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カリン姫 ②アルコール王国編

カリン姫はアルコール王国のことを考えるとワクワクし過ぎて、疲れてしまい、ちょっとウトウトした頃にピクルス公国大公専用ジェットは空港に着きました。
アルコール王国のドブロ空港です。
窓から見ると数多くのアルコール王国の国民たちが出迎えています。
手に旗を持ち、さかんに振っています。
が、その旗に描かれてるイラストは、サクランボ姫でした。
ピクルス公国からの連絡で、フルーツ王国の王女が来ると聞いて、きっとサクランボ姫だと思ったのでしょう。

カリン姫はおなかが痛くなりました。

その様子を見たラッキョ大臣の配下、紅ショウガ補佐官が慌てて、ジェット機を降り、旗を降ろさせました。
そして、何か言ってます。
やがて、聞こえてきました。

「カリン姫! カリン姫! 」

カリン姫コールです。
よく聞くと

「カリン姫? カリン姫? 」

というイントネーションでしたが、カリン姫はそんなことに気がつきません。

「私、歓迎されてる!!!!! 」

すっかり機嫌が良くなったカリン姫はタラップからアルコール王国の国民に満面の笑みで手を振りました。

アルコール王国の最高権力者、ワイン国王まで直々にお出迎えです。
ワイン国王は、真っ黒けの瓶で、中に液体が入ってることだけがわかります。
ラベルは読めません。
外国語の上にハゲハゲだからです。

「ようこそカリン姫。
世はワイン国王である。
世の産まれはフルーツ王国じゃ。
ちょうどドリアン14世のときだったわい。」

今のドリアン国王は21世なので、カリン姫には想像もつかない古い話です。

「その頃の人間は、サル? 」

一同、驚愕のあまり静まり返りました。

「わしは、サル酒ではない!!!!!」

一同に重苦しい沈黙が訪れました。

そこで気を回した紅ショウガ補佐官が、

「もー、カリン姫様ったら、ほんとに面白いんですから、もー、アハハハ」

これを聞いた一同は、

『あーこれは笑ってもいいんだ。
いや、絶対に笑わなくてはいけないんだ。』

と理解し、一同は大爆笑しました。

「カリン姫様、私はこの辺でピクルス公国に帰ります。
それでは、ご機嫌よろしゅう。」

紅ショウガ補佐官はピクルス公国大公専用ジェット機に乗って帰りました。
少ない出番なのに大活躍です。
ほんのちょっぴりでもちゃんといい味を出す紅ショウガ補佐官に感謝しました。

カリン姫はアルコール王国を観光しました。

世界遺産アルコールワット遺跡は、なんだか古い建物が並んでるだけでした。
説明を受けてもよくわかりません。
興味もないのにお寺や神社に連れて来られてしまった修学旅行生並に退屈しました。

世界で一番お高いタワー、
『シャンペンタワー』を見学して、
映画によく出てくる
『エンパイアステートビール』を見学して、
ガジュマルの木がたくさんはえている
『あわもり国定公園』を見学しました。

カリン姫は

『なんてバブルな経済なのかしら? 』

と思いました。

観光に連れて行ってくれるのは、国選観光ガイドのジンとニックです。
ジンの方は、奥さんのライムと共にフルーツ王国に長年住んでました。
今はアルコール王国に住んでます。
ジンはアルコール王国でひっぱりだこなので、ベースをこちらにおいてます。
ライムもアルコール王国の方が居心地がいいようです。
ニックの方も大概の酒と仲良くできて、相手を立てられるので、こちらもひっぱりだこです。
長年の水商売の賜物です。
このコンビは最強と言われているらしいです。
舐めてはいけません。
ほんとに強いですから。

夜、アルコール王国のウィスキー宮殿では、カリン姫のために歓迎の宴を開いてくれました。
アルコール王国の偉いものたちが勢揃いです。
ワイン国王始め、梅酒など元々フルーツ王国にいたものたちは、特に親切にしてくれました。
みんな、陽気で楽しそうです。
ただ自分の話は長々とするのですが、カリン姫の話はろくに聞いてないのです。
たぶんアルコール王国の国民の特徴なのだと思います。

ワイン国王には、2人の王子がいました。
テキーラ王子

リキュール王子
です。

「君がカリンだとか、王女だとか、そんなもの俺には関係がない。
興味もない。
ただの一人の女というだけだ。
だけど…俺、黄色いフルーツ嫌いじゃないぜ。」

これ、テキーラ王子の言葉。

「お嬢さん、君がフルーツ王国を捨てるというのなら、僕は君のために瓶を作らせよう。
僕の中で浮かんでみるがいい。
そして、どっぷりと漬かってみるといい。
そこで見えてくるのが、誰にも見せたことのない本当の僕さ。」

これ、リキュール王子の言葉。

カリン姫は思いました。

『お酒のくせに、自分に酔ってるわ。』

見るからに激しい雰囲気のテキーラ王子。
見るからに優しく甘い雰囲気のリキュール王子。

アルコール王国の女たちは皆、2人の王子にぞっこんです。
でも、カリン姫はこの兄弟の少し呂律の回らない感じにいらっとしました。
まあ、モテてる感じは少し味わいましたが、あちらこちらで同じことを繰り返しているのでウンザリです。

ここの国民は正気でいるときが少ないので、あまり信用ができません。

が、信用できる男性にも出会いました。
『シュシショウドク(手指消毒)』
という殿方です。
大人目線なものたちが多い中、
この方は全てのものに優しく、慕われてます。
それどころか
『世界の救世主』
と呼ばれてます。
アルコール王国の新たなリーダーです。

一目惚れしました。
彼の前では、どこの国のものでも、揉み手してしまいます。
爽やかな感じがたまりません。
そして、「シュシ」という部分が

「同じだわー」

と思ったのです。
フルーツには、シュシ(種子)がつきものですから。

シュシショウドクとは、宮殿で出会いました。
宴に参加するわけではなく、玄関口に立ち、
通るもの全てと握手しておりました。
握手してもらったものは、物凄く安心感に包まれるのでした。

「僕は全てのものたちを救いたいだけ。」

ストイックなクールさを持っていました。
今やアルコール王国1のインフルエンサーです。
が、自身は強く否定しています。

「宿敵インフルエンザみたいに言わないでほしい。」

そうです。

その辺もかっこいいと思いました。

「私、あなたが大好きです。
私と結婚すればあなたは、フルーツ王国の王族になれるわ。
どう? 
悪い話じゃないと思うわ。」

するとシュシショウドクは、表情一つ変えずに、

「応援ありがとう。みんなの声援のおかげで僕も頑張れるよ。」

と、かる〜く返されました。

全てのものたちのために頑張ってるものは、誰にでも優しい。
そこが逆に冷たいなと思いました。
シュシショウドクは、やっぱりなんか冷たかったです。

「ふん、何よ。
あんな指用のアルコールに漬かっても、
私は食べられるようにならないわ。」

強がってみました。

友達ができました。
色白の綺麗なお酒です。
ホワイトリカーちゃんです。
フルーツ王国出身のものたちもたくさん仲良くしてくれているようです。
凄い人気です。

「私、リカーよ。」

というだけの『リカーちゃん電話」は、かなり昔からたくさんの人が電話をかけたそうです。

「人気があるって、いいなー。
よくモテるでしょ? 」
「いいえ、同性ばっかり。
それも子供か大半。
小学校高学年になったら卒業しちゃうのよ。
たまに男性もいるけどちょっと気持ち悪いのが多いわ。」

などと言うけど、大人の女性にも深く愛されていることを知ってます。
フルーツの甘さで誘い、
リカーちゃんが酔わせるのです。
特に若い女性には、お酒の入口としての役割を充分に果たしてます。
そういう謙遜するところも好きです。


リカーちゃんに誘われて、カクテルパーティーというのに参加しました。
ジンとニックが主催です。
お酒が混じり合うという響きに
いやらしい、
不純な、
いかがわしい、
ふしだらなイメージを持ってしまったのですが、
参加しました。
なかなか濃厚な愛の交換場になってました。
ジンとニックはお互いに女性とデレデレしてます。
ジンはリッキーという女性にゾッコンです。

『ジンにはライムという奥さんがいるのに…』

と思いましたが、ライムはライムでコロナというビールに入れ込んでいるようです。

ニックには、ブラーという奥さんがいるらしいてすが、このパーティーのマドンナ的存在、カンパリ嬢にメロメロになってます。

「きっと我々ならいいアルコール王国1のカップルになれるよ。」
「いやよ、メジャーになる気がしない。」

リカーちゃんは、いい男がいないとわかって、恋人の氷砂糖さんとラインしっぱなしです。

カリン姫はナンパされたらどうしょうと身構えていたのですが、誰もやって来ず、
こちらからお仕掛けようとしたのですが、半分ぐらい元フルーツ王国のジュースだったので、ハメを外すことができませんでした。

「うーん、つまらない。」

恋に奔放なのも憧れます。
しかし、カリン姫が求めるのは、心を焦がす恋なのです。
アルコール王国は恋愛初心者のカリン姫には、クラクラする国でした。
気分がハイな国民は親しみが持てました。
自分も気分が良かったです。
しかし、ずっと気分がいいままでいたくなってしまうのです。
平常心になるのが怖くなってしまうのです。
なので、ずーっとアルコールに浸っていたくなりますが、

『このままでいいのかしら?』

疑問にも思います。

夜が騒がしいのも苦手です。
街も汚らしいです。

どうもここで暮らしていく気になれません。

「カリンを食べられるようになるには、えーっと…お酒の中か…」

ふと思い出し、リカーちゃんのスマホを取り上げました。

「今すぐ会いに行くわ。」

と打ち込みました。

「なんで? 」
「今すぐ会いに行きましょう!!!!! 」
「氷砂糖に? 彼はスィーツランドにいるのよ。」
「ええ、私、今すぐスィーツランドに行きたいの。」
「えーっ!!!!! 」

カリン姫は、リカーちゃんの手を引っ張ってワイン国王のいるウィスキー宮殿へ行きました。
ここの国民は皆、夜ふかしなのでワイン国王も起きてました。

「私、スィーツランドに行きたいの。国王専用ジェット機出してください。」

ワイン国王は、何がなんだかわかりませんでしたが、わからないことが普通だと思ってました。
シラフになってから考えればいいという思考の持ち主です。
まあ、シラフになることはほぼないのですが‥。

国王専用ジェット機を用意してくれました。
パイロットには、どこから見てもビールに見えるけど、ビールじゃないお酒が選ばれました。

「ええ、私、どうせビールじゃありませんから‥。安いし。」

といじけたことを言います。
でも、ちょっと安いことが自慢なのではないか? 
と、カリン姫は思ってます。

「アルコール王国のみんなー、私はここに居てあげられなくて、ごめんなさい。
でも、フルーツ王国から毎年、たくさんの国民がやってくるわ。
私の代わりに仲良くしてあげてねー。
それから、酒も恋もほどほどにねー。」

カリン姫とホワイトリカーちゃんを乗せたワイン国王専用ジェット機は一路、スィーツランドへ向かうのでした。

つづく

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                       イラスト あぼともこ

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