見出し画像

最終面接で言いたいことが言えなかったあの日から

その会社の最終面接は、圧迫面接という噂だった。

私が就活をしたのはもう15年くらい前のこと。いまほどSNSが当たり前の時代ではなかったけど、それでも先輩や同級生からの情報とか、就活関係の掲示板とか、いろんな情報が飛び交っていた。

「圧迫面接のときは、何を言われても動じず、喋りすぎないで端的に質問に答えるべし」と、どこかの誰かが言っていた。誰だったんだろう?

誰が言ったかも覚えていないそのアドバイス通り、私は「何を言われても動じないぞ!!!」ということだけを心に面接に向かった。

大学4年の春。あまり順調とは言えなかった就職活動で、初めての最終面接。第一志望の会社ではなかったけれど、喉から手が出るほど内定はほしい。情報を頼りに、最終面接に臨むしかない。

・・・

最終面接当日。

その面接は、集団面接だった。私を含めて3人の学生が順番に、面接官の質問に答えていく。

緊張している私の心にあるのは、「何も言われても動じない。質問には端的に」ということ。

そして実際に、面接官の質問には、堂々と端的に(短く)答えてみせた。

面接官:「志望動機はなんですか?」
:「〜〜〜〜〜〜〜です」
面接官:「ありがとうございます。では次の方は?」
:「……」


あれ…???? あれあれあれ…??


たしかに淡々とした雰囲気ではあるものの、別に圧迫されてない。

そして気づいた。集団面接なので、面接官とじっくり会話を深めていくようなラリーにはなりにくい。1人ずつ、一問一答みたいな感じで順番に話を振られていく。何往復かやりとりが発生するつもりで短く答えたけど、特に深掘りされないまま次の人の番になってしまった。

「堂々と、端的に」を胸に面接に臨んだ私は、端的とかじゃなくて「ただ何も言ってない」状態だった。

一方、私の次に話している隣の男子学生。

少し長いのではとも思ったけど、何より生き生きと、前のめりに志望動機を語っていた。

まだ終わらないその面接の間に、私はもう確信している。

「私は落ちて、あの男の子が受かるな」

・・・


最終面接が終わった帰り道、そのキラキラ輝いていた男子学生と一緒になる。

「終わった…」という気持ちで疲労困憊。絶対受かるであろうその彼のことをすごいなあ…と思いながら、絶望を隠して一緒に歩く。

「志望動機、すごかったですね」とかなんとか、私が言ったような気がする。すると彼は、すっきりとした笑顔で言った。

「今日、これだけは絶対に言おうって決めてたんだよね!」


……あ〜〜〜〜〜〜!それだ! それだよ!

彼が輝いていたのはそれだ。私がダメだったのはそれが欠けていたから。

「この会社に入りたい、そのためにこれだけは伝えたい」という気持ちで話している彼と、「圧迫されても動じませんからね!!」という気持ちで受け身のまま構えている私。

違いは一目瞭然。どう考えても、誰がみても、採用したいのは前者。

私は、何も言いたいことを用意してなかった。表面上の志望動機と、本当かもわからない噂を踏まえた対策を握りしめていただけ。何も言えなくて当然だ。自分としては「端的」に答えたつもりだったけど、気持ちも中身も伴っていないので「表面的に短く答えただけ」だったのだ。


さりげない彼の一言に、雷に打たれたような気持ちになったのを15年経ったいまも覚えている。

予想通り、その会社から内定の連絡は来なかった。


・・・

言いたいことが言えずに、もとい言いたいことがないまま参加して撃沈した面接のその翌週。タイミングよく、別の会社の面接が控えていた。そこも、第一志望の会社ではなく、なんとなく知っているからエントリーしていた会社。

それでも、受けるからには自分の中に何かはあるはずだ。そう思って、「面接でこれだけは伝えて帰ろう」という言葉、そのときの自分にとって「嘘のない言葉」をどうにか掘り下げて、本番に臨む。

志望動機に、自分で「なぜ」を繰り返し問いかけていく。どの角度から聞かれても自分の言葉で返せるように、ノートに書き殴っていった。

きちんと自分の深い部分に向き合って臨んだ面接は、同じ「端的に」でも違う種類のものになったと思う。

そして結局、その会社に内定をもらい、その後10年間もお世話になることになる。

あの日、言いたいことがないまま砕け散った最終面接がなかったら、つかめていなかったチャンスと10年間だったかもしれない。

就活のときは第一志望じゃなくても、自分なりに嘘がないように導いた言葉は多分本当だった。気づいたら10年も働いていて、いまの自分を構成する大切な時間になったのだから。

社会人になっても大事なことだった

さて、突然ですが今度、noteで「#就活について語りたい」をテーマにイベントをやることになりました。

就活に関するnoteを持ち寄って、みんなで読み合う会

その会を開くにあたって、運営である自分も何か就活の思い出を…と思い必死で手繰り寄せた記憶。細かいことはほとんど覚えてないし、いまの就活事情とはいろいろ違いすぎて参考にならないことだらけ。

でも、何がなんでも伝えたい気持ち、「これだけは言いたいこと」を自分なりに抱え相手に向き合うことの大事さは、社会人になって10年以上経ったいまの方がずっと実感している。

その始まりは、就職活動中のもう顔も覚えていない男の子のことばだったんだ。

・・・

就活を経ての学びや、就活への不安、葛藤など。12月14日、就活noteを読みあってわいわいしませんか? 学生のかたはもちろん、年代問わずご参加いただけます。みんなで、同じテーマでnoteを持ち寄って楽しみたいです。

みなさんのご参加、お待ちしております!!