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わっしょい君2号との思い出

わっしょい君2号............

麻雀人生で俺に劣等感を与え続けた憎き男である。
わっしょい君2号こと谷くんは
3年前に最高位戦に一緒に入会したが、
今は辞めて普通に働いている。

僕はちょうど6年前くらいの19歳の頃に麻雀を覚えたが、最初にぶつかった壁は卓が立たないことだった。

麻雀を打ちたい...でもやってる人がいない....
なら雀士を育成すればええやんけ!!と思った僕は、当時入っていたサークルの奴らに麻雀を布教することに決めた。
その内の1人が、後に最高位戦の同期となる谷一貴(天鳳:わっしょい君2号)である。

そして先に言うと、後にこの男の影響を強く受けて、僕は麻雀プロに足を踏み入れることとなる。

谷は同じサークルの同期で、当時から今までずっと仲が良い。
しかし僕からしたら目の敵の様な存在でもあった。
顔が良く、背も高く、加えて喋りも上手いような奴で、それでいて明るく憎めない性格をしており、周囲からも人気者であった。
当然、女の子にも異常にモテていた。

春にサークルの新歓のビラ配りに他大学に向かった際には、
僕と谷が一緒にビラを差し出してるのに谷の方のビラだけ食いつかれたり(内容は同じ)、
新歓で出会った女の子4人に囲まれて別で遊びに行っていたり(俺は誘われなかった)と、
社会の縮図的な光景を見せつけられ続けていた。
他にも、サークルの飲み会で一発ギャグをやらされた時に、谷が披露したギャグは場を完全に支配する盛り上がりを見せたが、僕のギャグはスベりすぎて先輩の1人には「お前いい加減にしろよ」とガチギレされたこともあった。

何をやってもこの男には勝てないな..と密かに劣等感を抱いてこそいたが、
「こいつに麻雀教えたらもしかしたら無限にマウントを取り続けられるんじゃないか?」
と思った僕は谷に麻雀のルールを叩き込むことになる。


(右から2番目谷くん19歳 若い)

しかし、残念ながら谷は麻雀においても抜群の才能を発揮してしまう。

すぐにルールを覚え、僕よりも先に宣言牌の筋が意外と危ないことに自分で気付き、覚えて2ヶ月経つ頃には僕は奴に毎日のようにボコボコにされ続けるようになっていた。
一方僕は谷の宣言牌の筋に何度も振り込み続けその度に「この野郎汚ねえぞ!!!」とブチギレていた。
麻雀においても奴に負け続ける日々が始まる。

そして20歳になる頃には、大学の近くのジャンナックという雀荘で働き始めた。
ちなみに初出勤の日は、めちゃくちゃ声がデカく早口で何を言ってるかよく分からない、同い年で天鳳六段の学生と同番だった。後のぽんでらいおんである。
当時の彼はとにかく副露が多く、4センチ愚形1000点聴牌後に親リーチを受け「こうなったら押した方が微差で得よ〜」と
連呼しながら無筋をフル強打し続けていた。
しかしこの日は当然のように僕だけが一日中彼の1000点愚形聴牌に刺さり続けて大敗した。


そして谷もすぐにジャンナックで働き始めることとなるが、中々負けないどころか好成績を残し続けるのであった。
周囲からの麻雀の評価も高く、接客も丁寧でお客さんからの評判も良い。理想的な雀荘メンバーである。
僕は負け続けているが、谷は勝ち続けている。
麻雀を奴に教えたのは俺。
この構図は正直あまり面白くない、というかブチギレていた。

この頃僕は色んなメンバーに「俺と谷、どっちの方が麻雀強い?俺?」と聞き回っていたが、1人残らず「いや谷だろ」と回答された。
当時からみな麻雀には真摯だったのだ。

そして2人の格付けを決める出来事が起こる。

谷が「青雀旗杯」という全国学生麻雀大会に出場した時に、奴は何故か神奈川予選→関東予選→全国予選を次々と突破し、全国大会の決勝卓まで登り詰めたのだ。麻雀ってそんな勝てるの?

そして決勝の一半荘勝負では四暗刻をツモられるも何故かオーラスの親番で得意の裏ドラを駆使しなんやかんやで劇的大逆転優勝を収めた。

一方僕は店のテレビで谷の逆転勝利を見届けながら
何故か本走で6連続ラスを食らっていた。
光差す所に影有りである。


この出来事を境に僕と谷の格付けは一見済んでしまったかのように見受けられたが、僕は諦めずに次なる戦場に向かった。
天鳳である。

来る日も来る日も東風戦を打ち続け、21歳の頃にはなんとか天鳳七段に到達することができた。
(この後鳳凰卓東風戦を連打し続けた結果、
50戦24ラスを叩き出して1週間で六段に降段する)

天鳳七段というピカピカの新たな武器を手に入れた僕は、奴と麻雀の話をする際には頻繁に
イヤァ鳳凰卓に来たことない奴には分からんよな〜」
といった奇妙なマウントを取り始めるようになる。
分かっていないのはお前の方である。

しかし、後に奴もわっしょい君2号というアカウントを作成して天鳳を始めた結果、一瞬で七段に到達するどころか勢い余って九段まで到達してしまう。また俺の負け。
こうして天鳳元七段という凄いのか凄くないのかよく分からない武器すら取り上げられてしまった僕は完全になす術が無くなってしまい、完全敗北を喫することとなる。

店の成績でも奴に負け、そして天鳳でも負けてしまった。
もうどうしても奴に勝てない....
そんな思いが僕を蝕んでいく中、麻雀に対する諦めのような感情が芽生え始めるようになる。

麻雀で奴に勝つことはできないことを悟った僕は、
「麻雀で食っていくぞ!」という甘えた妄想とスッパリ別れて就職活動に励むようになる。己の能力不足を悟ったのだ。
そして2019年春からの就職が決まり、麻雀とはお別れすることを決めていた。僕は22歳になっていた。

一方、谷は持ち前の才覚を存分に発揮し続け、麻雀プロを志すようになっていた。当時はMリーグが発足していたので、奴もいつかここに出場するんだろうな...と思った。
麻雀も強く、華がある。
自分はそれを細やかに応援しよう、と思っていた。

しかし、そんな思いを覆す出来事が起こる。

谷の鳳凰卓發王戦予選突破である。

發王戦とは最高位戦が主催する、麻雀界で最も価値の高いタイトル戦の一つである。本戦への出場のハードルも高く、参加選手も誰もが知っているような有名選手ばかりである。一介の学生が思い出作りで参加するには場違いである様にも感じられる場所だ。

大会のシステムも2〜3半荘で上位2名が勝ち抜けを7回突破してようやく決勝進出という超過酷なタイトル戦である。その過酷さ故に、準々決勝以降が行われる本戦3日目に出場しただけでもかなりの評価を獲得できる程である。

そして、当時天鳳にて八段⇆九段を行き来していた谷もこの予選会に参加し、發王戦鳳凰卓予選にて何故か東風100戦安定段位20段超(平均順位2.1相当)のメガ記録を叩き出し、本戦出場権を獲得する。
もはやこの男が負ける日は一生来ないんじゃ無いかと思わせる程の勝ちっぷりである。

そして本戦に2回戦から出場し、3回戦、4回戦、5回戦と勢いそのまま勝ち続けて本戦3日目に辿り着いた。
その一方で僕は天鳳を打ち続けた末七段に復帰するどころか五段まで転げ落ちていた。
僕はもうすっかり23歳になっていた。

(後に準決勝まで勝ち上がるも、近藤誠一プロ・中嶋和正プロと戦い惜しくも敗退するという名勝負を繰り広げた)

Twitterを眺めていると、谷の活躍が色んなプロから称賛されている様子が目に入った。
色んなプロから「ウチの団体を受けないか」と誘いを受けているのも見た。
期待の若手として、麻雀界からその存在を欲されているように見えた。

既に奴との格付けは完全に済んでしまっている状況であったが、この頃から謎の感情が僕を揺さ振る様になる。嫉妬である。

このまま奴が麻雀界でチヤホヤされるのを遠くから見ているのは腹立つな....と思った僕は、
奴の後を追うように最高位戦入会を決意。
結局僕は奴の活躍を本心から応援できるほど、
器の大きな人間では無かったのだ。

麻雀プロを志したことは何度もあった。
色んな雀荘で働き、何人もの魅力的なプロとも巡り会えた。しかし、その度に周囲の目線、就職、経済的理由、能力不足...など様々な理由を付けてプロ団体受験については遠けて来た。
しかしこのように言い訳を並べることはできるが、
奴に敗北したまま舞台を去る屈辱の方が
100倍デカいことにようやく気付いたのだ。

こうして突然プロ試験受験を決めた僕は
大急ぎで願書を締切2日前に提出し試験勉強に取り掛かった。
意外と難しくて白目を剥いた。

そしてプロ試験会場では
谷が「天鳳九段、發王戦ベスト8」
嵯峨(がーさー)が「天鳳八段、タイトル戦決勝出場経験多数うんぬんかんぬん」
など強烈な自己アピールを繰り広げる中、
僕だけ「アッ天鳳ですか?五段です..やる気はすごくあります」などと小学生並みの受け答えを披露してしまうも奇跡的に試験を突破し、入会に成功した。

しかし意外にも入会後は僕が一生に一度レベルの運量を発揮し、怒涛の昇級劇を築いた。
D1リーグの最終節では因縁の谷と同卓し勝った方が昇級という展開になったが、谷は僕のタンヤオドラ3に放銃しその選手人生に幕を閉じた。

ようやく...ようやく麻雀で奴より上に立てた...と思い、僕の中では奴との戦争に一区切りを付けた気でいた。

しかし、闘いは終わっていなかった。

今度は天鳳で今奴はなんと十段3980pt、天鳳位目前まで登りつめている。こいつ何なんだ?
奴が3000ptくらいの時に
このままでは俺はまた奴に負けてしまう...阻止しないとダメだ...!!
その思いに駆られて急いで鳳南の予約ボタンを押そうとしたが当時チャオっていたので押せなかった時のショックは未だ忘れられない。

谷がいなければ最高位戦に入会していなかったし、今年で4年目になるが今の所入らなきゃよかった〜と思ったことは無い。
そういう意味で感謝こそしているが、
負けたくない相手ではあるので天鳳位を獲られてしまうのは精神的にキツいというのが正直な所なのだ。本当に渋々応援している。

というわけでわっしょい君2号、
俺の一歩先を常に歩き続ける憎い男。
天鳳位目前らしいけど....
なんとか最高3980ptで勘弁してもらえませんか?

昇天戦は18時ごろにやるらしいです。

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