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星野道夫写真展〜悠久の時を旅する〜

星野道夫を知ったのは大学生の頃だった。たまたま遅刻している友人を待つために入った下北沢のビレバンで、何気なく立ち読みしようと手に取ったcoyoteの星野道夫特集に心を掴まれた。その後、20代でモンゴルに行った帰りの飛行機で旅をする木を読み、矢場町にあったビレバンで買ったNorthern DreamsのシリーズをDJ新人時代に夜な夜な読み、子どもが生まれてから買ったシロクマとアザラシの写真集をふとんの中で子どもたちとめくった。どの本もぼろぼろになりながら我が家の本棚に並んでいる。彼の本は常に人生と共にあった。

大学生の頃は自分と同じ年頃でアラスカの村長に手紙を書いてアラスカに飛び込んでいくその生き方に憧れていたんだろう。20代になって自然は人間のためにあるわけじゃなく自然自身のためにあるという本物の自然、自然観に大きな影響を受けて。30代も終わりに近づいた今、ここではない別の場所に流れる悠久の時の流れを以前よりももっと近くに感じられるようになった。

だけどそんなにずっと想いがあったというのに、実は写真展に行くのは初めてだった。

写真集と写真展がこんなにも違うなんて知らなかったから。

大きな写真は迫力が全然違う。目の前に対峙した大きなホッキョクグマは何だか触れそうで、大海原にしぶきをあげるザトウクジラのしっぽを前にまわりの雑音は聞こえなくなった。

「母子が一緒に暮らすのはわずか2、3年である」と書かれたホッキョクグマの授乳のシーンを見れば朝けんかしてしまった娘を思って泣きそうになり、苔むした美しい森の写真を前にもうまるでアラスカにいるような気持ちになった。

さっきまで過ごしていた時間とは別の時間の流れが確かにそこにはあった。

見た後、奥さまの直子さんのサイン会があり、買ったばかりの新版にサインをしてもらった。ふと「直子さんの好きなアラスカの季節はいつですか?」と聞いてみたら、少し考えて「やっぱり秋ですかね」と笑った直子さんの笑顔はとても素敵だった。冬が好きな道夫さんとはまた違う、直子さんの見るアラスカがふわっとそこに広がった気がした。いつかきっと行ってみたいな、アラスカ。

星野道夫を写真展「悠久の時を旅する」は4/25までJR名古屋タカシマヤの10階特設会場で開催中です。




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