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話すようにデザインを進める「話すデザイン」と人の脳を借りて思考を繋ぐ「聞くデザイン」を実践するデザイナーに学ぶデザインの進め方

この記事は、"武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース"というやたら長い名前の大学院での "クリエイティブリーダーシップ特論I" というこれまた長い名前の授業での学びを紹介する記事のシリーズ第11弾です。

この授業では、クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されている方々をゲスト講師として、60分講義・30分ディスカッションというセットで学びを得ています。

第11回 (2021年9月20日)は、三木 健さんからお話を伺いました。

自己紹介
記事の本題に入る前に、簡単に自己紹介をさせてください。

私は、社会人として働きながら武蔵野美術大学の大学院に今月2021年4月に入学しました。仕事ではUXデザイナーとして働いており、大学院ではUXデザイナーの仕事に活かせる生きた知識を、体験も通して身に付けたいと思っています。

ゲスト講師のご紹介

三木健(Ken Miki)

神戸生まれ。1982年三木健デザイン事務所設立。話すようにデザインを進める「話すデザイン」と、人の脳を借りて思考を繋ぐ「聞くデザイン」でモノやコトの根源を探る。「気づきに気づく」をテーマに五感を刺激するような物語性のあるデザインを展開。
RECRUIT紹介ページより)

これまでにJAGDA新人賞、日本タイポグラフィ年鑑グランプリをはじめ、国内外のさまざまな賞を受賞した経験を持つグラフィックデザイナー。自らのデザイン手法を“話すデザイン”“聞くデザイン”と称し、観察と想像を繰り返しながら静かな表現のなかにエモーショナルなデザインを生み出してきた。2012年からは大阪芸大デザイン学科の1年生を対象とした授業を担当。誰もが知る果物の「りんご」をテーマに約半年、全部で15のプログラムを実践している。
大阪芸術大学紹介ページより。三木健デザイン事務所のサイトはこちら


ゲスト講師の活動内容

授業の中でいくつも事例を紹介いただいたのですが、その中から2つご紹介します。

Nouveau Coffee

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「文化を耕す」
五感を刺激する・ローカルを繋ぐことをテーマに38年前に取り組まれたプロジェクトで、珈琲の商品開発です。

構想の元となったのは、三木さんが旅好きで、プロジェクトの前にインド・ネパールへ行かれていたことと、車の運転中にビートルズの曲を聴いたことだったそうです。
そこから、千里中央駅の万博公園にある国立民俗学博物館で、民族音楽のコーナーで小さいスピーカーから流れるいろいろな音楽を聴き、赤道エリアにある何箇所もコーヒーの産地をつなげて、さらには各国をイメージするキャラクターや歌をつくるというコンセプトをつくられました。

珈琲へのこだわりから味覚・嗅覚を刺激し、音楽と文化を繋ぐことで聴覚を刺激し、さらにはパッケージや付属するモノはプリミティブな表現をすることで視覚・触覚を刺激して、五感を刺激することを意識しています。

例えばプリミティブな表現としては、油紙に包まれた筒状のパッケージは、大航海時代を発想するような、すごく綺麗ではなく時間感覚を伝えられるようにしています。

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販売方法についても、旅からの構想がきっかけとなっています。
三木さんがネパールに行かれた際に、民芸品を売っている方がおられたそうです。風呂敷1枚で広げた店だったそうですが、警官が現れるやいなや、急いで畳んであっという間にいなくなってしまいました。
それを見た三木さんは、「風呂敷1枚で店がつくれるのだ!」ということからの構想と、「百貨店では売上がうまくいかないとすぐに撤退させる」ことと「警官がきたらさっと店を撤退するところ」を結びつけ、百貨店での展示ではドラム缶に全てを入れて運び、展示の際にはドラム缶も展示棚の1つにするという発想をされました。

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The Earth

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三木さんが名刺と一緒にポケットに忍ばせているのが、「The Earth」です。
いまでこそ地域で働くことがだんだんと一般的になっていますが、東京に出ることが王道だった30年前、「地域でも仕事ができる」と大阪にとどまることを決められました。
「北緯34度41分23秒、東経135度30分44秒」にある大阪の事務所を示すカードです。

A small "world" goes around the world.
小さな地球が大きな地球を巡る

三木さんが当時からグローカルを意識されていたことがわかる作品です。


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授業から学んだこと

■相手の考えを理解することが最も大切。いつでも戻れる・壊せるように、テキスト化・ビジュアル化するのは最後にすること。

お話しの中で、とても面白いなと思ったのが、「余談も含めて話をたくさんきいて、そこからヒントを得ることで仮説をつくり物語にしていく」というお話しでした。
私がUXデザイナーとして普段仕事をしていくなかでも、クライアントさんとたくさん話をして、どういったことがしたいのか、何をめざしているのかを理解していき、仮説をつくるのですが、私はこの仮説を可視化してクライアントさんにみせて磨いていきます。

しかし、三木さんのプロジェクトのお話しをきいていると、仮説をすり合わせることをされていないのではないかと疑問を持ちました。
そこで、「仮説については、三木さんの頭の中だけであるのか、それとも何かテキストやビジュアルにされるのか」を質問させていただきました。

そこで回答いただいたのが、以下の言葉でした。

理念のないものづくりをするひとはおらず、クライアントの中に理念がある。でも、それを言葉でうまく表現できなかったり、表現方法がわからないということが多くある。
長くいろんな話をきいていると断片がでてくる。
 
コーヒーでいう濾紙をなげかけることで、ぽたぽたとキーワードがでてくる。そこからすくいあげる。
 
何でつくるかというと企業のもつ潜在性や経済力、いまの社会望まれていることが接着剤になって1つの形をつくる

理解、観察、創造、分解、編集、可視化のステップを踏むが
理解が70%以上。

そこから、クライアントについてもクライアント以外についても観察を行う。
 
次のステップが創造。
あったらいいなを考える。これが仮説。
この仮説をテキスト化したり、ビジュアライズするともとにもどれなくなる。いつでも戻れる勇気を持てるようにしておくために、テキストやビジュアルにはしない。
 
そして、必ず分解ということもいれている。ほとんどのケース、分解をする。
 
最後にこれでいけるぞとなると編集。ここで語れるようにする。
そのあとにビジュアライズしていく。

授業の最初から「話す」ようにデザインすることをされているというのを伺っていました。
デザインの話だけでなく、人の話や暮らしの話、自然の話、文化の話など、いろいろな話を聴いて、そこから発想のヒントを得て、仮説を立て、そのプロセスの中で「コンセプト」を探すということを行なっておられ、「話すデザイン」は、対話を可視化することだと伺いました。

しかし、「話すデザイン」において、最も大切なことは、相手の考えをしっかり理解することだそうです。

その中で、気づきに出会い発想がジャンプするそうです。それにより新しい価値が発見されます。
これを三木さんは「借脳」という言葉で表されていました。

今後の活動につなげたいこと

UXデザイナーとして、何でもテキストにしたりビジュアライズすることが大切だと思っていましたが、どの段階で行うのかに注意し、またいつでも逆戻りしたり、白紙にもどしたりすることを戸惑わない姿勢をもっておくべきだということを学びました。
デザインの思考はもともといったりきたりを繰り返すものだとは思いますが、「分解」というステップを自分の中で持っておくことが有効だと思うので、心がけたいと思います。

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