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【研修医・専攻医向け】パーキンソン病治療薬の使い分け③<薬剤選択>

はじめに

こんにちは、ばくふうんです。
パーキンソン病治療薬のうち、①ドパミン系薬剤、②非ドパミン系薬剤の特徴を解説してきましたが、実際の処方の考え方を示していきたいと思います。
前回までの記事はこちら↓

病期別の選択

パーキンソン病と診断し、処方を開始する場合、年齢、運動症状の程度、合併症などの患者背景を考慮して処方を行います。
治療の大原則として、中枢神経系でのドパミン濃度をできるだけ一定にすることを目標に用量を調整します。
運動症状の改善という観点ではL-dopaが最も有効で、ドパミンアゴニスト、MAO-B阻害薬がこれに次ぎます。
一方、運動症状の進行予防という観点では、ドパミンアゴニスト、MAO-B阻害薬の方がL-dopaよりも効果的です。
つまり、若年患者の場合は運動症状の進行予防も優先すべき観点であるといえます。
以上を踏まえ、

  • 65歳未満の発症ではドパミンアゴニストで開始することを推奨(MAO-B阻害薬も推奨)

  • ただし、日常生活に支障をきたすほどの運動症状(運動症状の改善が急務)や、車を運転する職業に従事している場合(ドパミンアゴニストの傾眠の副作用が事故に繋がりかねない)などの症例に対しては早期からのL-dopa開始を推奨

という方針が、ガイドライン上も推奨されています。

進行期に入ると、L-dopa中心の処方ではウェアリングオフが問題となってきます。
ウェアリングオフに対しては、

  • ドパミンアゴニストやMAO-B阻害薬でL-dopaの効果を底上げする

  • 短時間のオフであればエンタカポンでL-dopaの効果を延長させる

という対処法があります。

このように、根幹の治療はドパミン系薬剤が中心的な役割を担います。
一方で、ドパミン増量にもかかわらず改善の乏しい症状が残る場合も多々ありますので、これらに対して非ドパミン系薬剤の使用を考慮していきます。

症状による選択(主に併用療法)

①運動症状

  • 振戦:プラミペキソール、ゾニサミド(抗コリン薬は有効だが、副作用の点で問題あり)

  • すくみ足:ドロキシドパ

  • 姿勢異常:イストラデフィリン

  • 嚥下障害:ロチゴチン、ロピニロール

②非運動症状

  • 抑うつ傾向:プラミペキソール

  • 排尿障害:ロチゴチン

  • 起立性低血圧:ドロキシドパ

繰り返しになりますが、基本はドパミン系薬剤を中心に処方を組み立て、それでもなお残存する症状に対して上記薬剤を使用していきます。

併存症による選択

①代謝

  • 腎機能低下:腎代謝の薬(プラミペキソール、アマンタジン)は注意

  • 肝障害:肝代謝の薬(ラサギリン)は注意

②精神面

  • 高齢者、認知機能低下:ドパミンアゴニストやMAO-B阻害薬、アマンタジンは幻覚のリスクあり。抗コリン薬は認知機能に悪影響。

  • 抑うつ:SSRIなどの併用が必要になる場合、MAO-B阻害薬は禁忌

パーキンソン病治療薬で肝機能、腎機能に注意を払う機会は少ないですが、それだけに上記薬剤については注意が必要です。
一方、脳神経内科は認知機能や精神症状とは幾度となく向き合うことになるため、精神面での注意点は確実に押さえておきたいところです。

おわりに

以上、パーキンソン病治療薬の選択において、考え方の概要を示しましたが、最後は個々の患者さんで様々に変化していきます。
頻回にオフが来る場合はL-dopa製剤の内服回数を増やしたり(4〜6回/日程度ならよくやります)、方針は間違っていなくても副作用のため使用できない薬剤が出てきたり、最終的には試行錯誤を繰り返す中で現状の中でベストの処方を探っていくことになります。
私もまだまだ勉強中の身ではありますが、コントロール不良の方の内服タイミングなどを調整して「かなり楽になりました」と言っていただけると、やりがいを感じる瞬間ですね。
研修医の先生は、こんな世界があるのか程度に知っておいていただければ十分です。専攻医の先生は、いつかご自身でやらなければいけない時が必ずやってくるので、入院時に初めて担当するパーキンソン病患者の持参薬を見て、どの薬剤がどういう意図で処方されているのかというのを意識していただくと、処方内容からどの症状で困っているのかというのがなんとなく見えてくると思います。
長々と書きましたが、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

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