【禍話リライト番外編】恋しちゃったんだ
※怖い話ではありません
禍話のメインパーソナリティ・Fear飯の相槌担当加藤よしきさんの、「どこかで聞き覚えのある」話。
世の中意外と適当なものである。
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まだまだコロナ禍真っ只中の2021年の話。
加藤さんが持病の頭痛のために大きな病院に行った時のこと。
待合室で椅子に座って待っていると、結構な年の御老人と、30~40ぐらいの付き添いの男性の二人組が近くに座った。
この老人が、結構な大声で付き添いの男性に話しかけている。
というより、ギャーギャー喚いていると表現できるくらいの勢いと声量だったらしい。
何だろうなと加藤さんが聞き耳を立ててみると、どうもその御老人の会社で誰かが休んで大変だったという話のようだ。
「あの程度の事で休職しおって!!最近の若者はこれだから全く使い物にならんわ!!」
一通り話を聞かされた加藤さんも、(正直、この御老人の話は聞くに堪えんな…)と思っていた。
とは言え病院の待合室から離れるわけにもいかず、じっと座って自分の番を待って居ると、御老人はどんどんヒートアップしてきた。
ついには休職したという若者の休職理由まで少しずつ言及し始めたため、加藤さんもいたたまれなくなってきた。
「あんな打たれ弱いようやったらダメやわ!!世の中渡って行けん!!プライバシーだとかプライベートだとか知らんわ!!!お前もそう思うやろ!?」
話を振られた横の付き添いの男性も、「はあ…はいはい…まあそうですね」と気のない返事を返すばかり。
加藤さんも、早く自分の診察の番になってこの場を離れたくなったのだが、この病院と言うのが結構大きな病院だったそうで、待つ時間も相当長い。
そのため、かなりの時間この御老人の喚き話を聞かされたらしい。その上、休職したという若者の事だけをずっと喚き散らすものだから、加藤さんにも段々と詳しい内情が呑み込めてきた。
どうも、社内か社外か不明だが、その若者の恋愛関係女性関係で問題が起きてしまって、休職せざるを得なくなったという事のようだ。
「職場で恋愛がどうこうとか知らんわ!!!職場にそんな話を持ち込むんじゃない!!!お前もそう思うやろ!!?」
「はい…」
「大体な、恋だのなんだの言ってる奴に仕事任せられんのや!!」
「はい…そうっすね…」
「恋愛とか結婚とか本当に訳分からんわ!!!」
離れて聞いている他人の加藤さんですら聞くに堪えないと思っているのに、隣で付き添って相槌打たされてる男性は一体どんな気持ちなんだろう。
加藤さんはふとそんな事を思った。
「恋愛とかどうこう言いおって、あいつ社会復帰できんぞ!!!」
「でも…恋しちゃったんだから、多分、気付いてないんでしょうね」
あまりにも抑揚なくさらっと付き添いの男性が言ったため、加藤さんは最初気付かなかった。
かなりの間をおいてようやく、(あれ?なんか今聞き覚えあったぞ…?)となったらしい。
そして、なる程この男性も御老人の事どうでもいいと思ってたんだ、ほっといてくれと思っていたんだ、そういう考えに至った。
この人も大変なんやなと思いを馳せながら、加藤さんは自分の診察の番を待っていたそうだ。
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出典
シン・禍話 第十九夜 31:20~
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