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家を買う(3) 新築を買うのか

【今回関わる人】
新家さん・・・新築マンション販売企業「フロント開発」の営業担当
古路さん・・・中古マンション仲介やリノベーションをまるっと面倒見てくれる「すまいクリエイト」の営業担当
※企業名・個人名はすべて仮名です。

 モデルルーム見学から帰ったわたしは、もらった資料と電卓を机に広げて、ウンウン唸りながら大いに悩んだ。

 新築はいい。新しければ新しいほど土台も造りもしっかりしてると思うし、災害にも強いだろう。資産としても価値が高い。そのぶん高いのはしょうがない。

 だけど正直、この新築には「わたしにとって必要のないもの」がいくつもあった。キッチンは対面じゃなくていいし、食洗機もいらない。二段三段のセキュリティロックもわたしは要らない。この分が価格にのっかってるのであれば、そこ省いて安くしてほしい。

 それと、家を買ったらかかってくるお金って建物のお金と管理費修繕費のほかにもある。火災保険や固定資産税。火災保険はだいたいの試算はできても、固定資産税のことはまるっきりわからない不安があった。ここらへんわたしはシロウトだから、年にウン十万はかかるんじゃないかって恐怖があったのよね。

 そういう疑問を持ってのぞんだ新家さんとの2回目の打ち合わせ。

 まず、いらないものを省いて価格を安く出来ないものか、恥を忍んで聞いてみたけど、それは無理だそう。

 次に固定資産税の金額について聞いてみたけど、こちらがビクビクするほどには高くないようだった。実際はマンションができてからじゃないと税金がいくらになるかはわからないって事だったんだけど、試算では年10万もかからないだろうってハナシだった。でもそれ、12ヶ月で割ると8000円くらいかー。月々の返済額や管理費で60000円かかることを考えると、最初の「月50000円で買える!」って印象とたいぶ違ってきちゃったなあ・・・。

 それに、やっぱり「まだできていないもの」に莫大な金額を投じるのは怖いと感じた。自分が欲しいタイプのモデルルームはないから見れないのだし、ローンだけ先に組んで、できあがってきたものが広告と全然違ったらどうすんだ。めっちゃ狭いとか。部屋は早い者勝ちだと思うけど、先行申し込みで購入を決める人、みんな勇者だわ。

 加えて、わたしはこの2回の打ち合わせをやってきて、新家さんの応対の仕方に不信感を感じていた。態度が悪いとか、説明が雑とかそういうのではなくって。

 新家さん、最後までわたしを名前で呼んでくれなかったんだよな。

 売る方はたくさんの購入希望者に会わないといけなくて、いちいち名前なんて覚えてられないのかも知らんけど、こっちにしてみればこれから35年のローンを組んで莫大な金額を返していくという一大決心なわけよ。それなのに、最初っから最後まで「お客様」としか呼ばれなかったんだよね。さすがに「この人からは買いたくないな」と思ってしまった。

 断るときは電話だったんだけど、やっぱりかなりしつこく理由は聞かれたよ。「とてもいいマンションだと言うことはわかったけど、わたしには贅沢すぎる」とか言って乗り切ったけどね。

 そんなわけで、新築を買うのは諦めた。やっぱりまだできあがっていない部屋を買うっているのはリスキーでしょ。みんなよく買うなあ。
 
 でも、買っちゃう気持ちもわかるのよ。何というか、いいものを見せられると魔法にかかっちゃったように欲しくなっちゃうんだよね。お金に余裕があって、資産として持つならそれでもいいかもしれないけど、高いお金出して自分で住むとなるとね。

 新家さんに断りの電話を入れた翌日、わたしは中古マンションの仲介やリノベーションを請け負う会社に話を聞きに行った。実は新築購入のテンションが下がってきたあたりで密かにこちらの会社にも問い合わせや資料請求をしていたのだった。前に中古マンションを購入してリノベーションした人から話を聞いたことがあったので、こっちも気になっていた。

 新築断念=購入断念とはならなかったわけだ。賃貸暮らしからはやっぱり抜け出したいし、一度上がったマンション熱は、そんなにカンタンにおさまるわけでもない。

「はじめまして、迷子さんの担当をさせていただきます、すまいクリエイトの古路と申します」

 この日出会った古路さんと、わたしは結構長いつきあいになるのだった。

 続く。

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