見出し画像

恋愛下手な沖縄娘が、東京で仕事に夢中になり、沖縄に新たな夢と恋人を連れて帰る話(仮)【小説の下書き その7】

下書きです。
あとで書き直します。

これまで書いてきた文章も、一人称に書き直すかもしれません。


3.佐々木 難題と知る

吐く息が、ハッキリと白くなった。私は、マフラーを忘れたことを小さく悔やんだ。
師走だからか、それとも寒さが理由なのか、すれ違う誰もが急いでいるように見える。

目的の居酒屋の看板が見えた。腕時計で時刻を確認すると、19時30分を過ぎていた。

玄関は、ガラスの引き戸で、ガラガラと、懐かしい昭和の音をたてた。

「っらっしゃい!」という職人らしい掛け声と、「いらっしゃいませ~」という、やわらかな若い女性アルバイトの声が同時に飛んできて、飲食店は、こうじゃなくっちゃと嬉しくなった。

お座敷は奥にあると前もって聞いていたので、テーブル席を縫って、奥へと進んだ。お座敷はすぐに分かったが、もの凄い人数での大宴会が行なわれている。

本当に、このグループなのだろうか。そう考え右往左往していたら、「佐々木さんですか?」と、声をかけられた。

「そうです。佐々木です。あ、瀬戸さん、ですか?」

「そうです。幹事の瀬戸です。外は寒かったでしょう。どうぞ、どうぞ。ここに席を作ってありますので」と、テーブルの一角を示してくれた。店員がおしぼりを手に、待機していたので、「とりあえず、生、1つ」と注文をした。

「今日は、ありがとうございます」と瀬戸さんが言った。

私は、「凄い人数ですね。いったい何人が集まったのですか?」と聞かずにはいられなかった。

「63人です。隊長を入れると64人ですね」と、瀬戸さんは即答した。

「63人! だって、全員、ひまりさんのツアー客ですよね?」
「そうです。隊長のツアーに参加すると、だいたい9割の方が【ゆ会】に参加します。だから、メンバー数が凄いことになっていて」

「9割?」と、私の声は裏返っていた。
そこにタイミングよく、生ビールが届いた。

瀬戸さんは、同じテーブルのメンバーに、私を紹介してくれて、そのテーブルの面々だけで軽く乾杯がなされた。私は、サラダやお刺身をいただき、ビールを飲んだ。

そして思った。

こんな状況は、想像を遥かに超えている。アイドルとか著名人ならともかく、世間的には無名の、たった1人のツアーコンダクターを慕う人たちの忘年会なのだ。
参加者も、みんな分別のある大人なのだ。50代、60代が圧倒的に多い。男女比では、やや女性が多かった。

ひまりさんを“女性”として慕い近づく男性も、多少はいるのだろうが、この状況をザ~っと見ただけで、ツアーコンダクターの、つまり“隊長”の魅力で、これだけのファンが集まったと分かった。

大企業の管理職が忘年会を開催しても、これだけの人数が集まるとは思えない。ゴマをする為だったり、出世に響かないようにと、損得のソロバンを弾き笑顔の仮面をつけて参加するのが、サラリーマンの忘年会じゃないか。

この、【ゆ会】は、完全なる自由参加なのだ。

こんなにも、ひまりさんに、いや、隊長に「会いたい」と思い行動する人がいる。この光景は現実なのか?

「佐々木さん、これって、隊長の財産だと思いませんか?」と、私の心を読んだかのように、瀬戸さんに声をかけられた。

我に返り、「確かに。単なるファンクラブで、宴会をするだけじゃ勿体ないですね」と答えたが、まだ私は、座布団が尻に敷けていない浮遊感の中にいた。

「でも、瀬戸さん。瀬戸さんの【ゆ会】でも活動って、完全にボランティアなのでしょ?」と、聞き返した。

「そんなのは、全然。そもそも、隊長が作りたくって出来たんじゃなく、僕たちが作りたくて、勝手に作ったのですから」

「瀬戸さんはそう言うって、ひまりさんから聞いていますよ。でも、何か考えないと、この人数は、1人や2人で管理できるキャパを遥かに超えていますよ」と、私は言ったが、同時に、簡単に解決案は出ないと悟ってもいた。

そこに、ひまりさんがやって来た。

「佐々木さん、来てたの~?」と、いつもの弾ける笑顔を見せてくれた。

「今着いたところ。ひまりさん、あいや、隊長、スゴイね~、この人数は!  大盛り上がりだね~!」

「でしょう! もう、みんなに頭が上がらないさ~。で、瀬戸さん、相談があるんでしょ?」

「あ、はい。佐々木さん、良かったらこの宴会の後、僕と佐々木さんだけでミーティングさせて欲しいんです。この現状は、言葉で説明するよりも見てもらった方がイイと思って、お招きしました。その上で、色々と運営の効率化とか、問題点の解決案とかを…」

「もちろん、私は大丈夫。ここからは、ちょっとお酒を控えて、ウーロン茶に変えよう」

「いえいえ、どうぞ飲んでください」

「そういうワケにはいかないな。これは、かなりの難題だからね」と、私は言った。

「私も相談があるから、そのミーティングに…」と、ひまりさんが言いかけた。
最後まで言えなかったのは、瀬戸さんが言葉を被せたからだった。

「ミーティングは、僕たち2人だけでやります。実は、隊長に内緒で相談したいこともあるんです。サプライズ企画を考えていて。だから隊長、今回はごめんなさい」と。

そう言って、瀬戸さんは手を合わせ頭を下げ、拝み頼むポーズをした。

「ええ~? サプライズ~? なら参加できないか~」と、ひまりさんは渋々あきらめた感じになった。「じゃあ、佐々木さんには後でメールしますから、ミーティングの前に読んでくださいね」と言った。

隊長の用事が済むことを、首を長くして待っていたテーブルの隊員たちが、「隊長」「隊長」と話しかけた。

「隊長、なに飲んでるの?」「飲むのある?」と、みんなが世話を焼く。

「隊長、ロンドンで、テロに遭ったの?」
「大変だったって、ウワサで聞いたよ」

「そうなの。テロには遭ってないけど、大変だったのよ~」と、喜々とした表情で、ひまりさんは語り出した。

ひまりさんは、ほぼ100%、自分をさらけ出している。
ウソも計算もない。
ウソや計算があったとしても、それは100%隊員の為のウソや計算だろう。

そういうことが、伝わっているのだ。
語って説明などしなくても、それでも、ちゃんと伝わっているのだ。

私は、すごいなぁと心の中で、あらためて思った。

* * *

宴会が終わり、私も店の外に出た。すぐに帰る者たちもいたし、気の合う仲間と雑談する者たちもいた。
ひまりさんの周りには、1番大きな人だかりができてている。

【ゆ会】は、2次会が禁止なのだという。

参加できる人と、参加したいのに——つまり、まだ隊長と一緒にいたいのに——事情があって帰らざるを得ない人と、不公平ではないかという意見があり、なんだかんだと話し合って、2次会は禁止となったらしい。

隊長のひまりさんを含まない2次会は、それは【ゆ会】ではなく、単なる飲み会だという解釈で、自由らしい。

私は、不公平だからという理由は、きっと半分だろうと推理した。
もう半分は、隊長の、ひまりさんの負担を軽くすることが目的だろう。

ひまりさんが、寝る間もなく働いていることを、瀬戸さんはじめ、多くの隊員が知っていたし、心配の声も上がっているらしかった。

私と私の隣にいた瀬戸さんと、なんとなく駅の方へ歩き出していた。

「どこでミーティングしますか?」と瀬戸さんが聞いてきた。瀬戸さんの隣には、チャームングな奥さんがピッタリと寄り添い歩いていた。

私たちは、駅近くの喫茶店に入ることにした。そのとき、私の携帯電話の通知音が鳴った。ひまりさんからのメールだ。私は、歩みを遅くして、メールを読んだ。

このまえ、ゆ会のメンバー2人がケンカしちゃったの。(軽い、言い争い)
詳しくは瀬戸さんやむっちゃんに聞いて下さい。

私は、ゆ会の隊員とは恋愛禁止の掟を作りました。
これは、ゆ会のみんなに発表した方がイイのかな?
それとも、発表は要らないかな?

佐々木さんの考えが聞きたいです。
じゃあ、ミーティング、お願いします。
いつもありがとうございます!

「瀬戸さん」と、私は先を歩く2人に声をかけた。
2人が、歩みを止めてくれた。

追いついた私は、「そういえば、さっき瀬戸さんが言っていた、サプライズの相談って、どんな内容ですか?」と質問した。「簡単なら、歩きながら聞こうかと思って」と。

瀬戸さんは、「あれは方便です」と言った。「ああ言わないと、隊長は帰ってくれないと思ったんです。このミーティングに出るって、言い張ることが予想できたので、あのように言っちゃいました」

私は、すぐ納得した。ものスゴク合点できる言い分なのだ。「じゃあ、ケンカの相談ではないんですね」と、話を進めた。

「ケンカ?」
「ほら、○○さんと××さんが、ケンカになっちゃったじゃない」

「ああ。隊長に交際を申し込んだ男性がいて、他の男性が、そんなことを言うなとか…。まあ、ちょっと揉めちゃったんです」
「××さんも、隊長のこと、好きなんだよね」

「そうなの?」
「分かりやすく、バレバレだったと思うけど…」

「なるほど」と、私は言った。
おそらく、これから入る喫茶店でのミーティングは、30分では終わらない。

私は、二日酔いを考慮し、明日の午前中に予定を入れていなかったことを思い出した。
これは神様が、トコトン付き合ってやれ、と言っているのだろう。

ちょうど、喫茶店のあるビルにたどり着いていた。



その8へ つづく


※この記事は、エッセイ『妻に捧げる3650話』の第1534話です
※僕は、妻のゆかりちゃんが大好きです


コメントしていただけると、めっちゃ嬉しいです!😆 サポートしていただけると、凄く励みになります!😆