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川崎とガザとマリンスタジアム

目の前の女の子とその親(おそらく東京観光中だと思われる)が、かわいいキャリーケースを持っている。長靴型。ピンクと紫と黄色でかわいいリボンの柄で、乗れるようになっているみたい。持ち手と足置きになりそうなでっぱりがある。
女の子は靴を脱いで窓の外を眺めている。お母さんは少し疲れているのかも。大きなリュックとそのキャリーケースとドラえもんの紙袋をつかんだまま、ぼーっとしている。
ディズニーランドの前を通ると、女の子は少し高揚した。お父さんが明日ね、って言う。そうか、きっとこの家族はこれから今日泊まるホテルに移動しているんだ。
私はというと、マリーンズの試合を見に行こうとしている。
目を落としたスマホでは人が病院に運ばれてくるのを、ヘルメットをつけた記者が半泣きでレポートしている。
病院に続々と到着するのは救急車と、ワゴン車だ。異様なスピードで走ってきて急ブレーキで止まる。止まると同時に中から人が走り出てきて、リアハッチを大急ぎで開ける。別の人が中からストレッチャーを引き出して、それを数人で押して病院の中に運んでいく。
記者は親子が犠牲になっていると話している。早口だけれどあまり流暢ではない英語だ。でも私にも聞き取れる。気持ちが込み上げているのがわかる。

高速で隣を走る特急電車の窓部分から、沿岸部の倉庫が横に流れていく。
バンッという音で電車と倉庫が切れた瞬間、遠くにマリンスタジアムが見えた。
朝降っていた雨は止んだ。

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