ある日の訪問者(1)

 その日の訪問者は国営放送の下っ端であった。

 休日はいつも居留守を使うが、その日はたまたま宅配便を待っていたので、チャイムが鳴ってうっかり出てしまったのである。わたしより若く見えるそのおとなしそうな青年は、自分の身分を告げもせずいきなり本題に入った。

「このマンションはBSが観れる物件なのですが、BSを観れるテレビをお持ちですか」と聞く。確かにウチのテレビはBSも観れるヤツだが、実際は観てない。だってBS観るには衛星契約が必要で、それってお金かかるんでしょ?だから、BS観れるテレビは持ってるのだけど、観ていないと正直に答えたわけ。そしたら、なにやらハガキ大の用紙を取り出して、それではこの項目に該当するのでチェックをお願いしますと言う。あたかもどんな機器を持っているかの調査をしているだけですと言わんばかりに。

 しかし、ここでわたしはハタと思った。おかしい。どう考えてもおかしい。今チェックをしたその用紙を見ると、どうやらこれで衛星契約完了来月から料金払えコノヤローといった風な書面だったのでその下っ端に言ったのだ。

「これ、衛星放送の契約書類でしょ?」

 何言葉巧みにしれっとサインさせようとしてんのさって事なんである。言っておくけど、わたしは何も衛星料金踏み倒そうって思ってるワケじゃない。支払わなければならないものは支払う。たとえ観なくても、機器を持ってるだけで対象になるんですということなら払おうじゃないか。真面目で実直で通ってるのだ。ただ、これにチェックするだけで契約完了とは聞いてないわけよ。これは言葉が足りなすぎるんじゃない?

「これはつまりさ、サインすると衛星の契約結んだってことになって、月額料金が発生するわけでしょ?それ説明してくれないの?お金かかるのはいいとして、いくらかかってくるのか全くわからないんだけど、そういう事も言わないの?」

 一息でまくしたてるように言い、そこで顔を上げたらば、下っ端、涙目。いやいやここで泣かれても。

困ったな。

 ちゃんと説明するってことを、教育していないのかな。いきなりサインさせるのは悪徳と思われてもしょうがないよね。それでなくとも受信料を取るってだけでイメージ悪くなってるのにさ。「それは下請けのしていることだから我々の責任ではありません」ってのは筋が通らないと思うんだよね。下っ端、相手がドアを開けたらまず身分を明かすということさえ教育されてないんだよ。それってそのまま親玉である組織のイメージになって、さらに印象悪くなるでしょう?

 いい番組を作ってると思ってる。昔はつまんなかったけど、今はドラマも人気だし、なかなか面白い切り口の番組を作ってると思う。でも顧客に対する説明がちゃんとできないなら、どうしようもないでしょう?

 そんなわたしのところに、今度は無作為に選んだ方対象のアンケートってのが回ってきてるんだけど、これ大丈夫なの?ただのアンケートと見せかけてなんかしでかしたりしない?

【追記】
 このアンケート、用紙は郵便受けに入ってて、記入したものを調査員が回収しに来るという国勢調査みたいなシステムだったんだけど、調査員が平日の夕方とかに来て「不在でしたのでまた来ます」って内容の紙を何度も入れてった。平日の夕方って大多数のサラリーマンは働いてるのにね。で、その夕方の訪問が何度かあって、最終的には「これに入れて送ってください」って封筒が入ってた。郵送でいいのなら、何度も訪ねてこなくても良かったんじゃないのかなあ?人件費の無駄っしょ?

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