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東京バレエ団「ジゼル」感想

 東京バレエ団「ジゼル」をU25シートで見ました。

 タイトルロールは秋山瑛さん、アルブレヒトは秋元康臣さんです。私は2人をドン・キホーテで見て以来、大変気に入っているので、今回も大きな期待を掛けて行きました。

 結果、期待以上のものを見せていただきました!!

 秋山さんは、キリッとしたキトリ、透明感があったタリスマン、そして、今回の素直で愛らしいジゼル、と様々な表現を見せてくれます。どの役を見ても「ぴったり」と言えるほどに、何をも演じられる素晴らしいダンサーです。

 また、秋元さんもしかり。上野の森バレエホリディで拝見した際は、「バジルっぽいな」と思ったのが的中し、バジルがぴったりでした。けれども今回のアルブレヒトはガラッと雰囲気が変わり、キザっぽいバジル風はどこに行ったのか、そこには純朴で素直で一途な青年がいました。

 登場のアルブレヒトは、素直に、恋している人間のきらめきを放っていました。秋元さんのインタビューも合わせて考えるに、素直で一途なのはアルブレヒトも同じだったのです。だから身分や境遇も顧みず、ひたむきに恋に走ってしまったのです。

 次期ソリスト候補が踊るとも言うべきパ・ド・ユイット。女性は細やかな振付でありながら、それを生き生きと見せる技量、また、男性の隅々まで揃ったジャンプの精度など大変素晴らしく、今後が楽しみになりました。

 髪を振り乱し1人自らを追い詰めるジゼルと、従者に寄りかかり助けを求めるアルブレヒトの対比。あの素晴らしいバリエーションを見ていないアルブレヒトはジゼルのどこにひかれたのでしょう。今回の2人から考えるに、それは素直さかなと。お互い似た者どうしだったのでしょう。ジゼルの狂死の後にアルブレヒトも狂ったように悲しみます。このお2人は役作りもよく合っていることながら、踊りの雰囲気もよく合っています。今後もこのペアで色々な作品が見てみたいです。

 第二幕では、佐野ミストレスのインタビューから、コールドの女性らしい表現を探しながら見ました。それはデコルテの美しさでした。美しく揃えられた首の傾きは、ただ冷徹なだけではない柔らかさを生み出し、乙女たちが若くして死んだ哀しみを持っていることを物語らせます。また、それと同時に一糸乱れぬ動きから非人間的な存在をも語ります。「女性らしさ」を出したウィリも見物です。

 ダンスマガジン編集長の三浦雅士氏により日本版マラーホフと謳われた秋元さんは、第二幕でより一層その細い脚線美としなやかな上体を見せつけます。天を振り仰ぎながら傷みと悲しみに苦しむアルブレヒトの真摯な思いが伝わってきました。

 秋山さんの柔軟性やテクニックは素晴らしいですが、上げた脚の爪先の意識がフッとなくなるのが見えてしまいます。また、ちょっと今回のジゼルは振付を追うだけでおしまい、に見える部分が出てしまいました。もっと筋力をつけて「足が語る」ようなダンサーになってほしいです。

 東京交響楽団は、新国立劇場オペラ「フィガロの結婚」から間を開けずにまた聴くことができました。今回の譜面はソロが多く、1人1人の技量が高いことがよくわかりました。

 ここで、最後、疑問なのですが、ジゼルは花を、アルブレヒトに残して消え去ります。大方、この花は「私を忘れないで」のようなメッセージに捉えられると思うのですが、今回なんとアルブレヒトはそれを置いて立ち去るのですね。と、言うことは、花の意味だけでなく物語の意味まで変わってしまいかねません。あれはどういう意味なんでしょうね??