食後のケーキ

 カフェで昼食を済ませ、一緒にオーダーしていた食後のケーキを待っている。

 もうだいぶ長い時間待っているのだが、これが一向に来ない。時計を確認すると、食事を済ませてもう一時間近くは経っている。ゆっくりしすぎじゃないだろうか? 気が長いわたしでも、さすがに待ちくたびれてしまっていた。

 どうするか? とりあえずは忙しいだけかもしれないからしばらく待ってみるが、待てど暮らせどケーキはやってこない。

 こうなると、もう頭の中はそのことばかりになってしまう。

 責任者を呼んでクレームをつける?いや、気弱なわたしにはそんなこと出来やしない。それなら、スタッフを呼んで催促する?それはなんだか悔しい。なにしろ品物はまだ全部揃ってないのだから、伝票は向こうにあるのだ。確かに注文をした証拠がそこにあるのに持ってこないほうがおかしいのだ。

 わたしは脳内でシミュレーションを開始する。このままケーキをあきらめてレジに行ったらどうなるか。レジ係はこう言うだろう。

 「お客様、伝票はお持ちではないですか?」

そしたらわたしはこう言ってやるのだ。

 「ありません。まだ食後のケーキが来てなかったものですから。もう一時間待たされています。これ以上待てませんので帰ります」とあくまで静かな口調で。そして続けてこう言うのだ。「責任者の方を呼んでいただけますか?」

 何事かと飛んでくる責任者。わたしは事の顛末を話し、すぐにスタッフ全員が集められ、犯人探しを始める、というところまで想像してなんだか嫌になってしまった。これではわたしがいやなヤツみたいじゃないか。

 やっぱり責任者のくだりはナシにして、伝票もケーキも来てなかった旨をレジ係に伝えて、食べ飲みした分のお金だけ払って帰ろう、と意を決したそのとき、やっとスタッフが席までやってきて、よりによってこのタイミングでこう言ったのだ。

 「食後のケーキですが、もうお持ちしてもよろしかったでしょうか?」

 この時点で食後一時間を軽く超えていた。この人の「食後」はいったいどれほどの時間なのだろう。わたしはすっかりあっけにとられてしまった。ほんとうは「何時間待たせるつもり?」と声を荒げて言いたかったのに、口から出たのはこんな言葉だった。

 「当たり前です。結構長く待っているんですよ」

 なんなのだ、このマイルドな言い回しは。そしてこの敗北感は。もっとガツンと言えないものか。結局は、運ばれてきたケーキもぜんぜん味がしないほど、わたしは疲弊してしまったのだった。

 気が長いというのも考えものである。

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