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紫式部日記第129話斎院に、中将の君といふ人はべるなり(4)斎院と中宮御所の女房の違いについて

(原文)
かういと埋れ木を折り入れたる心ばせにて、かの院にまじらひはべらば、そこにて知らぬ男に出であひ、もの言ふとも、人の奥なき名を言ひおぼすべきならずなど、心ゆるがしておのづからなまめきならひはべりなむをや。まして若き人の容貌につけて、年齢に、つつましきことなきが、おのおの心に入りて懸想だち、ものをも言はむと好みだちたらむは、こよなう人に劣るもはべるまじ。

(舞夢訳)
(私のような)埋もれ木を折って、さらに土に深く埋め込んでしまったような(人前に出ることを嫌がる)性格の女であったとしても、もし、あの斎院にお仕えする立場になったとすれば、万が一、その歌会などで、見知らぬ男性と顔を合わせ、歌を詠みかわすことになったとしても、「世間の誰からも、軽薄な女だと言われるような、そんな詠み方はしない」と、思うのです。だからこそ、自然に気合も入り、優雅な振舞いが身に着くことになるのでしょう。

まして、若い女房で、容姿も、年齢も引き目を感じないような人が、それぞれ本気になって、恋の雰囲気を漂わせて、歌の中に風情を見せることができるなら、(中宮付きの女房は)斎院の女房達に、劣ることなどないと思うのです。


紫式部の「他に負けまい」と思う考え方は、やはり強い。

雑事など何もなく、優雅さと神々しさを求め続けられる賀茂の斎院にも、「負けたくない」のである。


余談になるが、「(私のような)埋もれ木を折って、さらに土に深く埋め込んでしまったような(人前に出ることを嫌がる)性格の女」は、面白い表現と思う。

そこまでの自虐的な言葉があったと、思うだけで、面白い。

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