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カリン姫 ①ピクルス公国編

カリン姫を知ってますか?

「ハハハハ」
と笑いました?
ええ、それが正しいリアクションです。
だって、フルーツ王国の第2王女ですからね。

「えっ、誰? それ? 」
って思いました?
まあ、それは仕方ないことです。
だって、フルーツ王国の45%の国民が知らないのですから。

フルーツ王国の王家と言えば、もちろん

ドリアン国王
フルーツ王国の最高権力者です。
ですが、鼻つまみ者です。
国王の前で「臭い」という言葉は禁句です。

デラウェア王妃
フルーツ王国を支えるしっかり者です。
民間フルーツでありながら、高級フルーツを差し置いて王妃になりました。
なので、地位と名誉が大好きです。

お二人の間にお産まれになったのが、

メロン王子
そろそろマスクをつけて、高級マスクメロンにならなければならないときなのに、

「偽りの仮面をつけず、素顔のまま、ありのままに生きる。」

と言ってつけません。
なので飛行機に乗っても降ろされるし、
餃子を食べに行っても追い返されます。
ただご自身は、プリンスメロンになりたいだけなのですが…。
高級マスクメロンより、リーズナブルプリンスメロンになりたいそうです。
カッコつけて損するタイプのバカです。

サクランボ姫
天真爛漫なおバカ姫です。
後先を考えない「錯乱」した言動で人気者です。
いつか爽やかなレモンさんとスカッシュして、浮かんだり沈んだりしたいと夢見てます。

ここまでは皆さんご存知ですね。
ここからが今回の主役のカリン姫の話になります。

カリン姫
王家の末っ子。
唯一、引っ込み思案で果物見知りが激しいです。
大人しい性格なのです。
だからと言って賢いわけでもありません。
悲劇のヒロイン気取り系のバカです。
いつも思ってます。

「私はどうして甘くもないし、
柔らかくもないのかしら? 
きっと私はお父様とお母様に誘拐されてフルーツ王国に来たんだわ。
本当の私のお父様とお母様は、莫大な身代金を払えず、いや、きっと払うのが惜しくなったんだわ。
だから、ズルズルとここにいるのよ。
私、フルーツじゃないのに。」

渋くて、固い自分のことをとてもフルーツだとは思えませんでした。

国の行事で王族が全員参加だと決まっていても、前日の晩から眠れなくなり、行事の直前におなかが痛くなってしまいます。
なので参加したことがありません。
なので知らない国民がたくさんいるのです。

写真もほとんど出回ってません。
シャッターを切る瞬間、必ずといっていいほど目を瞑ってしまうのです。
あまりのブサ……いえ、王族に相応しくない写真写りに、王族側がストップをかけているのか?それともマスコミが忖度して表に出さないのか?
どちらかわかりませんが、写真がないのです。

この頃、フルーツ王国にやってきた新しいフルーツたちは、見た目と糖度を自慢してばかりいます。
見た目もなんとなく野暮ったく、糖度など無いに等しいカリン姫を余計に憂鬱にさせます。

「私はフルーツじやないんだわ。
きっとどこか別の国の王女なのよ。」

王女であることは、必須条件のようです。

カリン姫は、カリンの食べ方を検索しました。

アルコールか、砂糖や蜂蜜につかることで、食べられるようになるようです。

「やっぱり私は、フルーツ王国ではなく、
ピクルス公国の王女だったんだわ。」

「ピクルス公国」、愛称「おこうこく」。
お漬物たちの国です。
カリン姫はどうしても本当のお父様とお母様に会いたくなり、居ても立っても居られなくなり、フルーツ王国を飛び出しました。

「私のことは忘れてください。カリン姫」

書き置きを置いて出ましたが、誰も読むことはありませんでした。
だからと行ってカリン姫を探すものもいませんでした。
ドリアン国王も、
デラウェア王妃も、
メロン王子も、
サクランボ姫も、
2時間以上会わないと、そのフルーツを忘れてしまうのです。
夕食の晩餐では、

「初めまして!!!!! 」

と自己紹介し合うフルーツ王国の王族たちを見ることは、珍しいことではありません。
いつものことです。
なので、カリン姫は王族からもすっかり忘れられた存在になりました。

カリン姫は、クィーンエリザベスメロン二世号に乗って、ピクルス公国に着きました。
時間はかかりましたが、移動手段は豪華客船しか知らなかったのです。

外国では、フルーツ王国の王女というだけでチヤホヤされます。
ピクルス公国の最高権力者、奈良漬け大公に会うことができました。

「匂いはプーンとアルコール臭いし、
色はまっちゃっちゃだけど、形がなんか似てる。
ひょっとしたら私の本当のお父様かも? 」

期待して見回した。

「わ〜し〜は〜な〜ら〜づ〜け~た〜い〜こ〜う〜で〜あ〜る〜。」

凄くお年寄りでした。

「…ひいおじい様かもしれない。」

「な〜に〜か〜よ〜か〜ね〜? 」

「私、カリン姫。ひょっとしてあなたもカリンですか?」

奈良漬け大公は、目をつぶって思い出そうとした。

「え〜っ〜と〜、た〜し〜か〜う〜り〜だ〜っ〜た〜よ〜な〜き〜が〜す〜る〜。
け〜ど〜、む〜か〜し〜の〜こ〜と〜だ〜か〜ら〜わ〜す〜れ〜た〜。」

カリン姫は、実のひいおじい様でも違うと言い切ることにしょうと思いました。

せっかく来たのでこの国を観光しようと思いました。
もしかしたら、私をみそめるものが現れて、
アバンチュールに発展するかもしれないというまるでモテない大学生のような妄想を心に抱いたからです。

もし、素敵な彼をGETできて、この国で所帯を持てばフルーツ王国に帰らなくてもよくなるのです。

案内役として、ラッキョ大臣がついてくれることになりました。
白くて、つるんとした男前です。

「さあ、この国を案内いたします。」

爽やかに案内してくれました。

漬物博物館で、漬物の歴史を勉強したり、
漬物美術館で、芸術的な漬物石を鑑賞したり、
漬物工芸センターで、昔ながらの漬物樽作りのワークショップを受けたりとカリン姫にとって実に退屈な時間を過ごしました。

「もっと庶民の生活が見たいわ。」

ピクルス公国で一番の繁華街、
『千枚漬け筋」
に出ました。
とても賑やかです。
高級ブランド塩を売る店が立ち並び、
その真ん中には
梅宮辰夫の銅像がそびえ立っています。
お洒落な街並みですが、
どうもしっくりこない感じです。
街がと言うより、国民たちがです。
会うもの会うもの、塩辛いか、辛いか、酸っぱいか、のどれかなのです。

「我が国の国民は、酸いも辛いも噛み分けた国民ばかりです。」

自慢げにラッキョ大臣は言いますが、カリン姫は甘みも欲しいと思いました。
と、思ったところに現れたのが、福神漬けです。

「ピクルス公国でもっとも甘いものです。」

確かに甘いし、カラフルだし、目立ちます。
しかし、お母様に

「今日のおやつは、福神漬けよ。」

と言われたら、きっと激怒してしまうだろうなーと思いました。

街を歩いていると国民の声が耳に入ってきます。
この国は年功序列が重んじられる国のようです。
やれ、
「何年漬かっているから偉い」
だの、
「まだ、3年ぐらいじや漬物と呼べん」
だの喋ってます。

この国のランクは、

1・漬かっている長さ
2・漬物石の重さ
3・しわの多さ

で決まっているようなのです。
だから、街はお年寄りばかりが幅をきかせているのです。

「もっと若いものはいないの? 」

ラッキョ大臣はカリン姫の恋愛したいムードを読み取り、

「わかりました。我が国にも浅漬けというものたちがおります。
かなり若くパリパリしております。
それでは明日、9時にお迎えにあがります。
9時までに玄関にお越しください。」

と言って、高級ホテルに置いていかれました。

「あー明日が楽しみー。」

その晩は、漬物のフルコースを召し上がり、体から塩をふくような気分です。

「もうしばらく塩はコリゴリ…」

案の定、デザートは
福神漬けアラモード
というものでした。
プリンアラモードのプリンが、福神漬けになったものでした。

「私、歓迎されてる? 」

疑問に思いながら、眠りました。

翌日、ドアを叩く音で目を覚ましました。

「カリン姫! カリン姫!
もう11時ですぞ! 」

ラッキョ大臣の声でした。
約束の時間を2時間も遅れてます。

昔から朝が苦手でした。
カリン姫の特集を組んでくれた早朝のテレビ番組
『王室アルバム』
という番組を見るために早起きしようとしましたが、昼近くになって目覚めてしまったほどです。

「なんで、王室の番組をゴールデンタイムにやらないのよ!!!!!
みんな、見たがってるのに!!!!! 」

などと文句を言いましたが、あとの祭りでした。
録画するという知恵もありませんでした。
そして、今回もです。
寝ぼけたまま、ドアを開けるとラッキョ大臣が息を切らせて立っていました。

「2時間もドアを叩くのも大変ですぞ。」

ラッキョ大臣の両の手は赤く腫れ上がっています。

「さあ、急いで。」

取りあえず、顔を洗って、
化粧をし、
シャワーを浴び、

「あっ、いけない!!!!! 」

シャワー室から出て、
再び化粧をし、
鮮やかなドレスを着てラッキョ大臣のところに着いたときには、もう12時半を過ぎてました。

「あー、もうダメでしょうなー。」
「どうして?」
「浅漬けという奴らは、一晩だけ我が国にいて、朝が来たらすぐに旅立って行くのです。」
「えっ? そんなに早く? 」
「ええ、ただ一泊泊まるだけで出ていくのです。そういうのを我が国では、『酢泊り』と言うのです。」
「何が酢泊りよ。貧乏な奴らめが!!!!! 」

カリン姫は金に困ったことのないお嬢様の最も嫌な部分を露わにして怒り出しました。

「カリン姫、落ち着いてください。」
「これが落ち着いていられるもんですか!!!!! 」
「まだこの国には、いいお漬物がたくさんありますので…」
「もう辛いのも塩辛いのもコリゴリよ!!!!! 」

そのとき、心の中でカリン姫は、
『ん?????
このラッキョ大臣って男…
結構、いい男じゃない。
なんと言ってもしわくちゃじゃない。
色白でツルンとしてる。
辛くも塩辛くもない。
甘酸っぱいし。
ひょっとしたら私とお似合い?』

ムフフとこみ上げて来る笑いを押し殺しながら、何事もなかったように言ったのです。

「もういいわ。男なんて連れてこなくても。」
「はぁー、そうですかー。」

思わず、安堵のため息をついてしまうラッキョ大臣でした。

「あなたがいればねっ! 」

カリン姫はウィンクをしたつもりでした。
しかし、カリン姫は片目だけつむるということができなかったので、両目をつむったのです。

ラッキョ大臣は、どうしてカリン姫が突然両目で瞬きしたのかわかりませんでしたが、なんとなく自分の状況が大ピンチだと察しました。

「あーそうだ。これから妻と買い物に行くんだった。」
「えっ? 」

カリン姫の脳みそは真っ白です。
心の中で
『それでも構わない、あなた無しで生きていけないものー!!!!!
って、言ってしまおうかしら?
いや、ダメよ。
私はカリン姫よ。
フリン姫じゃないわ。』

カリン姫は最低限のモラルがありました。
それ以上に世間体を子供の頃から必要以上に気にするところがあったのです。
なんとか冷静なふりをしました。

「せっかくの申し出だけど、お断りするわ。ごめんなさい。」

カリン姫も間違っていることはわかっていましたが、
この状況でカッコいい女はこんなことを言うと思い込んでしまったので、言ってしまいました。

「はぁ? …あー、どうもそうでしたかー…
仕方ないなー、ハハハハ。」

ヘタクソな芝居でしたが、ラッキョ大臣の優しさに涙しました。

「ああ、この国にいる必要がなくなっちゃったわ。」

思わず独り言を口走りました。

「それならアルコール王国へ行くのはどうでしょう。」
「アルコール王国?!!!!! 」

アルコール王国。
昔から大人から支持を集めるかなりの大国でした。
世界で最もお金持ちの国の一つです。

「そうねー、どうせならフルーツ王国より、大きな強い国の方がいいわ。」

あまり口に出して言わない方がいいことを言ってしまいました。

「それにアルコール王国の国王ワイン国王は、元はフルーツ王国の産まれです。
カリン姫様は歓迎されること請合いです。」
「じゃあ、行ってみる!!!!! 」

ラッキョ大臣はとっととカリン姫に出ていってほしかったのか、2分で国王専用ジェット機を用意しました。

「皆さん、ありがとう!!!!! 」

カリン姫は国賓なので、ピクルス公国の官僚たちが総出でお見送りです。
みんな、なぜカリン姫が来たのか?
さっぱりわかりませんでしたが、とっとと出ていってくれるので、心からの笑顔でお見送りしました。

「さようなら。ピクルス公国に残れなくてごめんなさい。恨むならラッキョ大臣を恨んで〜」

カリン姫は、たくさんのピクルス公国の国民たちを悲しませることを申し訳なく思いながら、アルコール王国に旅立ったのでした。

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つづく

                     イラスト あぼともこ

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