ピアノ
私は幼稚園の年長さんから、10数年ピアノを習っていた。
初めは「エリーゼのために」が弾けるようになりたくて始めた。
音楽を奏でることは好きだったし、聴くことも好きだった。
でもいつしか、自分が好きで弾いているというよりは義務感に近い感覚で、今思えば誰から強制されたわけでもないのに、やらされてる感じすらしていた。
練習してないし、譜読みはできてないし、先生に怒られるなぁ、とか毎週木曜日のレッスンの日が怖いとかそんな気持ちになっていった。
それでも習うのをやめなかったのは、ピアノを買ってくれた祖母に悪いなというのも大きかったけど、なにより飽きっぽい自分をなんとか変えたい気持ちがあった。半分意地になって「続けなくちゃ」と思っていた。
大学受験があるから、というのを機にピアノを辞めた。
その後は少し触ることはあったが、あまりピアノに向かうことはなかった。
あれから20年弱経ち、さまざまな人生経験をした今、再びあの頃好きだった曲を弾いてみた。
指はあまり動かないけど、音を覚えていたり、指の形を覚えていたりした。
少し練習すると、あの頃まではいかないが少しずつ上達していく。
そして表情をつけながら弾けるようになっていく。
昔取った杵柄、というのはこういうことかと思いつつ、上達していく楽しさを感じた。
上達する快感に味を締めた私は、新しい曲(難易度は低い)を弾くようになった。
それも初めはうまくいかないけど、ゆっくり弾いたり、片手で弾いたり、様々な方法を試しながら少しずつ弾けるようになっていく。
「やったらやった分だけできるようになる」というのは本当だな、と感じた。
大人になって社会人で仕事をしてからは、スキルが上達するのは当たり前だったが、できなくなると肩身の狭い思いをしてきた。
だんだんと、やってもやっても空回りして墓穴を掘って、なにもかもうまくいかなくなって、ついに退職した。
私はダメな人間なんだと。
一度そう思った経験があったから尚更なのかもしれない。
ピアノが弾けるようになるのが楽しくて、定期的にピアノのある実家に弾きにいっている。
昔、苦しい思いをしたピアノで、今は自尊心の回復と心の余裕を生み出している。
あの時苦しい思いをしていてよかった、それがあったから今私はまた弾けるようになってきている。
きっとあの頃は、目の前のことしか考えられなかったから、楽しくなかったんだろうと思う。
今は、少しは大人になったから、弾ける楽しみ、上達する楽しみがわかるようになったのだ、きっと。
そう思うと、伊達に歳を重ねていないな、やるな、私。と自分を褒めてあげたくなる。
余談:私が好きな曲は「ヴェニスのゴンドラの歌」と「幻想曲さくらさくら」「ジムノペディ」「グノシエンヌ」で、特にさくらさくらが好きで、あの頃のように弾けるように練習しています。
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