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『真宮地帯/ジョーとヤヨイ』

◉あらすじ
郷土史研究会に所属する縄文好きの男子高校生・縄一郎と、弥生好きの女子高生・弥生が、岡崎市で始まった第三次真宮遺跡の発掘の手伝いに参加。それぞれ遺物の土器片を内緒でポケットに入れて水でこすり洗しているうちに縄一郎は縄文村にタイムスリップする。
その当時は縄文の村に弥生人が侵入しつつあった。縄文と弥生の村が争いに。
どうなる真宮。
◉登場人物
郷土史研究会
   縄文の縄一郎(高校三年男子)
   弥生の弥生(高校三年女子)
   顧問 土井垣
縄文村
   オヤジ
   オフクロ
   エ(兄)
   オト(弟)
   スエ
   子ども男
   子ども女
   村びと数人
   犬(キワ)ぬいぐるみ
弥生国家(男女)
   カシラ
   テシタ
   ブチョウ
   カチョウ
   
 
 
 
 
 
◉シーン① 真宮遺跡発掘現場
●幕前
●顧問の土井垣先生と生徒のジョーとヤヨイがしゃがみ込んでいる。
●背後に【岡崎市真宮遺跡・第三次発掘調査現場】の看板。第三次にバッテンして『大惨事』と落書きしてある。
●腰の高さほどまで土壁の様子を表すため看板か紙で描いておく。
●三人はコテを使って土溝の中にしゃがみ込んでいる。土の壁面を丁寧に削っては、手にした土の中に遺物がないか確認し、土を箱の中に入れてゆく。夢中で作業をしている。その場面が三分ほど。
●音響は工事のような重機の音、人が声を掛け合う様子。
●舞台上手に水場が作られている。
●時計をチラッと見る土井垣先生。
土井垣 「ジョー、どうだ。」
縄一郎 「(残念そうに首を振る)」
土井垣 「ヤヨイは?」
弥生 「(同じように首を振る)土井垣先生は?」
土井垣 「(首を振る) 我が郷土史研究会のエースの縄一郎も弥生も空ぶりか。これで五日間の発掘作業援助も終了、君たち三年の夏休みも終わりだ。」
縄一郎 「郷土史研究会からも引退。最後を飾って、甕棺でも      掘りだしたかったなぁ。」
弥生「ああ、悔しい。明日から受験戦争の戦士に戻るわけね。」
土井垣「(笑いながら)お疲れさま。君ら、学部、決めたのか?」
縄一郎「文学部。人間の豊かな感性を探究したいな。」
弥生「私は政治経済学部かな。感性では食べていけないし、現実社会は政治と経済で動いているんで。私は名古屋。だし、大都会を知っていますからね。」
縄一郎「名古屋だし、って(弥生の口まででからかう) 清州だろ。」
土井垣「(ニコニコしながら)ロマンチストのジョーイチロウと、リアリストのヤヨイ。君たちらしいな。さあ、暑かっただろ、手や顔を洗って。気をつけて帰りなさい。」
縄一郎「先生は?」
土井垣「先生はもう少し残って、手伝うよ。」
●ジョーとヤヨイは舞台上手の水道の蛇口に向かって歩きながら、土井垣が遺跡を下手に消えてゆくのを確認して、弥生が立ち止まる。振り向いて土井垣を見ていたジョーは急に立ち止まった弥生にぶつかる。
弥生「ジョー、やったよ、ついに。」
縄一郎「何を?」
●ヤヨイはジャージのポケットに手を突っ込むと、あたりを警戒しながら掌の中でそれをそっと見せる。
縄一郎「アッ!」
弥生「シッ!(指をジョーの唇に当てる) うかつに声を上げるんじゃない!」
縄一郎「そ、それは。」
弥生「線状刻の文様。」
縄一郎「薄手の土器口辺部、そしてたおやかな曲線美。」
弥生「明らかに・・」
弥・縄「初期弥生式土器。」
縄一郎「(興奮を隠せずに) どこで?」
弥生「弥生時代の竪穴式住居の縁を歩いていたら、落ちていた。」
縄一郎「落ちていたって、ふうん、落ちているもんかね。」
弥生「それがさ、落ちていたから。発掘の作業で突っかかって転ばないように危険物除去のために、仕方なく・・・」
縄一郎「仕方なく?」
弥生「そう、仕方なく拾って、捨てておいたんだ。ポケットの中に。」
縄一郎「す、捨てたんだね。ポケットに。」
弥生「そう、安全作業所の環境整備のためだから。」
縄一郎「環境整備のために拾って捨てたんだ。」
弥生「人助けなんだよ。」
縄一郎「(なるほどとうなづきながらポケットから何か取り出す)  じつは。僕も作業環境整備と危険物除去のためにこれを拾って捨てておいたんだ。ポケットの中に。」
弥生「(それを見て)アッ!な、縄目紋!」
縄一郎「そして分厚い低温焼成の素朴な・・・」
弥・縄「晩期縄文式土器。」
弥生「ど、どこでこれを・・・?」
縄一郎「晩期縄文時代の人骨の埋葬地の周辺で。」
弥生「そっと、(あたりを見回し)かたづけよう。」
●二人は上手まで歩く、周囲を気にしながらゆっくり進む。遠くで夕立の遠雷が聞こえる。水道まで来て水を出し、洗い亀の子たわしで土器片をこすり始めた途端に光。縄一郎、ポケットに土器のかけらを仕舞う。
●少し遅れて大音響の雷鳴がおきる。
●頭を抱えてしゃがみ込む二人に、さらにもうひとつの落雷、今度は稲妻と雷鳴が同時。「どっかん!」
弥生・縄「う、わー!」
●大きな効果音とぐるぐる回る多彩な照明。大きな悲鳴を上げながら縄一郎は上手に、弥生は下手に転がってゆき、幕が上がってゆく。
 
◉シーン②真宮・縄文集落(初日)
●朝霧が立ち込めている。縄一郎が気絶して転がっている。朝の静けさ。鳥の声が聞こえる。そこへ縄文の衣装(鹿などの皮衣)を着た男たちが帰ってくる。仕留めた獲物の猪・いのこを三人でひきずってくる。収穫を喜び、実に意気揚々とした凱旋ムードである。
●オヤジが横たわる縄一郎に気づいて、近づき、皆に知らせる。皆は荷を置いて警戒しつつ、興味を抱く。エとオトが手にしていた弓の先で縄一郎の脇をつつく。縄一郎、目覚めてあたりを見回す。
縄一郎「霧?・・森の中?・・」
●縄一郎、自分を取り囲んでいる数人の縄文人に驚き、警戒の体制を取る。
縄一郎「だ、だれ?」
●その声につられて警戒感なく、集まってくる数人の縄文人に縄一郎は取り囲まれる。縄文人に顔を触られたり、着ている衣服の裾を不思議そうに撫でられたり引っ張られたりする。
●恐怖のために硬直してしまう縄一郎。動きをとめて縄文人たちの動きを見ている。
●霧が晴れてゆき、背景に縄文晩期の竪穴式住居が見え、その向こうに矢作川が見渡せる。(背景幕に画いた絵でもよい)
オヤジ「あんた、見たことない人だわな。どっから来ただん?(縄一郎の服をさわりながら) ええもん着とるじゃん。わしんがとうのとかえっことくれん。」
「わしはこれがええわ。(縄一郎の靴を脱がそうとする)」
オト「ちょいまちん。それはわしも欲しいだで、ふたつあるだで。こっちは俺がもらうで。」
オヤジ「(一瞬考える)ほうだな、ふたつでひとつに使うもんだでおまんがとうは仲良くおみやいこにしりん。」
「ほうだな。これは地べたが、じゅるいときに重宝しそうだて。」
●ゆったりした口調で、のんびりと間延びした話し方。
縄一郎は自分の服や帽子や靴に興味を持ち、触ったり、脱がそうとする縄文人の様子に硬直したまま、考えを巡らしているようす。
●エとオトはそういいながらも片方ずつ自分のものとする。
「ほしたら、オヤジ、俺とオトでこの履物貰うで。」
オヤジ「ほうか、貰ったらええわ。仲良くお見合いこで使いん。でもちゃんとお礼はせなあかんぞ。」
オト「うん。」
●オヤジの言葉に従ってオトは収穫したいのこ(猪)の前足を石斧で叩き斬って縄一郎に差し出す。
オヤジ「ん、偉いぞ、オト。」
オト「うん、オヤジがいつも、取り換えっこが大事と言っとるから。」
「ほだほだ、自分のものと相手のものを交換するだわ、それが仲間だわ。」
●オトは縄一郎にいのこの前足を差し出して、受け取るように「ほれ、ほれ」とうながしている。
オト「ほれ、ほれ、いのこの足と、履きものを取り換えっこしよまい。」
●そうしている横で数人の子どもが葬列を作って近づく。子どもたちは抱いていた犬を大切そうに地面に置き、見つめている。沈んだ雰囲気である。その中の一人が言う。
スエ「オヤジ、キワが。狩りでいのこに踏まれて。その前足で。(いのこの足を持った縄一郎を睨みながら大きな声で泣き始める。)」
●縄一郎は猪の前足を受け取り硬直したまま。舞台は暗転して縄一郎にスポットライトがあたる。縄文人たちは暗闇で動きを止めている。
●スポットライトの中で縄一郎が立ち上がりいのこの足を持ったまま、大げさな身振り手振りで独白をはじめる。
縄一郎「何を言っているのか、さっぱり、わからん。どうなってるんだ。この人たちはどこから来たんだ。言葉もわからない。身なりも変だ。あ! コスプレか? コスプレイヤーがイノシシ狩りをしていてるんだな。いやいや手が込みすぎだ。それにコスプレイヤーなら必ず『撮り子』がいるはずだ。(周囲を見回す)  いない。コスプレイヤーじゃない。鹿の皮衣を着ていて、石斧を使って、あんな(背景の家を指さし) 縄文式の竪穴式住居に住んでいて、まるで、まるでここが縄文晩期みたいじゃないか! (どうん!という効果音)」
●縄一郎、自分で口にした「縄文晩期」の言葉に自分で驚く。
縄一郎「ま、まさか。ここは縄文時代で、あの人らは縄文人だというのか?」
●縄一郎、はっとして、ポケットから土器のかけらを取り出してみる。
●その間に舞台が明転し、夢中で独白を続ける縄一郎の衣服をオヤジやオトたちが脱がし、自分の皮衣と交換している。
縄一郎「たしかさっき、ヤヨイと水道でこの土器のかけらを洗って、その時、稲妻が走って、落雷がおちて、僕は気絶して、目が覚めたらここにいた。あの場所は縄文晩期の遺跡の発掘現場だった。まさか、まさか、ぼくは縄文時代にタイムスリップしたというのか? (どうん!という効果音。)」
●ハッとして自分の身なりの変化にきづく縄一郎。皮衣に驚き、匂いを嗅ぎ、何か叫ぶ。
縄一郎「く、臭い。」
●それを聞く風でもなく、オヤジやエ、オトたちは、スエの葬儀に列をなして参加している。
スエ「ばか。」
縄一郎「(言葉がわかって驚く) 馬鹿! 馬鹿って言ったね。」
スエ「ばかを造らないかん。(そう言いながら泣く)」
縄一郎「あ、あ? 馬鹿を造らないかん。確かにそう言った。君確かにそういったね。」
●うなずくスエ。村の新参者である縄一郎に気がついて近づいてくるスエは縄一郎を指さしてさらに命じる。
スエ「お前、ばか穴を掘れ。」
縄一郎「僕? 僕に言っているの? 馬鹿穴?」
スエ「お前、バカ、穴を掘れ。」
⚫︎スエはそう言いながら村の上手の塚を指差す。そこには貝塚がある。驚いて駆け寄る縄一郎。塚の中に手を突っ込む。
縄一郎「貝だ。しかもアサリや蛤が。ここは岡崎の真宮遺跡。三河湾から二十キロも内陸なのに。待てよ。」
⚫︎興奮しながら舞台の背景の土手に駆け上がり眺める。
縄一郎「海だ。僕が気絶するまでは矢作川だったところに、海が広がっている。ここが真宮遺跡の場所なら・・かつてここは海辺だったんだ。(どうん!)」
スエ「はよはよ、馬鹿を掘れ。」
縄一郎「(考えながら独り言) そうだ。縄文海進だ。縄文時代に地球が温暖化し三河湾はこの岡崎の中部まで海がはいりこんでいたと読んだことがある。やっぱり、ここは今・・僕は今・・縄文時代にきてしまっているんだ。(どうん!という効果音) 真宮遺跡は貝塚はまだ発見されていない。小針貝塚や安城の堀内貝塚どちらも矢作川西岸だ。僕は矢作川東岸の真宮貝塚という新発見をしているんだ。(どうん!)」
スエ「なに言っとるだん、お前、はよ、バカ穴をほらんか。」
縄一郎「ばかバカ言うなよ。ここに掘るのか?」
スエ「ほだほだ。」
縄一郎「ほだほだ、ん? ほだほだはそうだそうだってことだよね。あれ? うちのおばあちゃんと同じ言葉だな。ここの人は古い三河弁で喋っているのと違うか? 縄文人がどんな言葉を使っていたのかは現代でも謎だった。これも世紀の大発見だ。このあたりの三河弁をしゃべっていたんだ。(どうん!)」
●縄一郎はオトに渡された木の棒で貝塚に穴を掘る。そこに皆が輪になって集まり、犬のキワの遺体を横たえる。そして静かな黙祷が始まる。
●すでに夕方近く、ヒグラシの声が聞こえる。
縄一郎「さっきからバカ、バカと言っていたのはもしかして、はか。お墓のことではないのか? 犬を埋葬しているんだ。確か渥美半島の田原市の吉胡貝塚では貝の地層の中に赤ん坊と一緒に埋葬された犬の骨が発見された。いやこれはスゴい。大発見だ。『縄文人は犬と暮らし、犬を友とし、犬と狩をし、犬を人間と同じ家族のように埋葬する慣習をもっていた」という仮説は今、僕の目撃で真説になった。」
オヤジ「キワや、キワや、お前は勇敢な狩人だった。エとオトの良き弟で、スエのやさしい兄で、わしのかけがえのない子どもだった。明日また、会おう。」
●竪穴式住居のなかからオフクロが出ている。
オフクロ「ばんげをはじめるで、火を焚きん。」
●おふくろの命令で、皆は中央に薪を集め、火おこしの木の棒で火を着ける者、採ってきたいのこを捌きその肉を焼くもの、手際よく、協働する。ぽかんと見ている縄一郎。
スエ「はよ、水を汲んでこんか。あそこが水場。(下手を指さす)」
●縄一郎、スエに土器を渡される。水場に行きながらふと手元の土器の縁が欠けていることに気が付く。
●縄一郎ポケットの中にしまってあった、土器のかけらを取り出して、その土器の縁の欠けた部分に合わせてみる。
●(どうん!)という効果音が流れる。
縄一郎「ぴったし!」
●水を汲んで戻るまでの間「ばんげ(晩餉)」の用意ができていて、土器の水と焼いた串肉をオトと交換し美味そうな香りをかいで食べる。
縄一郎「うまい。最高のジビエじゃないですか。それを炭火で焼くなんて。もうひとつ。」
オフクロ「欲しいんか。ほんなら、あんたも歌いん。」
オト「踊りん。」
スエ「笑いん。」
●縄一郎、少し考えて、手拍子を打つ。
縄一郎「では、今年の高校の文化祭、クラスで作った盆踊りを披露します。皆さんもご一緒に。」
●手拍子を縄一郎は打ち拍子を取り始めると、皆は様々な音の出る物を叩いて音楽が奏でられ、ギターの音が入る。
縄一郎「では、『最後の甲山盆踊り』を歌います。」
◉劇中歌『最後の甲山盆踊り』
龍城の城の 鬼門を守る
かぶとの山の ふもとに集い
老いも若きも 利口も馬鹿も
下手(へた)も上手(じょうず)も 皆来て踊る
 
八幡宮から 一望すれば
連雀籠田 八幡(はちまん)町に
伝馬康生 お城を臨(のぞ)み
岡崎のまち 心に映る
 
夕日に赤く 染まる街並み
宵闇せまる 乙川の岸
思い出詰まる 二七市通り
未練を捨てて 見納めのとき
 
これで最後の 甲山(こうざん)踊り
抱く思いは 数々あれど
踊り尽くして 世の憂さ晴らし
あしたはあしたの 風が吹く
 
●焚火の周りが祝祭ムードにあふれ、縄一郎の歌に合わせて踊り、リズムを叩いたり、祭りが始まる。
●最高調になるころに舞台は暗くなってゆき、歌声も音が小さくなってゆき、やがて暗転する。
 
◉シーン③真宮・縄文集落(三ケ月後)
第一場
⚫︎秋の気配が立ち込めている。紅葉の季節。
●スエと縄一郎が下手からキノコやとちの実やドングリを採り、抱えた土器に集めながら現れる。
スエ「キワはキノコ採りがうまい。」
縄一郎(キワ)「そうか。スエはドングリ拾いの名人だ。」
スエ「ドングリだけでない。ハマグリ拾いもうまいぞ。」
縄一郎「僕はキノコだけでなく、いのこ(猪)もカノコ(鹿)もうまく狩れるようになったぞ。」
●スエは縄一郎の手をつないで楽しそうに笑いかけ、歌う。
♬秋の夕陽に照るヤマモミジ
  濃いも薄いも数ある中に
  松を彩る楓やつたは、山のふもとの裾模様。

●二人で歌いながら戻ってくる。スエも歌を覚えている。
●村では、おふくろが土器で湯を沸かしている。オトとエが、
昨日狩った獲物を捌き、木の枝に干して貯蔵している。
オフクロ「スエ、キワ、何を集めた? ここに入れりん。」
⚫︎キワと呼ばれている縄一郎とスエは土器に採取してきたどんぐりや、とちの実をオフクロが湯を沸かした土器に移す。
スエ「煮えていくね」
オフクロ「アクを抜いたら、今晩はスエの好きなどんぐりスープだ。」
縄一郎「(鹿の干し肉を物欲しげに見ながら)あのかのこ(鹿)の肉も入れてほしいなあ。」
オフクロ「あはは、キワは『ジビエ』が好きだのん。」
縄一郎「前は臭みがあって苦手なかったけどね。」
スエ「前ってなに?」
縄一郎「前って、昨日とか、三ヶ月前とかのこと。」
オフクロ「キワは時々変なこというな。昨日? 三ヶ月前? 何のことだん?」
縄一郎「僕がここにきたのが三ヶ月前だろ?」
スエ「キワはずっとここにいただろ?」
縄一郎「九十回寝て起きる前のことだよ。」
スエ「オフクロ、寝るって何?」
オフクロ「なんだろね。うーん、お日様が死んで、真っ暗になって私らが死んでいる時のことかね。」
スエ「オフクロ、起きるって何?」
オフクロ「なんだろうね。お日様が産まれて、明るくなって、私らが生まれる時のことかね。そうだら、キワ。」
縄一郎「(微笑みながら)そう言う感じ。お日様が九十回いなくなって、また現れて、スエが九十回死んで九十回生まれる前のこと。」
スエ「縄一郎はおかしなことを言う。スエは生まれる前のスエと今のスエは違うスエだよ。同じスエだけど、違うスエなんだ。だから、キワも、キワが死んで、今のキワになったんだよ。」
縄一郎「そうか、そうだったね。(縄一郎笑う)」
⚫︎舞台上手から背後を気にしながら親父がもどってくる。
オフクロ「どうしただん、オヤジ。」
オヤジ「ん?なんか気配が変だがや。」
●その時、背後の水辺で鴨が飛び立つ鳴き声が(グァグァ)激しく聞こえる。
オフクロ「あ、ネズミが!」
●オフクロが足元を指さしながら叫ぶ。(チュウチュウ)というネズミの泣き声。オヤジも足元を見回し、カヤネズミの大群が足元を駆け抜けてゆき、それを踏まないようにする。
スエ「(足元を指指しながら)カヤネズミが逃げてゆく!」
オヤジ「何ごとだん? 地震でもくるだかん?」

⚫︎オフクロが目をつむり、透視的なそぶりを見せる。オヤジとスエがその姿を見て何か囁きあっている。
●どうやらオフクロには独特の透視能力があるらしい。皆の期待の視線があつまる。
オヤジ「何か見えるか?」
オフクロ「(間をたっぷりとって)なーんも見えやせん。」
スエ・縄「見えんのかい!」
⚫︎そこへ葦原をわけて、布の貫頭衣を着た数人の男が現れる。
オヤジ「あ、あんたらはどちらさんだん?」
オフクロ「お客さんなら、なんか食べていきなん。」
⚫︎そう言っている間に男は村の様子を見て、竪穴式住居の中や広場を見て、何かを相談しながら、頭らしき人がよく聞き取れない早口で捲し立て、部下らしきものどもが取り出した縄で舞台の上手奥から下手手前に向けて縄張りを始める。
カシラ「はよ、早よやりゃー。」
テシタ「まちゃーて、今やっとるぎゃー。」
カシラ「ヒメが来るまでに田んぼの土地を区画せなあかんぎゃ。」
テシタ「カシラ、この屋根の中に誰か暮らしとりゃーすで。」
カシラ「関係あらへんわ。ぶっ壊して猪の小屋をたてなあきゃへんで。」
テシタ「ほなら壊すぎゃー。ブチョー、カチョー、はよ取り掛かりャー。」
⚫︎テシタは手下のブチョーとカチョーに指示して、壊し始める。
⚫︎あっけに取られていたオヤジとオフクロ、エとオトが止めに入る。
オヤジ「なにするだん。」
オト「むたいなことはいかんよ。」
オフクロ「すぐにどんぐりスープを用意するで。ちょっと待ちん。」
⚫︎そう言いながらオフクロは土器にどんぐりスープをよそって、カシラの元に持ってゆくが、カシラは器を覗き込み匂いを嗅ぐ、指をつけて味見をすると、とさも不味そうにかぶりを振る。それでも「どうぞ」と差し出すオフクロの差し出す器を振り払う、すると器は地面に落ちる。驚いて周りに集まるオヤジたち。
⚫︎縄文村の人々を無視したまま、竪穴式住居の屋根に縄をかけて「えんやこら、えんやこら」と調子を合わせながら取り壊しを始める。
⚫︎振り返ると家が傾きそうになっているのに驚いて、オヤジたちはカシラやテシタに声をかけるが、いつものおっとりした話し方で通じない。もどかしく思って縄一郎が大きな声をあげる。
縄一郎「オラオラ、てめえらなんだ、人のうちを壊すんじゃあねえ。運動会の綱引きじゃあねえぞ。それにオフクロが作ってくれたせっかくのどんぐりスープをぺっぺしやがって、人の食事を馬鹿にすんじゃねえ。おいらだって決してうまいとは思えん塩けだけのどんぐり味だが、おいらだって文句を言う筋合いじゃねえんだ。これ以上無礼を働いたら俺が黙っちゃいねえぞ。」
⚫︎縄一郎はガラにもないべらんめえ調になってすごむ。
⚫︎そこに上手よりヒメが登場。まだ誰も気づかない。
弥生(ヒメ)「成長したね、ジョー。大した啖呵切るじゃん。(じゃーんという効果音)」
⚫︎振り返ると巫女のような出立ちの女が強いスポットライトの中で腕組みをして立っている。カシラ、テシタ、ブチョウ、カチョウは「ヒメさま〜」と言いながらひざまづいて礼拝を始める。
⚫︎眩しそうに見上げる縄文村の皆。
⚫︎訝しそうにヒメを見ていた縄一郎が大声をあげて驚く。
縄一郎「あ、あー(指差す)」
⚫︎ヒメ(弥生)を指差した縄一郎に気づいて怒り出すカシラたち。
カシラ「何しとりゃーす。」
テシタ「ヒメさまに向かって、指を刺すとは畏れ多い。」
ブチョウ「(ヒメさまを拝みながら)ヒメミコさま、この愚かな原始人をおゆるしくださいませ。」
カチョウ「ばかで何もしりゃ〜せんやつだで。」
⚫︎跪くものたちを気にせずにヒメに(弥生)に近づいてゆく縄一郎。
縄一郎「ヤヨイ! ヤヨイじゃないか。どこにいたんだ。」
弥生「昔はヤヨイ。今はヒメ。そう呼ばれているけどね。」
スエ「(ヤキモチでも焼いているように) キワ、この人を知っているの?」
弥生「キワと呼ばれているみたいね。(スエに聞く) どういう意味?」
スエ「キワはキワの生まれ変わりだよ。」
弥生「あ、そう。(スエに) キワってだれ?」
スエ「犬よ。いのこ(猪)の角にやられたの。」
弥生「あ、そう。ふふふ。(縄一郎に) 名古屋にいたのよ、あの稲妻のあと。私、生まれ故郷の名古屋で目が覚めたの。朝日の初期弥生遺跡がまだ息づいている世界に。」
縄一郎「朝日遺跡なら、名古屋じゃなくて、清州だろ。」
弥生「ここには現代になかった自由がある。可能性がある。私は政治と経済の知識であっという間に崇敬を受け、ヒメミコになった。ここでは思い通りの何者にでもなれる。あんたは? ふふふ、犬の生まれ変わりみたいね。(楽しそうにゲラゲラ笑いだす)。 ジョーらしいわ。」
スエ「何で笑っているの? 犬から生まれ変われる人間はたくさんいないわ。」
縄一郎「(スエに) 弥生たちは人間の方が犬より尊いと思っているんだよ。」
スエ「だって、犬の方が早く走れる。犬の方が狩りが上手。犬の方が吠える声が大きい。」
縄一郎「それに、犬の方が優しい。」
スエ「キワは犬だから、優しいよ。(にっこり笑いかける)」
弥生「ははは、何、ラブラブじゃん。」
縄一郎「そうだね、ここの村は愛に満ちているんだよ。」
弥生「愛なんてね、この野生の世界では何の役に立たないの。喰うか喰われるか。」
縄一郎「そうかな、愛こそすべて。ぼくはこの野蛮の世界に満ちている優しさと慈しみに包まれ、愛されている自分を誇らしく思っているよ。」
弥生「あ、そう。生ぬるいわね。そんなことじゃあ、あの現代の子供の遊びのような受験戦争にも勝てやしないわ。犬は犬でもあんたは負け犬よ。効率、組織、支配、蓄積・・それらがまだ生まれたばかりの混沌たる社会を生き抜くパワーとなるのよ。力。戦争。だから、ジョー、立ち退いて。」
縄一郎「たちのき? 僕たち先住の縄文村が? 何で?」
弥生「だ・か・ら、わからないかなあ、朝日の弥生村はあんたも知っているように東海地方最大級の村。人口の増大で、勢力を東に求めてさらに、東へ、東へ、拡大して来てるわけ、かといって碧海台地は水が少なくて稲作に向かない。だから矢作川を渡ってここにきたわけ。」
縄一郎「で?」
弥生「だ・か・ら、この岡崎平野の肥沃な大地は、まさにナイルの、矢作川の賜物。あんたたち縄文はどうせ、稲作や野菜の栽培はしないでしょ。コメを作付するために真宮の縄文村を拠点にしようと思っているわけ。私たち弥生が田んぼを作るためにどいて。痛い目に遭わないうちに。」
縄一郎「相変わらず身勝手だね。僕たち縄文村はこの土地で何千年も暮らしてきた。退くつもりはない。」
弥生「どかしてみせる。私たちには大量の武器も持っている。」
⚫︎二人の緊張感が周りに伝わり、皆が近づいてきて緊迫する。
●そこに、エが槍を振り上げ下手から登場。
「勇魚、(クジラ)をとったど!!宴だ、宴だ!」
⚫︎下手に現れたエと数人の狩人にどよめきが集まる。
「今日は無礼講だあ。皆で勇魚まつりだあ。」
「うおー」
「歌え、踊れ、ほれほれ、キワ、最後の甲山盆踊り歌えや。」
縄一郎「お、おー!弥生、辛気臭い交渉はやめだ。歌おうぞ!」
カシラ「ノリノリだぎゃ、まあ、これでも飲みゃー。」
⚫︎カシラの差し出す薄手の弥生式瓶子から厚手の縄文式土器の器に注がれる液体。飲むと、縄文村の皆はうまいうまいと言いながら踊りくるう。
⚫︎縄文村による「最後の甲山盆踊り」が始まる。
弥生「私が曲をつけた。」
縄一郎「僕が詞を書いた。最初の甲山盆踊りだな(笑う)」
●ヒメが歌い出したことに安心してカシラたちもものを叩いたりして宴に参加しだす。歌や踊り宴は楽しく飲めや食えや歌えや、わいわいと続く。
●その歌踊りの間に、弥生はカシラとテシタを呼んで何かを指示している。
弥生「いや、やはり『最後の甲山盆踊り』になりそうよ」


⚫︎暗転
 
第二場
⚫︎宴の夜が終わり、夜が白々と明ける。葦原を風が揺らす音。照明が次第に明るくなってゆく。鶏の声に驚いてスエが目覚める。舞台の対角線に逆木のバリケードが張り巡らされている。
⚫︎上手の客席寄り。あたりの様子の変化にスエが気づいてオヤジやオフクロ、オトと縄一郎をゆり起こす。
⚫︎下手の奥の縄文式竪穴式住居は跡形もなく、その場所に高床式倉庫が立っている。
オフクロ「(寝ぼけながら)どうした、スエ。おお、寒いのん。(体をさする。)」
スエ「おうちが死んで、違うかたちで生まれている。」

⚫︎スエ、高床式倉庫を指差す。皆起き上がりたちながら逆茂木を触っていたがったりする。
オヤジ「(縄一郎に) 何だん、あれは?」
縄一郎「(深刻そうに腕組み) うーん、もうここまで来てしまいましたか。」
オト「(心配そうに) 何が? 何がきただん。痛いものかん?」
縄一郎「倉庫。」
「(声を合わせて) そうこ?」
縄一郎「そうです。高床式の倉庫です。」
「(声を合わせて) たかゆかしきそうこ?」
「(面白そうに) 何だん、それは? 美味しいものかん?」
縄一郎「概念です、備蓄という。」
オフクロ「ああ、昨日川を渡ってきた人たちのことかん。あの人たちは『がいねん』という名前かん?」
オヤジ「何を聞いとるだ。『そうこ』 という名前の人たちだわ。」
「違うわ。『びちく』 だわ。」
⚫︎高床式倉庫の背後から、「コケッコッコー」の声とともに、鶏を抱いた弥生とカシラ、テシタ、ブチョウ、カチョウが胸を張って登場。
スエ「鳥だ、その鳥何?」
弥生
「ニワトリという。文明の鳥だわ。朝の刻を告げ、卵も肉もうまい。欲しいか?」
スエ「うん、可愛い、欲しい。」
弥生「(スエに鶏を渡しながら) 皆のもの、ようやく目覚めたか。三日の間だらしなく眠り続けておったぞ。おかげでこちらの仕事ははかどったわ。」
縄一郎「何か盛ったな。弥生、何を飲ませた?」
●縄一郎、瓶子の中をのぞき匂いを嗅ぐ。
カシラ「ワシらが噛んだ噛み酒じゃ。」
縄一郎「噛み酒って穀物をクチュクチュ噛んでカメにペッペってして発酵させる古代の酒だな。」
テシタ「ヒメさまに教えてもらっただぎゃ。」
弥生「強烈な酔い心地であろう。酒を知らぬ縄文村のものどもには劇薬であったかも知れぬな。」
縄一郎「こら、変なものを縄文の人に・・」
「(遮るように)うまかったです。ドアタマがぐらぐらして気持ちよかったです。(崇拝するように)また飲ませてください。」
オト「やめろよ、兄貴、こんな、どこのやつともわからん怪しいやつに。」
「怪しくないて、ヒメミコさまだで。」
オト「あれを飲んだらわしら眠り続けて、家も壊されただぞん。」
「何言っとるだ! こちらからは勇魚の肉を差し上げて、あちらからは噛み酒という、ありがたい下さりものをいただいて、もうワシらは食い物をわかちあう友達で、家族じゃん。な、オヤジ。」
オヤジ「まあ、ほだな。ほだら、ほういうことでいいだら、キワ。」
⚫︎縄一郎は考え込んでいる。
スエ「どうしたん、キワ!」
⚫︎スエが言った途端に全員の動きが止まり、スポットライトが縄一郎に落ちる。
縄一郎「(ハムレットさながらに)闘うか、闘うざるか、ファイト オア ネバーファイト、ああ、それが問題だ。」
⚫︎その姿の背後に、スポットライトが落ちて、中に弥生が腕組みして、たっている。
弥生「若きウェルテルの悩み バイ ゲーテだね。」
縄一郎「ちがう、ハムレット バイ シェークスピアだよ。」
弥生「私たち弥生は弓、斧、槍などの強力な対人兵器を所有しているけれど、あんた達武器も持たない人畜無害な縄文。殺すつもりはない。(睨みつけて)従いさえすれば。」
縄一郎「(ムッとして)君たち弥生に従うということは、この分かち合いの豊かな縄文の世界から、現代につながる支配と服従の身分社会に組み込まれるっていうことだ。」
弥生「誰もがひとりで生きられないのよ。強いものがリーダーとなり弱いものを守ってあげるシステマティックかつ合理的な仕組みで。政治はすぐに淘汰されてしまうような弱きものさえを生かしてあげることができる。」
縄一郎「都合のいい理屈だ。」
弥生「身分制階級社会はあんたみたいな、社会の発展の役に立たない文学少年でも生かしておいてあげる優しいシステムだよ。」
縄一郎「そこまでいうなら・・」
弥生「屈服し、従うか?」
縄一郎「そこまでいうなら、(叫ぶ)闘う。」
⚫︎オトとスエが動き、おー!と鬨の声をあげ、その叫びと同時に(ドーン)という効果音がする。
縄一郎「闘うぞ!」
オト・スエ「おー!(ドーンの効果音)」
縄一郎「あれ?みんなどうしたの?」
⚫︎明転すると、三人のヤル気と闘志とは裏腹に、土器で炊いた飯を弥生村の面々から配られ、オヤジをはじめ、みなは飯をうまそうに頬張っている。
オフクロ「うまいなあ。これはなんと言う食べもんだん?」
テシタ「オフクロさん、コメっていうだぎゃ。イネという植物の種を集めてホッコリ炊き上げるだわ。」
「うまいなあ。これに焼いたカノコの肉をのっけたらめちゃうまいな。」
カシラ「ほれ、これを乗せてみやー。」
オヤジ「塩かん。なんか香りがちがうなぁ。うまいなあ。」
弥生「よもぎ、と混ぜて焼いたよもぎ塩で、美容と健康にすごくいい。」
「美容。さすがヒメミコ様。」
弥生「私たちにしたがえば、こんなうまいメシを真冬でも真夏でも食べさせてあげるよ。」
オヤジ「ほうかほうか、毎日食べれるだかん。喜んで従うわ。」
オフクロ「こんなうまいもの食べたことないわ。」
カチョウ「これがコメちゅうもんだわ。」
ブチョウ「このコメを皆で育てて、その種をあの倉庫で備蓄したら、いつでもうまい飯が食べれるわ。」
オヤジ「わし、そのコメを育てるわ。」
オフクロ「ワシは備蓄したコメを火でほっこり炊くわ。」
「ワシはよもぎ塩を作ったり、勇魚やいのこ・かのこを狩っておかずを用意するわ。」
弥生「そうだ、よく言った。皆がそれぞれ、自分の得意なことだけをして成果をだして、互いに補い合い助け合うのがいい。苦手なことは人任せにすれば良い。今が真宮縄文村の『分業』が誕生した瞬間だ。」
縄文村の面々「おー。今が瞬間だ! これが『じかん』だあ!」
オヤジ「コメを作るぞ。」
縄文村の面々「おー!」
オフクロ「備蓄して飯を炊くぞ!」
縄文村の面々「おー!」
「いのこ、かのこ、勇魚を狩るぞ〜!」
縄文村の面々「おー!」
オト「それを食うぞ!」
縄文村の面々「えー? (オトの顔を覗き込む。)」
テシタ「そういう者はここにはいられない。」
ブチョウ「働かざるもの・・」
カチョウ「食うべからず。」
カシラ「それがヒメミコ様の一番の教えだぎゃ。」
オト「え、ワシは食わしてもらえんの? いままで分かち合ってきた家族なのに?」
スエ「わたしも?食うべからず?」
弥生「お前も、お前も(オトとスエを指差し)、 そしてお前も(縄一郎をゆびさし) 食うべからずだ。食いたければ田を耕し、飯を炊き、獲物を狩れ。」
縄一郎「僕もか?」
弥生「生産的なことをするなら食わせてやる。歌を歌ったり、踊ったり、文を書いたり、絵を描くような遊び事で皆が汗水垂らして働いた大切な飯を食わすわけにはいかん。」
縄一郎「生産性か。やはりな、弥生ならそう言うと思ったよ。」
弥生「どうするジョー? お前と一緒に我々に刃向かうのはお前とそこの子ども二人? 大人達はコメのメシの前に屈服したぞ。お前も我ら弥生の傘下に入れ!」
縄一郎「いやだ、決して膝を屈しない。我らは狩猟民としての縄文の文化を守る。」
弥生「やはり闘いを選ぶのか? 皆のもの。」
⚫︎その声に呼応して、弥生勢と縄文勢の一部が対人武器を取って縄一郎達を狙う。緊迫の効果音。
縄一郎「いや! 闘いはしない。僕はまちがっていた。忘れていた。闘わぬことが縄文の文化の精華だ。」
弥生「どうするつもりだ? ジョー?」
縄一郎「弥生と一緒にいたい者は、ここに残れば良い。今までと同じ暮らしを続けたい者は、ここを離れよう。」
スエ「私はキワと行く。」
オト「ワシもここを離れる。」
⚫︎オフクロが二人に近寄り抱きしめる。オヤジとエが塊になって抱き合う。啜り泣く家族。
⚫︎縄一郎とスエとオトはそれぞれの旅支度をする。
●エがオトに狩り用の弓矢を渡す。
●オフクロがスエにコメ袋を渡す。スエは鶏とコメ袋を持つ。
●オヤジが縄一郎に祭器のどでかい縄文土器をわたす。
⚫︎別れのシーンのバックに劇中歌。
 
◎劇中歌 『愛しあってるかい?』
遠い昔やり切れぬ思いで 川の流れを見た君の気持ちは
今同じ川の流れを見ている僕にも 確かに繋がっているのさ
僕たちが 進歩して来たなんて どうして思えるの
ただその時々の確かさに 惑わされて来ただけなのかな
愛し合ってるかい 君にそう問いかけてみたいのさ
 
時計の針がやけに速く 回るようになって来て
調子が外れた君の声が とても懐かしく聞こえる
僕たちはいったい何を この手に出来たと言うの
分からないことや 上手くいかないことばかりなんだ
愛し合ってるかい 君にそう問いかけてみるのさ
それでも君と僕は昨日も明日も過去も未来も 
愛し合ってるかい 世界にそう問いかけて行くのさ
 
弥生「ジョー、現代に戻るまで、生きてろよ。」
縄一郎「ヤヨイ、君もな。」
⚫︎舞台の上手に去ろうとした縄一郎はひとりの蓬髪のおとこが石を探して削っているのを見つけて、立ちどまる。
縄一郎「ど、土井垣先生」
土井垣「ジ、ジョー!」
⚫︎旧石器時代人となっている土井垣、立ち上がる。
                         おわり
(2023/10/8)

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