私のシェフ

私は以前、オーガニックカフェで調理の仕事をしていた。

その時ほぼ素人の私に1から料理を教えてくれたのが、当時の女性シェフ。シェフは単身フランスに渡り修業をし、日本の三つ星レストランで働いていた経歴を持つ、小さい身体だが、腕にはタトゥー(フランスで入れたらしい)、耳にピアス、金髪、で怒るとめっちゃ怖かった。

でもピヨピヨの私に、包丁の使い方から野菜や肉の扱い方(洗い方から皮の剥き方、調理の仕方まで)を丁寧に教えてくれた。キッチンは2人しかいなかったから、シェフのフォローをひたすらするわけだけど、シェフに合わせるスピード、先読みした準備や仕込み、オーダー、まかないとやることが多くて本当に最初は辛くてたまらなかった。泣いて帰る日ばっかりだった。

でも、シェフが「さく〜」って呼んで笑顔でテンションをあげてくれる。「行くよ!」とか「出るよ!」とか声をかけてくれて二人でキッチンを回していく。時間ができるとシェフは少年のような笑顔で私の名前を呼び、お腹が痛くなるくらい面白い話をしたり、趣味のHIPHOPダンスを見せてくれる。秘密のレシピを教えてくれる。シェフのフレンチは本当に本当においしい。おいしいものができたときは、ルパンの五右衛門風に「また美味いものを作ってしまった(またつまらぬものを切ってしまった)」とすかし、歯の矯正でカレーが食べれないと嘆く、そんな厳しくてお茶目なシェフがわたしは大好きだ。賄い係の私のお味噌汁は優しい味がして大好きだと言ってくれた。さくは、どこでもやっていけるよ!って励ましてくれた。

シェフに出会わなければ、一生料理は苦手なままだったし包丁も使えないままだった。食材と楽しく向き合えるようになった。私がお店をやめる時にくれたミニペティナイフとシェフから引き継いだレシピは一生の宝物だ。

今、シェフは山形の地元で自分でフレンチのお店をやっている。

「なかなかいけないけど、絶対行きますね。大好きなシェフに会いに。会ったら泣いてしまいそうです。」

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