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やばい、まじやばい! 爺ちゃんが戦闘国家トーキョーの独立宣言をした

やばい、まじやばいって。
何がやばいって、うちの爺ちゃんがネットテレビで戦闘国家トーキョーの独立宣言をしたーーー!

あれは3年前の夏。
トーキョーは北の共和国の突然の電撃的進撃で、環状八号線の内側がほぼ占領さてしまった。
そしてニッポンを支援する連合国との軍事衝突が有明一帯で始まったのが2年前の春。
戦術核の打ち合いにまでエスカレートしたのが一昨年の秋。

おかげで、トーキョーの都心部のビルというビルはほぼ壊滅。半壊したスカイツリーの下には延々と瓦礫の山が広がるありさまだった。
そのうえ放射能濃度が高すぎて、防御服無しではもはや都心部には立ち入りができない状態になってしまった。

それでも防御服に身を固めた連合国軍と、同じように防御服の北の共和国側の兵士が環状七号線を境目にしばらく戦っていた。(特に一之江、代田、上馬付近での攻防は激しかった)
でも、所詮極東の島国の出来事だからね。なんだかんだと理由をつけて連合国兵士達は潮が引くように母国へ引き上げてしまった。

ニッポン政府も、”戦争をしない国”、”話し合いでの解決をする国”を標榜する与党左派、野党、メディア、そして何だからよくわからない市民連合の反戦キャンペーンの影響もあって、自衛隊による局地戦は控え、専守防衛に徹するよう指示を出す始末だった。
要は相手が環八(環状八号線の略称ね)を超えて攻撃して来ない限り、こちらからの攻撃はするなということだった。

このままでは環八の内側は北の共和国が実効支配する占領地にされてしまうと危機感を持って立ち上がったのが、国のためならいつ死んでも良い、片道切符上等という平均年齢72歳の老人達だった。その数275人。
そのほとんどが元自衛官、元機動隊員、元消防隊員といった、年老いたとは言え”修羅場”のプロ。

スマホの扱いが苦手な彼らは、もっぱらガラケーで全国から自衛官仲間、警察官仲間、消防官仲間を募って、義勇軍(彼らは決死隊と呼んでいたが)を結成した。
ドコモは立ち上がった爺さん達のために、停止予定だった iモード を継続してくれたよ。
で、その義勇兵の中に鳶の棟梁だったうちのじいちゃんがいたのよ。

決死隊の結成に政府は、
「あくまで政府が預かり知らぬところで行われるものであるので、何をしようが、どのような結果になろうとも政府は関知しない」
という立場だった。ありえないでしょ。

でも、自衛官OB、警察OB、消防OBはさすがにみんな決死隊を応援してた。

爺ちゃんは「ジジイ達の命を惜しまない攻撃には敵もびっくりするだろな」って笑いながらトーキョーに行ったけど、行ったきり音信がなかった。

メディアは無責任に「音信が途絶えた老人部隊は玉砕した模様」なんて報道する始末だった。
女子アナは能天気に「祖国のために散った老兵たちの冥福をただただ祈るばかりです」なんて言ってたよ。

そしたら昨日だよ。
連合国側との戦術核戦以来途絶えていた共和国側の宣伝用ネットテレビが突然つながった・・・と思ったら、うちの爺ちゃんがどアップ出て来て、真面目くさった顔で、
「本日イチサンマルマル時、トーキョーは我々決死隊が全面的かつ完全に制圧した」
って言い出したんだよ。
そして「ここに我々は戦闘国家トーキョーの独立を宣言する」といきなりの独立宣言。

いったい何があったのかって?

ここからは昨日の夜、爺ちゃんからガラケーで聞いた話。

爺ちゃん達がやったのは.、我が国伝統の「水攻め」。
歴史小説狂いのうちの爺ちゃんが提案したんだそうだ。
秀吉が毛利にやった水攻めをわしらもやろうって。

そしたらみんなノリノリになっちゃって、言い出しっぺの爺ちゃんがリーダー的な役割になったんだそうだ。
そしたら、国交省の国土保全局河川計画課OBがいて、決死隊唯一のインテリと言われてる人らしいんだけど、「それならワシどこが防災上の弱点なのか逆によーく知っとりますから」ということで、うちの爺ちゃんの補佐についてくれたそうだ。

で、大型台風の到来を待って(だから半年間身を潜めて、アタックポイントの選定と爆薬の準備をしていた)、増水した荒川の都心側の堤防25箇所、隅田川の都心側の堤防18箇所を爆破、破壊した。
大阪府警、宮城県警の爆発物処理班のOBがいて、彼らの指導の下、みんな喜々として爆弾を仕掛けていったそうだ。

荒川、隅田川とも爆破で決壊させた堤防から怒涛のように水が噴出。水の勢いで堤防はドミノ倒しのように次々に決壊していったそうだ。

北は北千住あたりから、東は東大島あたりから都心部に向かって猛烈な勢いで流れ込む荒川の水に、隅田川から氾濫した水が更に加わって、まるで大津波のような濁流となって都心部を一気に飲み込んだそうだ。
おかげでトーキョーは皇居から東側がほぼ水没。まるで広大な沼のような状態になってしまったそうだ。

こりゃ半世紀は元には戻らんじゃろうなーって爺ちゃんは言ってた。

爺ちゃん達の計画では、水攻めはあくまで兵糧攻めのつもりだったんだそうだ。
けど、予想外なことに、トーキョーを沼化させた濁流は、共和国軍を一撃で壊滅させることになったそうだ。

というのも、共和国軍は、核攻撃への防御と都心中心部の放射能を嫌って、全軍を地下に置いていたからなんだ。
それも地下深い所で都心中心部を囲むようにぐるっと回ってる大江戸線の各駅を利用していたのが仇になった。
濁流が大江戸線の新御徒町、蔵前、両国、森下、清須白河、門前仲町の各駅からどっと流れ込むと、トンネル内を通って大江戸線全線はたちまち水没。
共和国軍は森下駅構内に置いていた総司令部を最初に失ったものだから、指示命令系統を一瞬で喪失。緊急退避命令が出ないまま、兵站、兵器、弾薬、そして9割近くの兵士がみるみる水没してしまった。

なので、爺ちゃん達決死隊はほぼ戦うことなく沼化したトーキョーを掌握、占拠できたという訳。

では、なぜトーキョー独立なのか?
あれは爺ちゃんが洒落で言ってみただけなんだそうだ。
「沈黙の艦隊」の海江田艦長みたいな事を一度言ってみたかったそうだ。
そもそもネットテレビがまさかつながってるなんて思いもしなかったので、おふざけで海江田艦長みたいな事を適当に喋っただけなんだそうだ。

でも、ニッポン政府も米国政府もマジに受け取ってる。
爺ちゃんが調子に乗って「戦闘国家トーキョー」って言ったり、「平和を達成するのは想像力ではない。具体的には力なのだ」って海江田艦長丸パクリの演説をしたりで、すっかり爺ちゃん達決死隊は共和国軍の長距離弾道ミサイルを含む核兵器を丸々手にして独立宣言したと信じちゃってる。

米軍は、偵察衛生からは一面の沼が見えるばかりで、兵器、特に長距離弾道弾の位置の特定がまったくできないとか言ってる。
年老いたとはいえ豊富な実戦経験を持つ精鋭たちの集まりなことを考えると、トーキョーの沼化は非常に良く考えられた高度な軍備カモフラージュだと断言してる。

いつ死んでもかまわないと考える老人達の集まりは、些細な事で暴発する可能性が非常に高いとか言出だす心理学者も出てきて、爺ちゃんの独立宣言で、世界はちょっとしたパニックになってると言っていい。

今朝のニュースでは、国連は世界の秩序を守るために、独立承認の方向で動くことになるだろうって言ってた。

さっき爺ちゃんに電話でそう話したら、そんな騒ぎになっとるのかーー! って驚いてたけど、そしたらワシ国家元首じゃなーって笑ってた。

トーキョーを取り戻すのに命がけで頑張ってくれた爺ちゃん達には、この際世界を相手に大いに楽しんでもらいたいと思う。


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