ファイターズのドラフトを振り返る
ドラフトの成否がわかるのは5年後という話もあるので、現時点で成功だ失敗だと騒ぐのはナンセンスかもしれません。
ただ、今年のファイターズのドラフトは例年以上に狙いがはっきりしていたように思います。ドラフトというのはただやみくもにいい選手を上から順に取るのではなく、チームの需要に合った選手を取るものです。
今年は
「ここが足りないからこの選手が欲しい」
「将来的な構想としてこんな選手が必要」
という球団の考えが見える『わかりやすい』ドラフトだったことは間違いありません。
私が見て感じた球団の狙いと個人的な感想を以下に記します。
1位 伊藤大海
【狙い】リリーフ・守護神候補の即戦力
先発もできる投手ですが、やはりリリーフ適性を評価されていると思います。
石川直也投手は来シーズンほぼリハビリ期間となるでしょうし、秋吉投手が2019年のような絶対的守護神に返り咲けるかどうかも未知数。
外国人投手とエース有原投手の来シーズンの去就次第でもありますが、先発より後ろで使う公算が高いのではないかと思います。
2022年シーズン以降を考えると守護神を狙い続ける石川投手も奮起するでしょうし、伊藤投手本人も言っていた「新球場で一番最初に投げる投手」になる可能性も秘めています。
なによりも生粋の道産子投手ということで、既に人気が出てはじめており、狙い通りの1位指名ができたと思います。
【感想】
もうずっと「1位で取れ」と言い続けてきた選手なので、事前に1位指名を公言した時は本当に嬉しかったです。
これまでのドラフトを見る限り「競合どんとこい」という球団と、可能な限り競合を避ける球団があるように思います。
今回競合が予想されたのは近大の佐藤選手と早大の早川投手。もしファイターズが伊藤投手を公言していなければ、競合を避けて一本釣りを狙う球団(今回一番不安だったのがDeNA)が伊藤投手を指名していた可能性が高かったように思います。
ファイターズが1位指名を公言したのは、そういう一本釣りを狙う球団への牽制かと思いました。
果たしてドラフト当日、ファイターズが伊藤投手を公言通り1位指名。後の球団の指名を固唾を飲んで見守っていたわけですが、DeNAは入江投手を指名(ただ、「横浜、い…」と聞こえた時は競合か!?と一瞬慌てましたが……)。
無事単独指名が確定してホッとしました。
本人も以前から「できれば地元の球団で……」と言っていたこともあり、相思相愛の一本釣りとなりました。
伊藤投手は変化球も多彩でコントロールも良いと言われていますが、最速155km/hの力のあるストレートが大きな武器だと思っています。技巧派の中継ぎが多いファイターズでは、現在リハビリ中の石川直也投手のタイプに近いのかなと思います。
そういう意味でも伊藤投手はファイターズが求める投手で、来季のブルペンに必要な投手であると言えます。
2位 五十幡亮汰
【狙い】走塁のスペシャリスト
西川遥輝選手がポスティングでのメジャー移籍を希望していること、FA権も取得していることから、西川選手の後継となるような選手が欲しいと思っていたはずです。
ファイターズは盗塁企図数が少なく、西川選手と中島選手のみを警戒すれば事足りる状況。西川選手や中島選手もそれではいけないと警鐘を鳴らしていましたが、なかなか走れる若手が出てきませんでした。
そんな中で他球団ではホークスの周東選手、マリーンズの和田選手というスピードスターが塁上をかき回しており、走塁のスペシャリストは現在の球界のトレンドとも言えます。そして五十幡選手は「周東・和田を凌ぐ潜在能力」と評価されていたので、どこの球団も欲しい選手だったと思います。
【感想】
まさか取れるとは思ってなかった選手です。1巡目で(外れ1位で)消える選手だと思ってました。
伊藤投手が競合してくじに外れても投手を指名するだろうし、その間にどこか他球団が外れ1位で指名するだろうからファイターズにくることはありえない選手だと思っていたので、ドラフト前は五十幡選手に勝ったという並木選手(獨協大)なんかいいんじゃないのかな、なんて言っていたくらいです。
ところが1巡目では名前を呼ばれず、変則ウェーバー制でファイターズの2巡目指名は3番目。これは取れるのでは?と興奮しました(オリックスの狙い目は知りませんでしたが俊足の佐野選手が頭角を表しており、ヤクルトは1位2位は9割投手と言われていたので)。
ファイターズに欲しい、という気持ちもありましたが、それ以上に「パリーグ他球団に行って欲しくない」と強く願ってました。周東選手だけでも嫌なのに、和田選手や佐野選手が台頭してきて、そのうえ五十幡選手まで敵に回るなんて無理です。考えたくなかったです。
ドラフト前、個人的にはファイターズの2巡目は上武大の古川選手を指名すると予想していました。
しかし走れる逸材はファイターズとしても欲しかったはずですし、古川選手が3巡目まで残る可能性に賭けて五十幡選手を指名しに行ったと思います。古川選手獲得に動きそうなヤクルトの3巡目はファイターズの後という順番も大きかったと思います(パリーグ最下位じゃなくて本当に良かった……)
獲得が決まってから走塁の動画を見ましたが本当に早かったです。
「サニブラウンに勝った男」という二つ名ばかりが有名になって「足が速いのと盗塁は別の話。速ければいいってもんじゃない」なんて意見も見かけましたが、それこそ技術は後で磨けるはずです。あのスピードは技術でどうこうできるものではない。
不安があるとすれば彼に走塁・盗塁を教えられる人がいるのかということ。現在ファイターズの一軍には走塁コーチがいません…(ファームには紺田コーチがいます)
メジャー志望の西川選手ですが、なんとかもう一年残ってもらって、盗塁王の技術を五十幡選手(と後述の細川選手)に伝授してもらいたいです。
数年後には周東、和田、五十幡の盗塁王争いが異次元で繰り広げられそうで、とても楽しみです。
3位 古川裕大
【狙い】即戦力捕手
即戦力の「打てる捕手」が欲しい。それに尽きると思います。
ファイターズの主力捕手である清水選手も宇佐見選手も現在の打率は1割台。いいところで打ってくれる場面もありましたが、チャンスで凡退の方が圧倒的に多い。また今季は失策も多く、データ分析するまでもなく他球団に比べて捕手が「穴」と言わざるを得ません。
大学No.1捕手、即戦力の打てる捕手との評価が高い古川選手は喉から手が出るほどほしい選手だったと思います。
【感想】
そんなことを冷静に書いておきながら、捕手を「穴」だと思いたくない私がいます。清水選手も宇佐見選手も「打てる捕手」としての素質は十分に秘めており、石川亮選手だって捕手IQが高く守備型でリードに長けた選手です。その他の若手(郡選手、田宮選手、梅林選手)だって今後の育て方次第で充分花開きそうな逸材だと思ってます。
ただ客観的に見て「他球団と比較して捕手が弱い」「捕手をどうにかしないとならない」ということは確かです。今いる選手でどうにかするのか、新しい血を入れるのかということから、新しい血を入れることが今いる選手たちの刺激にもなるという判断で古川選手の獲得に乗り出したのだと思います。
ただ、即戦力とは言ってもルーキーイヤーからどんどん試合に出てくるかどうか。来シーズンは宇佐見選手清水選手が主力であることには変わりないと思います。
古川選手はまず守備面を鍛えてから、北広島の新球場に移転する頃、正捕手争いに名乗りを上げるくらいになっていてくれればいいですね。
五十幡選手のところでも書きましたが、おそらく当初は2位で狙っていた気がします。しかし優先度(事前評価)の高い五十幡選手が残っていたことで、2位五十幡選手に切り替え、古川選手が3巡目まで残ることに賭けたのではないかと。
これで古川選手を他球団に取られていたら…と思うと本当に大きな賭けでしたが、結果的に2位五十幡、3位古川という指名ができたのは大金星ではないでしょうか。
直後のヤクルトの3位指名が少々もたついた挙句に星稜の内山選手(捕手)だったところを見ても、おそらく古川選手を狙っていたのだと思います。変則ウェーバー制に助けられた指名でした。
4位 細川凌平
【狙い】高校生内野手
現在ファイターズにいる若手選手のバランス的に高校生内野手を取るだろうと思っていました。
去年のドラフトで獲得した上野選手は守備面を評価され、実際にこの一年間、ファームの守備で光るものを見せてきました。取るならば同タイプの守備型ではなく、打撃重視で行くかと思っていたため、細川選手はちょっと意外でした。もちろん打撃を含めて総合力で高く評価されている選手ですが、何より走力が魅力の選手。傾向としても経歴としても、西川選手のように育ってほしい(育てたい)という選手かと思います。
【感想】
私のイチオシの星稜内山選手がヤクルトに指名されたので、高校生内野手って他に誰がいたっけな…なんて思ってしまいましたが、いい高校生が残ってましたね。
星稜ファンなので、去年の星稜-智弁和歌山戦は見ていました。すごい試合でした。でも今年の交流試合での智弁和歌山は見ていませんでした。だから指名された時に智弁和歌山の細川選手って内野手だったっけ?と驚きました(去年までのイメージで外野手かと思ってたので…)。
個人的にファイターズの4位はギャンブル枠で素材型を狙っていく傾向があると思ってます(近年だと近藤選手や平沼選手、万波選手など。過去には森本稀哲さんや飯山裕志さんも)。
こういった素材型の逸材をうまく育てられるかどうかというのも、現在のファイターズに課せられた大きな命題と言えるでしょう。
細川選手も五十幡選手と同様に中学時代は野球のシニアチームに所属しながら学校では陸上部に入って自分の武器を磨いてきた選手。五十幡選手の指名はもしかしたら細川選手の育成にも効果をもたらすかもしれません。
本当に西川選手もう少しファイターズに残っていただけないでしょうか。かわいい智弁和歌山の後輩にも、プロの技術を伝授してほしいです。
高校生内野手狙いと書きましたが、去年獲得していない高校生外野手も年代的に欲しいところではあります。
ひねくれた見方ですが、ファイターズはコンバート型外野手が多く(内野→外野の西川遥輝、松本剛や捕手→外野の近藤健介など)、そういう意味では2年生までセンターを守っていた細川選手はどちらに転んでもいい、うってつけの人材であったのかなと思います。
5位 根本悠楓
【狙い】高校生投手
昨年は高校生投手を取らず、社会人大卒BCリーグの即戦力あるいは2〜3年で即戦力となりそうな投手を指名したため、今後のことを考えても、今年は最低1人は高校生投手を取るだろうと考えました。
高校生というのは1年で見違えるような成長を遂げるものですが、今年はセンバツも交流大会のみ、夏は中止で地方大会のみという状況では誰がどのような成長をしたのかがよくわからない。
そういう意味では「飛躍的な成長」ではなく「順調な成長」をした選手を取る傾向が強くなるはずです。
根本投手がまさにそのタイプ。中学生時代U-15で注目を浴び、地元で着実に順調に成長してきた選手です。
【感想】
まだ残っていたか、というのが率直な感想。
ファイターズには『地元枠』といわれる指名が例年ありますが、1位の伊藤大海投手にしろ根本投手にしろ、全国区で名前の挙がる選手なので、地元でなくても獲得に動いていたであろう選手ですし、他球団が獲得したとしてもおかしくない選手でした。
もちろん、地元ということで中学生時代からスカウトが注目し成長を確認していたものと思われます。
完全に素材型ですので、まずはプロとしての体作りをして4〜5年後に一軍で投げるようになるのが目標でしょうか。
今年は大きな大会もなく、高校は強豪校でもないため、高校野球にありがちな肩肘の酷使もなく、今後の飛躍も充分期待できます。左の若手には北浦、堀、河野など様々なタイプがいるので、どのような投手に育つのかとても楽しみです。
6位 今川優馬
【狙い】長打力のある即戦力
長打力。そこに尽きます。
現在のファイターズを考えると、パンチ力のあるホームランバッターは中田、大田の2人。
未来のホームランアーティスト候補の清宮、野村、万波がまだ育ちきってないことを考えると、その間の世代(20代前半~半ば)の長打力のある選手が欲しかったのだと思います(その世代で長打力に期待してた選手が思うように育たなかったのは寂しい)。
【感想】
こちらも北海道枠を超えて名の知られた選手。
この順位までよく残っていたなぁ!と思いました(ご本人は「もうダメかと思った」なんて言ってましたが)。
ファイターズは社会人投手はよく取るものの、社会人野手を取ることはほとんどなく、事前には「今川選手を取ることはなさそうだな…」なんて思ってましたが、「何を求めて今川選手を取ったのか」と狙いを逆に考えた時に、長打力のある選手の年代的な穴を見つけて納得しました。それくらい、今川選手の獲得は「ファイターズらしくない」指名だと思ったのです。
年代的な穴とは書きましたが、20代半ばの長距離砲としては育成の海老原選手もいます。脂の乗ったアラサーの中田・大田と20歳そこそこの若手たちの間を繋ぐように、海老原選手や今川選手が一軍の試合で見られるようになるとファイターズの未来が一層明るくなりますね。
北海道に生まれ育って子供の頃から今でもファンクラブ会員ということをドラフト後に聞いて、ファイターズファンは色めき立ちました。
道産子選手がファイターズに来ることだけでも嬉しいのに、ファイターズが大好きという選手がファイターズの一員になる。こんなに喜ばしいことはありません。
育成1位 松本 遼大/育成2位 齊藤 伸治
【狙い】2〜3年後に戦力になる投手支配下のドラフト指名は6人。
正直なところ、もう少し投手を取るかと予想していたのですが、人数的な問題や指名順の関係で6位で打ち止めになったと考えます。
であれば、育成で2人投手を取ったというのも頷けるところ。即戦力とはいかなくても、数年後に上で投げるような投手に育ってくれればというところかと。
【感想】
全く予備知識もなく、事前チェックもしていなかった選手なので、個人に対する感想はなく「あ、やっぱり投手取ったのね」というくらい(申し訳ありません。これから調べます)。
今どきは「育成」という立ち位置も決してネガティブなものではありません。
昨年の育成3位の長谷川投手もオープン戦では素晴らしいピッチングで、ファイターズ初の育成からの支配下登録を早々に決めるのではと思われていました(開幕後しばらくケガなのか不調なのかで姿を見せず心配していましたが、今はファームで元気に投げてますね)。そして樋口選手のようにファームで結果を出せばどこかで必ず支配下登録のチャンスは巡ってくるはず。
また、一昨年の最下位7位指名ながら今季めざましい活躍を遂げた福田投手や、2016年のドラフト8位指名ながら今やブルペンの柱となっている玉井投手という例もあるので、下から這い上がってくる気概を見せてほしいですね。
まずは支配下登録を目標として、ゆくゆくは一軍で投げられる投手になることを期待しています。
その他所感
伊藤投手、根本投手、今川選手という3人の道産子選手がファイターズに指名されましたが、全員『北海道枠』を超えて、ドラフト雑誌に大きく取り上げられるような選手です。北海道、すごいじゃん!と素直に感じました。
その3人の他にも星槎道都大の河村投手など道産子選手がたくさん指名されました(本指名、育成)。
私が子供の頃には北海道出身の野球選手(現役)なんて片手で数えられるほどしかいませんでしたが、今はファイターズ以外にもたくさんの現役選手が所属しています。
ファイターズの本拠地移転であったり、駒大苫小牧の道内勢初めての全国制覇だったり、色々なできごとが絡み合いながら北海道の野球がレベルアップしていった結果であると思います。
これからもたくさん道産子選手が誕生し、たくさんの道産子選手が活躍してくれることを願ってます。
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