紫式部日記第26話宮は、殿抱きたてまつりたまひて、

(原文)
宮は、殿抱きたてまつりたまひて、御佩刀、小少将の君、虎の頭、宮の内侍とりて御先に参る。
唐衣は松の実の紋、裳は海賦を織りて、大海の摺目にかたどれり。
腰は薄物、唐草を縫ひたり。少将の君は、秋の草むら、蝶、鳥などを、白銀して作り輝かしたり。
織物は限りありて、人の心にしくべいやうのなければ、腰ばかりを例に違へるなめり。

※宮:若宮。
※殿:藤原道長。
※虎の頭:虎の頭を模した造り物。その影をお湯に映す、あるいは浸して邪気を払ったと言われている。
※海賦:大波、海藻、魚介など海浜の模様をあしらった織物の紋様。今回は白一色の決まりがあるため、色摺りでなく白色織物の大海に似せた。

(舞夢訳)
若宮は、道長様がお抱きになられ、お守り刀は小少将の君、虎の頭は宮の内侍が、それぞれにお持ちして、先を歩きます。
宮の内侍の唐衣は松の実の紋様、裳は海賦を織り出して、大海の摺り紋様になっています。
裳の腰の部分は羅で唐草が刺繍されています。
小少将の君は、秋の草むらや、蝶、鳥などを銀細工で作り、きらめかせています。
織物の唐衣は、身分の制限もあるので、思うように着ることは出来ないので、腰の部分だけは、いつもとは違うものを用いたと思われます。

これも、御湯殿の儀式の状況記録。
特にお役目をする女性の衣関連の細かな記述をしている。
身分制限で使える色に限度があった時代(禁色)なので、それにも注目。
もちろん、儀式参加者は、百も承知なので、間違うことはない。
ただし、和服文化が消え去った現代では、なかなか想像がつかない、実感がないのも現実である。

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