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最初に座った席が好き 斎藤コーヒー店 内神田店

午後から豪雨予報のお昼少し前だった。
神田は喫茶店が多いのにどこもそれなりに人影が見えて、外で働いていることは天気など何も関係なく、毎日を繰り返している人たちの恩恵はきっと私も受けてる。有難い。
たまにしか来ない神田だからどこに入ろうかなと電車で考えながら来たけど決めきれず着いてしまった。とりあえずガード下の大好きな神田珈琲園に近づくルートで自分を安心させつつ、なんとなく、今日は新しいお店に入ってみようかな、といつものじゃなくて大丈夫な気がするな、と思いそのまま通り過ぎた。

神田駅から少し離れるからいつもその前に何処かに吸い込まれてたどり着いたことがなかったコーヒー店。行ってみよう行ってみよう。言うほど離れていないのにね、誘惑が多いから。

やってるかな、と一瞬不安になる暗めの照明をのぞきこむ。ドアを開けたら珈琲の濃い香り。梅雨の寒い日だったから香りが強めに立ち込める、ほうとする。
カウンターでメニュー、思いのほかたくさんあり少し迷ってミックスサンドのトーストにしてもらう。
マダムに何が入ってます?と聞いたらたまごハムレタスにトーストしたパン。普通の完璧なやつだ。マスタードを親切に抜いてくれて嬉しい。一緒にウインナコーヒーもお願いする。
一段上がるタイプの奥の空間、更にカウンターの端の特等席を見つけて落ち着く。

こんもりしたクリームのウインナコーヒーに既視感があって、朧げな記憶だったけど調べたらやっぱりサカキシンイチロウさんの記事を昔読んだのはこのお店だった。ぼそぼそにならないギリギリのかたさのクリームは丁寧に作らないと出来ないやつ。

クリームは熱いコーヒーでゆるく溶けはじめて一口すくってぱくっと食べる、幸せ。サカキさんも早くクリームをたべたいから急いでお気に入りの席を目指す、ということを書かれていたと思う。同士はいつだってうれしい。

ミックスできましたーと呼ばれて、トーストして温められたパンからはたまごの匂いがぷんとして、私はこの感じが好き。熱いものの匂い。
さくっと焼かれたパン、厚めのハムとたまご、シャキシャキのレタス。普通の丁寧なやつ、人に作ってもらう最高のやつ。ゆっくりたべたいけど美味しいから口が早くなってしまう。

気づくと8割方席が埋まっているのに騒がしさはなく、カウンターの端に収まっている自分と同じように一人の人も、グループのサラリーマンもいる。その場の会話がきちんと選ばれている安心感というのは物凄くお店の雰囲気を作る。それぞれの場所に収まり落ち着いている光景。

もう少し過ごしていたいけどコーヒーはすっかり飲み終わってしまったので、コーヒーゼリーを追加した。背の低いパフェグラスにぶるぶるしたゼリーは追加したから見られた幸せだった。四角いスプーンに乗せ、クリームを注いで今度こそゆっくり味わい味わい、この空間の一員を楽しむ。

帰り道、神田エースの前を通る。
閉店のお知らせが貼られ閉じたドアの向こう、マスターの姿がカウンターに見えてほっとする。
いつもそこにあると思ったら大間違いだ。好きなら会いに行って、いつさよならが来ても、ありがとうを言えたらそれでいい。

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