第156話 ナルマールさん②


僕が滞在した、バリインペリアルホテルは、全て自動ドアだった。

自動ドアは自動ドアでも、すべて人力の自動ドアだ。電動ではない。24時間、必ずドアを開ける係の人がいるのだ。

ロビーやレストランなどでは、いつでもガムランが流れている。

ぜひYouTubeなどで、確認してほしい。どこかで聞いたことはあるはずだ。音色がイイ。リズムが独特でイイ。

なにがイイって、リゾート感がやさしく漂うのだ。脳が溶けていく感覚になる。


ホテルの滞在者には欧米人が多い。めっちゃ挨拶される。


「good morning!」

「あっ、おっ、モ、モーニン」(びっくりした~)


「halo~!」

「おお、ヘロー」(めっちゃ挨拶される~)


「good evening」

「グッイ~ブニン」(これは少し良かったんじゃないか?)


僕は、気さくな、そして礼儀正しい欧米人に、劣等感を抱いた。

自分の口から出る言葉が、「グッド」なら恥ずかしくないのに、「グッ」だとメッチャ恥ずかしい。発音頑張ってる感が、恥ずかしいのだ。

どんなに頑張っても、僕の英語はカタカナだ。なのに何をカッコウつけているんだ、と自分が自分に、そう思ってしまう。



◆2日目

ロビーでナルマールさんと会った。

ナルマールさんは、スっと姿勢を正す。頭から糸で吊られているかのような、美しい直立姿勢だ。

ゆっくりとお辞儀をして、これまたゆっくり

「おはようございます」

と、日本語で挨拶をする。


まず、8日目の計画を伝えた。その日は『1日中マリンスポーツ』という計画なのだ。ちょうどいいオプショナルツアーを申込みたい。

やりたいことを聞かれた。

・スキューバダイビング ・バナナボート ・水上バイク ・シュノーケリング ・パラセイリング などなど、思いつく遊びを言ってみた。

必ずやりたいのは、スキューバダイビングだ。

ナルマールさんは、いくつかの候補に当たるという。空きを確認して、明日、問題なければ申込み。そんな手順になるという。


両替所のことも聞いた。

「レートは安くても手数料が高いので、別の両替所がおススメです」と教えてくれた。場所や、交通手段も教えてくれて、僕は、基本移動はタクシーで良いと判断した。物価が安くて、負担は小さいのだ。


「チップの相場は、1千ルピアで充分です」とも教えてくれた。これはおそらく、昨夜の勝手ポーターに千円払ったのを見たからだろう。

僕は、「それならば、昨夜、その場で教えてくれてもイイのに」と、チラッと思った。


* * *


そう何度も、こうやって両替所に来るのは面倒だ。僕は、そう思ったので、少し多いかと思ったが、5万円を両替することにした。

参った。

財布やポケットに、入りきらない札束だった。


* * *


その日から夕方は、ホテルのビーチを散歩するようになった。バリ島の夕日は「世界で一番美しい夕日」と言われていた。

クタやレギャンのビーチでは、さまざまな人が声をかけてくる。


「マッサージ~?」が一番多い。

マッサージしませんか?というのだ。断っても、少しついてくる。

それでも断る。

あきらめて「残念ね~」とか言って、笑顔でバイバイしてくれる。

僕は、歩を進める。

「あ、落とし物ね~!」と大きな声。僕は振り向く。


「足跡、ねぇ~」と、めっちゃニコニコしている。

これ、絶対に何度もやっているだろう~!


この手のやつが、しょっちゅう来る。


これは、おそらくは嫌う人もいるだろう。でも、僕は嫌いじゃなかった。おもしろかったし、バリ人の、笑顔がとってもイイのだ。

屈託のない笑顔なのだ。

この「足跡、ねぇ~」も、してやったり、とかではないのだ。

少しは楽しんでいただけたかしら? って、そっちなのだ。


日本人なら、勧誘を冷たく断られたなら、「チッ」とか「チェッ」という感情を抱くのではないか?

バリ人には、その「チェッ」というニュアンスを、僕は感じなかった。



◆気が散って仕方ない

今日は、ゆかりちゃんがすぐ近くにいる。その状態で、この記事を書いている。

トヨエツのドラマを観ている。

泣いたり、わーわー感想を述べたり、CMについて僕に質問したり。

気が散って、記事が書けない。


この記事を投稿して、ゆかりちゃんが読んだなら

「人のせいにしちゃアカン」とか、

「わたし、トヨエツのような男性がイイ」とか、そんなことをのたまいそうだ。


でも、僕は、そんなゆかりちゃんが大好きなのだ。




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