じ審理が長引くともいえる。しかし、甲による訴訟状態追認拒絶が信義則上許されない場合であれば、乙がした自白によりそのままXの請求原因を認めることができる。また拒絶が可能だとしても、本件のごとく乙(甲)による確信犯的・信義則違反的行為による場合に審理の遅延を理由にXに不利益を与えるのは妥当ではないし、Xが改めて訴えを提起するよりかは、多少なりとも追加的併合の方が審理に資するのであるから、訴訟遅延を招くという弊害は小さくこの点を強調するべきではない。
 以上を踏まえると、併合による弊害よりも必要性が上回っていると評価できるため、Xの申立ては認められる。
設問3
1文書とは、可読的符号・記号を用いた記録であってある程度永続して存続するものを指す。USBメモリはある程度永続的に存続するものではあるが、情報がデータとなって記録されているのであり、可読的ではない。よって「文書でないもの」と言える
2現代社会におけるUSBメモリの普及に鑑みると、多くの人が中に重要情報等を保存しているものといえ、これを証拠として取り調べる必要があること。
 そして、231条の趣旨は文書ではないが定型性があり人が情報を保存するために用いるものについて、真相解明・正確な事実認定のためにこれらに証拠としての機能を認める点にあるところ、USBメモリはデータとして情報を保存でき定型性があること、前述した性質上多くの人が情報記録に用いていること等から、231条の趣旨が同様に妥当する。また、USBメモリの情報には暗号等によりその正確性を確保する仕組みがあるから、形式的証拠能力である本人の意思に基づく作成(228条1項)を審理可能な基礎がある。
以上を踏まえると、USBメモリは「文書でないもの」として証拠として取調べることができる。


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