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米選挙のネガティブ広告と「スーパーPAC」の関係性

米選挙の費用は増える一方だ。2020年の大統領・連邦議会選の支出は160億ドル強(約2兆3000億円)と16年から倍増し、24年はさらに膨らむ見通し。

主因は政治広告費の急増。24年は100億~160億ドルで過去最高を更新すると広告業界はみる。その7割は政敵を攻撃する「ネガティブ広告」だ。金にものを言わせた中傷合戦が勢いづく。

広告の資金源は、企業や団体が設立し個人から献金を募るPAC(政治活動委員会)だ。2010年には上限なしの献金を認める最高裁判決が出て、威力を増した「スーパーPAC」の乱立で選挙資金も批判広告も急増した。

では、これら広告に効果はあるのか。100超の有力論文を分析した米ラトガース大の研究者らは対象者の印象や投票行動への影響は限られ、むしろ攻撃側の印象を損ねるとの結論に達した。

それでも広告が増えるのは「相手の攻撃に対抗しないと負ける」と互いが考えるため。いきおい得票の小差が選挙結果を左右する激戦州には巨費が投じられる。

社会への弊害は大きい。第一に執拗な政敵への攻撃は対象人物や地位だけでなく、政府や政治への信頼を損なう。第二に「金がものを言う」政治では企業や団体の発言力が不釣り合いに増し、幅広い国民の声を反映しにくくなる

第三に国民の分断も深める。批判広告は、異なる党派への嫌悪感をあおるだけでない。特定の信条・利益を代表する団体は、それを忠実にかつぐ候補を支援するので極端な政策を掲げる候補が有利に、穏健・中道派は不利になる。

▼PAC(政治活動委員会)とは

 Political Action Committeeの略称。企業や労働組合、事業者団体、一般市民グループなどが設立し、政府の連邦選挙委員会(FEC)に登録する。

個人から広く活動資金を募り、政治家への献金や広告などへの支出配分を決める。個人1人からの集金額や政治家1人への献金額には、法律で上限が設けられている。

▼スーパーPACとは

2010年1月に連邦最高裁が下した判決がPACのあり方に大きな影響を及ぼした。特定候補者への投票を促す「選挙活動」と、団体などが意見を表明する「政治活動」は区別すべきだとした上で、団体や企業には言論の自由があり、政治献金を制限する過去の法律を違憲と判断した。同判決を受けて、個人や企業、団体からの献金額に上限のない「スーパーPAC」が生まれた

スーパーPACは候補者から独立した組織として活動することが建前だが、事実上、支持する陣営側と連携している例も多い。スーパーPACは候補者への献金や有権者への投票呼びかけができず、大半の資金を対立候補を批判するテレビ・ネット広告に使う。このためネガティブキャンペーンが拡大しやすくなった。

▼日本では政治家への寄付は出来るのか

個人がする政治家個人への政治活動に関する寄附は、金銭及び有価証券(小切手、手形、商品券、株券、公社債券等)によるものが原則として禁止されており、年間150万円以内の物品等に限られる

ただし、政治家の資金管理団体や後援団体などの政治団体に対する寄附は、年間1団体につき150万円まで金銭による寄附もできる。

また、政治家個人に対する寄附でも、例外として選挙運動に関するもの(陣中見舞いなど)に限り、年間150万円以内で金銭による寄附をすることができる。

なお、会社、労働組合やその他の団体などが政治家個人や後援会へ寄附することは一切禁止されている。
(会社、労働組合等は政党及び政治資金団体に対してのみ寄附することができる。)


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