『魔子ちゃんと七色に光る石』Mako and the Glittering Rainbow-colored Stone

昔の作品の英語版をYouTubeにアップしているシリーズの3作目は、日本語タイトル『魔子ちゃんと七色に光る石』(Mako and the Glittering Rainbow-colored Stone)。

 この作品は、『スプーの日記』や小さな絵本の妖怪っぽい本来の性に合ったタッチを開発する前、まだ商業イラストレーターとして頑張れるかなと思っていた頃に描いたもの。実際、魔子ちゃんのキャラクターと世界観を使って雑誌に読み物連載の仕事をゲットしたりもした。この絵本は雑誌連載が終わってから物語を書き下ろして挿絵をつけたものだ。これは英語版なので、あらすじをご紹介したい。

 魔子ちゃんは、都会のビルの屋上のテラスハウスに黒猫と一緒に住んでいた。彼女はいつも紫のウィッグをかぶっていた。なぜかというと、彼女の髪の毛はヘビだからだ。魔子ちゃんは人間ではなくモンスターなのだ。彼女の頭のヘビを見た人間の男の子は、皆、石になってしまう。しかし魔子ちゃんの国では「真実の愛を持つ者は石にならない」という伝説があった。魔子ちゃんは、いつか真実の愛を持つ人間の男の子に出会えると信じていた。
 ある月夜の晩、天窓から小さな男の子が魔子ちゃんの部屋に忍びこんできた。それから少年は月夜になるとどこからともなくやって来て遊んで行った。まだ子どものようで、チョコレートケーキを作ってあげたり、ゲームをしたり、お話ををしたり、たわいもない時間が過ぎていった。少年は、魔子ちゃんに虹色に光るきれいな石をプレゼントしてくれた。
 いつものように少年が遊びにやってきた日に、オーブンが燃えて火事になってしまった。魔子ちゃんと少年は天窓を伝って屋根に逃げた。すると、魔子ちゃんのウィッグが外れてヘビたちが顔を出した。しかし少年は石にはならなかった。ただ、白々と夜が明けてお日様が登ると、少年は大きなドラゴンに変身した。
「君は人間の女の子ではなかったのだね。僕たちは暗くて冷たい氷の国に住んでいる。氷の国では、人間の女の子と恋をすれば暖かい人間の国で暮らすことができると言われている。だから月夜の晩だけ人間に変身してやってきた。しかし君は人間ではなかった。僕の夢は終わってしまった」
 ドラゴンに変身した少年は、そう言うと空遠く飛んでいってしまった。
 それから、少年は二度とテラスハウスに来なかった。魔子ちゃんは少年からもらった七色に光る石を頑丈な箱に入れて蓋をした。自暴自棄になり、夜な夜な街に繰り出してはウィッグを取ったりもした。すると街中の男が石になってしまった。そんなことをしても、心にぽっかりと空いた穴を埋めることはできなかった。
 その様子を見ていた、魔子ちゃんの黒猫は、七色に光る石を持ち出して川に流した。石は川から大海へと流れていき、ドラゴンの住む氷の国に流れ着いた。ドラゴンが木箱を開けてみると、魔子ちゃんのきれいなスカーフに大切に包まれた七色に光る石が現れた。ドラゴンは涙を流し大空へと飛び立った。彼女がモンスターであろうと人間だろうと、そんなことはどうでもよいことだったのだ。
 月夜の晩、ドラゴンは魔子ちゃんのテラスハウスの玄関をノックした。ドラゴンの少年は子どもではなく、立派な青年の姿になっていた。

 「物語」らしきものを作ることができるようになってきた最初の頃の作品。ずいぶん経ってからリュティを読んで、自分の書くものはほとんど民話やむかし話の「型」を持っていると分かってきた。象徴モチーフが自律的に目的に向かって進んでいるのだ。これは特に、むかし話的な作品。個人としてのわたしは、このお話の主要なテーマである「愛」についての理解はまるでないダメ人間。その辺のテーマにはすこぶる弱い。愛など何も分かっていないし、それどころか人間にあまり興味はなく人はあまり好きにもならない。だから、これは何らかの心の型が意識に現れてきたために書いた作品なのだと思う。

2020.2.7
なかひら まい

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