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いぶし銀候補

子供の頃から「いぶし銀」と呼ばれる選手が好きだった。
地味で目立たず、殊勲打を打つより殊勲打のお膳立てをするような選手。並の選手ならファインプレーになるような打球を普通に処理してしまうような守備の名手で「守備職人」と言いたくなるタイプ。時には代打で出てきて初球でバントを決めたり、守備固めで使われたり、使われたところで着実な成果を挙げ、大きな記録を残すわけではないけどチームに必要な選手。
ファイターズの現役選手だと中島卓也選手や杉谷選手が近い。
しかし、杉谷選手は「地味で目立たず」という言葉には全く当てはまらず、中島選手も光りすぎていて私の理想の「いぶし銀」とはちょっと違うのだ。
引退してしまったけど、飯山コーチはかなり私の理想の「いぶし銀」だった。素敵な守備職人の「いぶし銀」だった。

そんな中で私の理想の「いぶし銀」候補が現れた。上野響平選手だ。
ファイターズが2018年のドラフトで獲得したのは甲子園のヒーローたち。それから一転して2019年のドラフトでは大学社会人の即戦力を中心に獲得した。その中で唯一の高校生で甲子園出場経験もない上野選手は「即戦力」では決してない。「育成のファイターズ」と言われていたチームがまた一から育てるための選手を取ったのだと思った。

2020年シーズンの二軍の内野守備走塁コーチは城石さんだ。それまで5年間打撃コーチの座にいたけれど、私はずっとそれが疑問だった。
現役時代の城石さんは守備職人だった。それはそれは「美しい」守備をする職人だった。打撃の記憶は全く残ってないが、流れるようにセカンドゴロを処理する城石「選手」は今でも脳裏に蘇る。
今のファイターズでいうと中島卓也のような選手だった。見た目は華やかだけど、守備は派手ではなく堅実で地味な職人タイプ。バッティングも地味。真面目で、選手会長をこなす人望もある。
現役時代を知る人間としては打撃ではなく守備を教えてほしいとずっとずっと思っていた(中島卓也選手がコーチになった時に守備コーチになってほしいか、打撃コーチになってほしいかを考えたら、私の気持ちがわかっていただけると思う)。
念願叶って城石さんが守備コーチに、しかも若手を育成する二軍の内野守備走塁コーチになったことは私にとって朗報だった。

そんなコーチと、守備力を評価されたルーキーは1年目からファームで躍動した。
イースタンリーグの試合をテレビで見て、
「これは数年後には上がってくるな」
そう思った。数年後、おそらく彼とショートを争う平沼選手は打撃を評価されている選手。打撃で争えるとは到底思えない。しかしこの守備力は魅力がありすぎる。守備範囲の広さ、ボールに対する反応、グラブの出し方、スローイング、どれをとってもルーキーとは思えなかった。ただボールを掴んでから握り直すようなところがあり、送球がちょっと遅れるのが少しだけ気になったが、それ以外はもう「美しい」と言ってもいい守備だった。
昨年のイースタンリーグの記録上は14失策なのだが、このうち半分は10月に記録している。やはり高卒ルーキー。疲れも出たのだろう。一年間戦える体力をつけることが今後の課題だ。

そんな上野選手が先日20日の楽天との練習試合で素晴らしい守備を見せた。一軍でこの上ない守備のアピールをしてキャンプ終盤に一軍キャンプに呼ばれることになった。

守備だけでプロの飯を20年間食ってきた飯山さんが今は一軍の内野守備走塁コーチを務めている。
言い方は悪いが飯山コーチは守備の天才ではない。完全なる努力型の選手だ。二軍では一試合4エラーという不名誉な記録も持つ飯山コーチは、真面目に泥臭く努力を続けて「守備職人」になった。守備練習に関しては誰よりも引き出しの多いコーチではないだろうか。

城石コーチと飯山コーチに育てられるというのは、本当に贅沢なことだし、今の一軍キャンプには上野選手と同じく甲子園出場経験はないが守備力を買われて入団し今もショートの守備では後輩の追随を許さない中島卓也選手もいる。彼と一緒に練習をして一流の守備を見ることも上野選手にとっては財産になるだろう。

一軍キャンプに招集されたからといって、開幕一軍が確約されたわけではない。
むしろ下手に一軍に残って守備固めで起用されるよりも、一軍キャンプで得た経験を生かして二軍でまだまだ守備を、そして打撃を鍛えてほしい。
まだ19歳。慌てなくても時間はたっぷりある。伸びしろもたっぷりある。チームにも余裕を持って育てて欲しい。
ルーキー細川もギラギラとショートの定位置を狙っている。彼らが同じところで切磋琢磨することが、未来のファイターズの礎となると思っている。

20代で「いぶし銀」と呼ばれるような選手がまた見られるかもしれない。彼の成長が楽しみで仕方ない。

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