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クリスマスのひと時


京都ホームズ特別掌編
『クリスマスのひと時』

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『もし、もうすぐ世界が終わると分かっていたら、自分はどうするのだろう?』

 骨董品店『蔵』の店内には、大きなクリスマスツリーが飾られている。
 控えめな電飾と大きな丸いオーナメントがキラキラと光っていた。
 今夜はクリスマスイブで、閉店後にホームズさんと食事に行く約束をしている。
 そのことを楽しみに思いながらも、私の頭の中はある思いが、ぐるぐると渦巻いていた。

「…………」

 私はハタキを持つ手を止めて、ふと柱時計に目を向ける。

 自分の時間が限られていると知っていたら、どんな気持ちで時計を見るのだろう?

「葵さん、どうしましたか?」

 ぼんやりと立ち尽くしていた私の背中に向かって、ホームズさんが声をかけた。

 驚いて肩がびくっと震えてしまう。
 すみません、と私は振り返ってカウンターの中へと視線を移す。

 そこには黒いベストに白いシャツ、緋色のアームバンドをつけたホームズさんの姿があった。
 彼は箱にギッシリと詰まった領収書を一枚一枚確認しながら、ノートパソコンに打ち込んでいる。年末なので経理の仕事も多そうだ。

「実は昨夜、ネット配信で世界滅亡系の映画を観たんです」

 タイトルを伝えると、ああ、と彼は顔を上げる。

「話題の作品ですね。面白かったですか?」

 そうなんです、と私はうなずいて話を続ける。

「はい、面白かったんですけど、つい考えてしまって、もし、本当にもうすぐ地球が滅亡すると分かってしまった、自分はどうするんだろうって」

 ふむ、とホームズさんは腕を組む。

「葵さんは、どうすると思いますか?」

「……行きたいところ、見たいもの、食べたいものたくさんあるんですが、いざ1ヶ月となるとすべてすべてが虚しく感じてしまいそうで」

「そういうものでしょうか?」

「分からないんですけど。ホームズさんはどうすると思いますか?」

「まず、1ヶ月と分かったら、できる範囲で1ヶ月分の食料を確保しようと思います。最初の内はほとんどの人は半信半疑でしょうから、スーパーも営業していると思うんですよ。ですが、時間が経つと皆、仕事を放棄するでしょうし、食料の確保が困難になってくると思うんですよね」

 現実的でホームズさんらしい、と私は黙って相槌をうつ。

「あとは、家で1ヶ月間のんびり過ごしますね」

 微笑んで言うホームズさんに、私は小さく噴き出した。

「そんな。どこかに行きたいとか思いません? たとえばとても綺麗な南の島とか」

「いえ。おそらく、もし美しい南の島に行っても、いざ終焉を迎えるとなれば慣れ親しんだところに帰りたいと思う気がするんですよね」

「そうかもしれないですね」

 納得して首を縦に振っていると、ホームズさんが手招きした。

 なんだろう? と私は小首を傾げながらホームズさんの許に歩み寄る。

 彼はそっと私の頬に掌を当てた。

「そうなったら、二人きりで過ごしましょう。二人で料理をして、美味しいものをたくさん食べて、映画を観て、本を読んで、キスをして、ベッドでいやってほど愛し合いましょう」

「っ!」

「そして、運命の日まで手を繋いで、寄り添っていましょう」

 しっかりと見つめられて、私の心臓が強く音を立てる。

「ふ、不思議です。そんなふうに想像すると、怖くない気がしてきます」

 静かにつぶやいた私に、彼は柔らかく目を細める。

「そうですね、僕もです」

 僕は、地球が滅亡するよりもあなたを失ってしまう方が怖いです。

 最後にささやいたホームズさんの声が聞き取れず、私は「えっ?」と前のめりになる。

「いえ、地球が滅亡しなくても、生物は皆、限られた時間を生きています。ですので、時間を大切に過ごしたいですね。時にうんと濃厚な時間もご一緒したいです。今夜は特に」

 覗き込むようにしてささやく彼に、再び私の鼓動が強くなる。

「──はい」

 私は恥ずかしさに目をそらして小声で答えた。

 それはほんのり甘いイブのひと時。

〜Fin〜


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