歳をとるってこと

 歳をとったら体力が落ちるということは想定していた。ろくに体も動かしてないし。白髪が増えるということも想定していた。わたしは昔から色素の抜けたような毛が他人よりたくさんあって、これは白髪予備軍だとわかっていたから。

 ある程度、想像ができて覚悟もできていたことについてはショックを受けなかった。誰にだって「老い」はやってくるのだし。

 だけど、最近想定外の「老い」を実感してとても切なくなったのだ。

 それは食が細くなったということ。単に食欲が落ちるのなら、それは一般的に想定される「老い」であって、心の準備はできたのだけど、私が切なくなったのは、食欲はあるのに、食べられないということだった。

 テレビのグルメ特集で、タレントが大きくて分厚い赤身のステーキを食べているのを見て「おおー!ウマそー!」って思う。でもいざそのステーキを食べると、全部は食べられない。

 脳と肉体が分離してしまったような感覚。ボリュームのある美味しそうなものを、頭は食べたいと思うし、それを食べている自分を想像するところまでやって、幸せな気分になるのだが、お腹を空かせて、それと同じものを食べても同じように幸せな気持ちになれない。

 チーズたっぷりのピザ、フライドチキン、大ぶりの脂がのった秋刀魚…それらをもうきっと幸せな気持ちで完食はできない、ということを思い知ってとてもとても切なくなったのだ。

 残酷かもしれないけど、はやく頭が体に追い付けばいいと思ってしまう。食欲落ちたなって諦めるほうがまだ救われるのかもしれない。

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