マッチング攻略note① 勉強になる、成長できる病院の選び方

こんにちは内科専攻医をしております、わんと申します。

実は先日より、m3.com(エムスリー)のメンバーズメディアにて「専攻医が語るマッチング攻略法と病院選び」というマッチングの攻略法についての連載記事を書かせてもらっています。以下、記事のリンクです。

第1回記事:『「知らなかった」では損する、マッチングの落とし穴(ダイジェスト記事)』
第2回記事:『候補は実に1000以上、初期研修先探しをどう始めるか』
第3回記事:『知らぬは損、研修医が「成長できる病院」の選び方』

メディア上で記事を書くことに憧れがあったので、大変嬉しいのですが、公式なメディアな分スペースの制約やある程度多くの人に読んでもらえる内容にする必要がある分、要点に絞って記載しており、伝えたいことの全てを好きなだけ書けている訳ではありません。
そのため、第3回の記事である「勉強になる、成長できる病院」の記事に書ききれなかった部分について本noteで追記していきます。(あくまで追記ですので、まずはエムスリー上の記事の方を読んだ上で読んでほしいです。)
本記事はあくまで「勉強になる、成長できる」をトピックにしており、後期研修以降についてのことや待遇労働環境、実際のマッチング等については今後の連載記事で公開していく予定ですので是非今後も読んでください。


エムスリーに書いたこと


エムスリーでは分かりやすくするために3つのポイントに絞って書きました。要約するとこんな感じです。
・経験できる症例数や手技の数だけでなく、どんな教育やフィードバックを受けているかが大切。勿論症例数や手技で担保される慣れ、度胸は強みになるが、教えてもらえないと間違ったやり方が続いてしまう。
・救急は費やす時間が長いので大切。3次救急は重症を見れるが研修医は手を出しにくい、逆に2次救急は研修医が手を出しやすいが症例が限られ、治療の最後まで見れないことも多いかもしれない
・病棟管理での研修医の役割にも注意。主治医をやらせてもらえると判断力や経験がつき、3年目から1人でもやっていきやすいが大変。診療の補助や雑用程度だとあんまり1人でこなせる実力はつかないかもしれない。

エムスリーに書ききれなかったこと


そして以下にエムスリーに書きれなかった部分を紹介していきます。

ローテートできる診療科、自由選択期間

どんな診療科をローテートできるかは病院によってかなり違います。内科、外科、麻酔科、救急、地域研修など必修の科もありますが、それ以外のマイナー科のローテートや、病院によってはエコー室や細菌検査室等の診療科以外をローテートできる病院もあり、どんな診療科をローテートできるのかは確認必須です。

ここで重要なのは、病院が標榜している診療科はあまり参考にはならないということです。例えば、眼科、耳鼻科、皮膚科等のマイナー科が揃っている病院に見えても、それらは大学から派遣の先生が週に2〜3回来るのみで、ローテートしたり教わったりできる訳ではないこともあります。

逆に、その病院に存在しない診療科でも関連のある大学病院や、同グループの市中病院を1ヶ月単位でローテートできることもあります。単施設では選べる環境に限界があるので、そのように他施設も含めてローテート先を選べると大変魅力的ですし、普通にマッチするのは難しい教育的な人気病院で研修できることもあります。そのため、病院にある診療科ではなく、ローテートできる診療科は何なのかしっかり確認しましょう。

次に具体的な診療科についてです。
・内科
病棟管理の基本を身につけるで重要です。中でも循環器、消化器、呼吸器内科は命に直結することも多く、患者数も多い、所謂"メジャー内科"ですので、極力ローテートできると良いです。しかし、カテーテルや内視鏡があまりにも多いと指導医が病棟におらず教えてもらえないことや、手技見学ばかりで病棟管理が身につかない恐れもあります。そのへんの実態を確認できるとベターです。

その他の内科に関しては2年間の限られた期間で必須だとは思いませんが、どれも今後に役立つ知識は得られると思いますし、比較的自分の将来に関わる科(泌尿器科志望の人にとっての腎臓内科など)や、熱心に教育してくれる先生がいる科をローテートできると良いと思います。

また、1ヶ月毎のローテートだと、色々な科を回れる反面、あまり知識が定着せずに他の科に移ってしまうことになりますので、内科においては2ヶ月単位程度でローテートできる方が個人的には良いと思っています。毎月のローテートの始めは慣れない環境でストレスや、業務上の覚えることが多く、2ヶ月目になってやっと医学知識や病態を学ぶことに集中できる、という面もあります。しかし、1ヶ月毎の方が色々な内科をローテートすることができますので、好みの問題ですね

・外科
外科ローテも必修であり、特に他の科よりも忙しいことが多いので重要なポイントです。外科系の診療科を志望科にしている人にとっては1番重要なローテートかと思うので、極力経験を積ませてもらえ、場合によっては研修医のうちに執刀させてもらえるような病院だとベターでしょう。
しかし、忙しすぎることは心身の健康に支障をきたすリスクですので、自分が耐えられるかどうかもしっかりと検討してください。

逆に、内科や精神科などオペとあまり関わりの無い診療科を志望している人はオペが多くてもあまり将来のスキルには直結しません。ある程度のオペの経験は役に立つかと思いますが、最低限の糸結び、縫合が教えてもらえれば大丈夫かと思います。
それよりも外科ローテ中に可能であればドレーンの管理など術後の合併症のことや、手術適応となった患者さんのCT画像について教えてもらえることの方が重要かと思いますので、オペばかりでなく、病棟業務やレクチャーを受ける機会があると良いと思います。

・地域研修
地域研修の行き先も重要なポイントです。病院によっては地域研修で離島に行けることを楽しみなイベントとして推していることもありますし、逆に都市部からあまり遠くない病院に行くだけで終了できる簡便さをウリにしていることもあります。
場合によっては普段働いている病院から10分程度の距離の病院で完結している例もあり、本当に病院によって様々です。ライフスタイルによっては1ヶ月間遠方で暮らすのはかなり生活に支障をきたすこともあると思うので、自分の好みにあった所に行けると良いですね。
私の場合は地方で200床弱の病院ながら、常勤医師が院長を除くと四人しかいない、所謂野戦病院で研修させてもらい、本当に良い経験になりました。良くも悪くも普段研修している病院は設備が整っていて、診療科も揃っていますが、夜間は検査技師さんがオンコールですぐに画像も撮れない等、限られた設備でどう乗り切るかを考えて格闘したことはかなり大きな学びになりました。そういった、普段とは全く異なる病院に行けるチャンスである地域研修でどこに行けるかは確認できると良いと思います。

・回れると良い科
無い病院も多いかと思いますが、個人的には「放射線科」「ICU」「感染症内科」の3つをローテートできると良いと考えています。
①放射線科
放射線科ではCT等の画像の読み方の基本を教えてもらえますし、沢山の画像に曝露されて読影をこなした経験は今後に活きるでしょう。特に夜間に救急当直をする時の読影は自分以外にCTを読む人がいないので、専攻医以降も非常に怖い部分になります。研修医のうちに読影について教わっておくことは一生の財産になります。また、病院によっては放射線科がCVやPICCを入れることもあり、そういった手技のチャンスが多い放射線科もあるので、それなら一挙両得ですね。
②ICU
ICUも非常に勉強になります。重症な病態の患者さんを多数診れるのはもちろんのこと、血管作動薬、鎮痛・鎮静薬、人工呼吸やCHDFなど普段の病棟ではそれほど見る機会の多くない薬剤やデバイスについて集中的に勉強できるチャンスになります。CV穿刺やAラインなど研修医が上達したいと思う手技のチャンスも多く、ローテートできると良い科の1つだと思います。
③感染症内科
感染症は研修医のうちにしっかり勉強しておくべき分野の1つだと思います。病棟管理をやってみると分かりますが、とにかく感染症は厄介です。手術が終わって無事に退院できるはずだったのに肺炎になったり、メインの病態が落ち着いて転院を待っている段階なのに尿路感染症で転院が伸びる等、頭を抱えるシーンは日常茶飯事です。
そして、日本においては感染症の専門医の数が極めて少なく、専門家に相談できず自分でマネジメントしなければならないことが多いです。そのため、研修医のうちに基本を教わっておかないと一生感染症で苦労することになるので、可能であればローテートできると良いですが、特に地方では感染症の専門家はかなり少なく、難しいのが正直な所です。自分がローテートしなくとも、院内に1人いるだけでもアドバイスをもらうことができて、いれば大変ありがたい存在ですが、、、

また、ローテートできる診療科だけでなく、いつ、何ヶ月自由選択があるかどうかも重要です。初期研修は将来の志望科を決める重要な時期であり、特に近年は都市部の後期研修はシーリング(医師が多い地域での診療科の人数制限)のため2年目の春〜夏頃に募集を締めきることもあります。そのため、極力1年目のうちに志望科を考えるための自由選択期間があると良いでしょう。
病院によっては2年目が全て自由選択で必修が無い病院もあります。これもメリットが大きいかもしれませんが、逆に1年目の内科や外科、救急等の必須のローテートの時に一緒にローテートする2年目研修医がいないことも起き得ます。2年目の先輩研修医と一緒にローテートして教われるメリットは技術や知識だけでなく、困った時の相談などメンタル面でもかなり大きいので、2年目が全て自由選択がデメリットになることもあります。
また、必修科においては診療科の側も毎月研修医がいる前提で研修医にある程度の業務、責任が与えられることが多いですが、毎月研修医がいるとは限らない自由選択の診療科においては、研修医がいなくてもスタッフで業務が完結するようになっています。そのため、研修医の仕事があまり無く、診療の補助や見学が中心になってしまい、あまり診療の中心としての役割は無いことも多いです。
そのため、個人的には2年間で4ヶ月〜半年程度の選択期間が確保されていれば十分かと思いますが、本当に自分の好みによる部分かと思います。

病床数、病院の規模

病院の規模も研修内容を決定づける大きな要素かと思います。全ての診療科が揃っており、人数も多い大学病院やハイボリュームセンターなら標準的な研修ができるとは思いますが、病院全体や臨床研修センターの意向が強く、あまり自分の希望に応じて柔軟な研修をすることはできないかもしれません。逆に、小規模の病院では揃ってない診療科やできる手技や処置に限界がありますが、診療科間の垣根が低く、いつでも相談したり、指導を受けることができるかもしれません。

・大規模病院(約500床以上)
ざっくりとした目安としては、500床以上の病院はある程度規模の大きい病院と言え、地域の中核となる病院であることが多いです。また、研修医の人数は病床数によっても制限があるので、これくらいの病床数がある病院だと1学年10〜15人以上の人数の多い研修になります。
基本的に診療科が全て揃っており、重症患者でも自施設で治療が完結できることが多いです。各診療科それぞれにも十分なスタッフがいることが多いので比較的学年の近いスタッフから指導を受けたり、色々な医師から話を聞いてキャリアの参考にできるかもしれません。スタンダードな研修をしたい人、まだ進路が決まっておらず色々な診療科を見たい人は大規模病院で研修するのが無難ですが、その分院内でもローテートしたことが無い科の医師は顔や名前もあまり分からなかったりと、診療科間の壁は厚くなり、気軽に相談しにくい環境にはなるかもしれません。
しかし、人数が多い分研修医の教育もシステム化されており、レクチャーや教育的なカンファレンス等も充実する傾向にあります。

・中規模病院(300〜500床以上)
これくらいの規模の病院でもメジャーな科は一通り揃っているかと思いますが、各診療科のスタッフの人数は少なくなるのでできる治療には限界がありますし、あまり学年の近い専攻医や若手医師が少ないこともあります。(病院によるので一概には言えませんが)
これくらいの規模でも研修医は毎年5〜10人程度はいることが多く、教育のシステムもある程度は整っていることが多いと思います。大規模病院よりは病院内の医師の人数も限られてくるので、ある程度病院内の医師は大体分かるような規模感になります。そのため、ローテート期間以外でも学びたい手技があれば呼んでもらったり、医局で他科の先生に気軽にコンサルすることはしやすくなります。診療科のローテート等も柔軟に変更してもらえることが多いのもメリットかもしれません。

・小規模病院(〜300床)
300床の病院ですと、診療科も少なめになり、大規模な手術は他院に搬送することも多い規模感になってきます。
この規模感だと研修医は2〜5人程度と少なめなことが多く、少ないぶん、臨床研修センター長の先生にも要望を言いやすく、かなり柔軟な研修ができることが多いと思います。しかし、レクチャー等のシステム化された教育の機会は少ない傾向にはあり、見る疾患や患者層にも偏りが生じやすいです。ある程度目的意識があり、合致するのなら自分に合った研修ができると思いますが、あまり無難な選択肢では無いと思います。

教育設備、ツール

設備もかなり病院によって違いのある所です。まず大きいのは、文献検索ツールです。院内 Wi-Fiから各種ジャーナルが読めるようになっているかは重要ですし、「UpToDate」「医書.jpオールアクセス」「今日の臨床サポート」あたりが使えると教科書に載ってない少し混みいった知識もすぐに手に入りますし、それらを駆使すれば買う教科書も最低限で済むのでかなり節約になるかもしれません。
個人で契約するのはかなり高額なので、このへんが揃っているかどうかは確認したい所です。大学病院であればそういったツールは基本的に揃っているので安心です。
また、ウェブ上の文献だけでなく、研修医室や医局の一通りの教科書が揃っていると非常に助かります。医学書は1冊5000円〜1万円かかり、かなりの冊数が必要になってくるので、全て自分で買うとかなりの負担になります。
そして、設備の整った病院ではシミュレーションセンターがあることもあります。気管挿管、CV穿刺など侵襲度の高い手技は設備があるのならシミュレーションで練習してから臨みたい所ですし、エコー等の練習もできれば非常に便利です。シミュレーションに関しては大体の病院には存在しないかと思いますが、あれば大きなメリットですのでチェックしておきましょう。

一般的な有病率に近い患者群か

病院によって見る患者層は大きく異なります。例えば東京の某大規模病院は地域の救急車を断らずに応需するポリシーを掲げているため、救急患者は極端にその病院に集中しており、近く病院に軽傷の患者しか来ない、ということもあります。
また、私が見学したある病院はIBD(炎症性腸疾患)の大家の先生がおり、中規模病院ではありましたが、病院をあげてIBDの患者さんを集めているとのことで地域のIBDの患者さんのかなりの割合がその病院に集まっているようでした。恐らくその地域の他の病院にはIBDの患者さんはほとんど来ないでしょう。
逆に、高齢化が極端に進んだ僻地の病院では若い患者さんが少なく、小児の救急患者さんを診る機会がほとんど無い、ということもあります。
そのように病院によって診る患者さんの層や疾患はかなり異なり、その病院の機能だけでなく、周りの施設にも影響を受けます。

初期研修は基本的には何かに特化した知識を身につける場ではなく、様々な診療科、知識を幅広く学ぶ場なので、極力偏りなく患者さんを受け入れている病院の方が良いと考えています。そのため、理想的には「極端な高齢化が進んでいない、田舎の中核病院」がベストだと考えています。田舎の中核病院には他の施設が無いので、その地域の患者さんのほとんどが集まり、有病率に近い患者層が集まるためです。実際、全国に名だたる教育で有名病院は意外と田舎にあることが多いです。その理由の1つがこれなのではないかと考えています。しかし、これを完全に満たす病院はある程度限られますし、固執する必要は無いと考えています。

他病院から学ぶ機会

ここまで書いてきたことと重なる部分もありますが、他病院の文化、知識を吸収できることも重要です。専攻医以降で他の病院に出てみると分かりますが、1施設で学べることにはかなり限界があります。診療科間のバランス、リソース、スタッフ間の年代、地域など様々な部分で診療の特徴があり、病院によって強い所と弱い所がどうしても出てきます。そのため外部の医師と関わる機会は非常に重要だと考えています。
例えば、私のいた初期研修の病院では数ヶ月に1回程度ですが、全く違う地域の病院とzoomで合同勉強会を開催しており、なかなか自施設では見ることのない症例のプレゼンを聞くことができたり、他院の研修医の発表や質問に刺激を受けたのを覚えています。それだけでなく、他院のある分野で有名な先生がレクチャーをしてくれる機会も定期的にあり、比較的他の病院の先生から学ぶ機会に恵まれていたように思います。
勿論やり方はそれだけでなく、選択のローテートで他の病院をローテートしたり、医局人事で定期的にスタッフの先生が入れ替わる等、色々なやり方があるとは思いますが、そうやって他の病院の知識、文化を吸収できる環境にはある程度価値があると考えています。そういった機会があるのか?という視点でも見てみると良いかもしれません。

まとめ


色々と書きましたが、これらもあくまで1つの選び方の基準でしかなく、どうやって選ぶのか、どんな病院が良いのか本当に人それぞれです。絶対的に良い病院、悪い病院というのは存在せずあくまで相性です。ある程度情報は収集しつつも、最終的にはフィーリングも大切にして「ここが良い!」と思った所を受けるのが良いとは思います。
本記事はあくまで「勉強になる、成長できる病院」という観点での記事でしたが、将来の進路を考えた病院選び、マッチング試験のこと等、今後の記事でも発信していきますのでよろしくお願いします!


また、ハローマッチングは全国の病院のマッチングの情報や、採用試験の面接で聞かれたことが載っていて、早い段階でまずこちらを読んでみるのもおすすめです。

ハローマッチング

また、かなりマッチングにガチで取り組み、日本中の多数の病院を見学して夏休みをほとんどマッチングに懸けた私の履歴書も公開しているのでよろしければ是非ご覧ください。(身バレに繋がるので、大変心苦しいですが最低価格の100円で有料にしています。)
https://note.com/maitakenorth/n/n2cc2e878308e

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