なおちゃんと遊んだ日。

小学校2年生の時に同じクラスだったなおちゃんとは特別仲が良い訳ではなかった。お互いクラスに他に仲の良い友達がいたし、下駄箱ですれ違えば挨拶くらいはするが、話し込むようなこともなかったように思う。

でも、ある日なおちゃんと2人で一緒に遊ぶことなった。どうして2人で遊ぶことになったのかは覚えていない。なおちゃんとは帰る方向が同じで、「いつか一緒に遊ぼうね」となおちゃんが時々私に言ってくれていた。

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なおちゃんとは、「恩田幼稚園」の前で待ち合わせをした。「恩田幼稚園」はなおちゃんの出身園だ。家に帰って自転車に乗り、急いで「恩田幼稚園」へと向かうとなおちゃんはもう園の前で待っていた。

「何して遊ぼうか。」

「何でもいいよ。」

いつもは挨拶を交わす程度のなおちゃんと遊ぶ、何をしようか、何をしたらいいんだろうか。気まずい、気を遣って距離をはかるような、私は子ども心に初めて感じる気持ちを覚えていた。

待ち合わせをした「恩田幼稚園」の園庭でそのまま遊ぶことにした。夕方、園児さんたちもみんな帰っていて、園庭は静まり返っている。誰に止められたわけでもないが、私たちは外部の人間で、もうそこでは遊んではいけないというような雰囲気だった。

私は思い切って、園庭を駆けて、滑り台まで行き、それに登り滑った。なおちゃんは、少し遠くから見ている。滑り台から滑り降りた瞬間、何人かの先生が園舎からこちらを見ているのに気がついた。

「怒られる」

瞬時にそう思った。私たちは急いで園庭を跡にした。

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「恩田幼稚園」を逃げるように跡にした私となおちゃんにはまた急に居場所がなくなった。私が乗ってきた自転車をなおちゃんと代わり番こに押しながら、近所をぐるぐると歩いた。私は、正直「もう帰りたいな」と思っていた。(なおちゃん本人にもそれを伝えたような気がする。)

何となくお互いつまらない、どうしようもない雰囲気だったとき。どちらともなく「聖和幼稚園に行ってみよう!」ということになった。「聖和幼稚園」は私の出身園だ。そうすることに決めたとき、私はわくわくした。なおちゃんも笑顔で、とてもわくわくしていたと思う。

ただ、「聖和幼稚園」は校区外にある。校区外へは子どもだけでは行ってはいけないことになっていたし、ましてや自転車に乗ることが許されていたのは校区内どころか近所の1km四方だけだった。

幼稚園児の頃は、「聖和幼稚園」にはバスで通っていた。「聖和幼稚園」に歩いて行ったことはなかったし、子どもだけで行こうと思ったこともなかった。ただ、両親は時々自転車で幼稚園にお迎えに来ていたし、歩いて行けない距離ではないことは子どもの私にも何となく分かった。

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そうと決めてからの私となおちゃんは早かった。2人して自転車を代わり番こにこぎ、その後をもう一人が追いかけた。私がこぐ自転車をなおちゃんは後ろから押してくれて、なおちゃんが自転車をこぐときには私がそれを後ろから押した。

「まいちゃん、まいちゃん」「なおちゃん、こっち!」

それまでどこかお互いに気を遣っていた距離は一気に近くなって、なおちゃんと急に仲良くなった気がする。

「聖和幼稚園」は、子どもだった私たちには本当に遠かった。「こっちでよかったっけ?」途中2人で何度も確認をした。道で会った大人の人にも途中何度か訪ねた。途中、公園に立ち寄って休憩をして、水を飲んだり、一緒に持ってきたお菓子を食べたりもした。

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何度も道に迷いそうになりながら、私となおちゃんは「聖和幼稚園」に到着した。「聖和幼稚園」では、私たちと同い年くらいの男の子たちが遊んでいた。そっと門を開けて、園庭に入る。

懐かしい遊具(2年前までは私も毎日ここで遊んでいた!)に、私の気持ちは一気に高まった。

網を登り、三角の屋根が付いた高いすべり台をすべった。背の高い男の子たちしか登れなかった虹色のうんていの上にも簡単に登れる。

「もくもくハウス」に入って、なおちゃんとたくさんお話をした。途中から、私たちが来る前から遊んでいた男の子たちも混ざって、一緒に遊んだ。(向こうは気づいていなかったけれど、年長組のとき、隣のクラスだったわんぱくな男の子だった。)

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「まいちゃん」と園舎から呼ぶ声が聞こえる。

「まいちゃん」「どうやって来たの」「新しいお友達?」

えとう先生だった。えとう先生は、少しびっくりした表情で、でも笑顔で私に聴いた。

「小学校のお友達のなおちゃんと来たよ。」

「そうだったんだ。よかった。久しぶりに会うね。」

えとう先生は嬉しそうに言った。

他の先生たちにも見守られながら、私たちは日が暮れるまで遊んだ。帰り際、先生たちは、「お母さんには、内緒にするね。」と言ってくれた。

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「恩田幼稚園で逃げなくても、怒られなかったかもね。」

すでに日も暮れて真っ暗な中、「聖和幼稚園」から帰る途中になおちゃんは言った。私もきっとそうだろうな…と思った。

怖くなって逃げるように園庭を出てしまったけれど。きっと恩田幼稚園の先生たちも、なおちゃんのことを見つけていたら、聖和幼稚園の先生たちみたいに優しく迎え入れてくれていただろう。

次に遊ぶときは、また一緒に「恩田幼稚園」に行ってみよう、となおちゃんと約束した。恩田幼稚園に行って、なおちゃんの先生たちにも会ってみたいと思った。

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「次に遊ぶとき」は、来なかった。結局「恩田幼稚園」には行かずじまいだ。

あの日の後のなおちゃんと私も、下駄箱ですれ違えば挨拶くらいはするが、話し込むようなこともなかった。

でも、私はなおちゃんに挨拶するときには、「聖和幼稚園」に一緒に行ったな、と思い出した。小学校でもどこかきごちない新しい友達と、懐かしい幼稚園を訪ねたこと。(その道中も、大冒険だ。)

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どうしてあの日、幼稚園で待ち合わせをして、2人して出身園へと行ったのだろう。

子どもの頃の記憶には、どうしてそうなったのか説明がつかない、でも鮮やかに心の中に残る思い出があるものだ。

なおちゃんと遊んだあの日のこともありありと記憶に残っている。なおちゃんと私は、今も小学2年生のままだ。


#エッセイ #子どもの頃の記憶  

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