コントレイルのレースと調教

デアリングタクトの関係者の方々、史上初となる無敗での牝馬三冠達成おめでとうございます。キャリア僅か5戦ですよ。私のイメージだと、もっとレースを走っていたように感じるんですが、それは私の頭の中でデアリングタクトが何度も走っていたからそう感じただけで、全5戦、非常に濃い内容のレースばかりでした。三冠最後の秋華賞はTwitterで触れたように4コーナーをクリアするまで、20完歩近く逆手前で走っていました。僅かの差程度ではあるものの、この逆手前で走っていた区間が最速ピッチをマークしていました。ペースが緩んだコーナーならまだしも、外から3頭が被せるように馬体を併せていたシーンであり、それを逆手前で凌ぐ労力はかなりなモノだったと思われます。200mのラップで例えるなら0.2秒以上と思えるほどの減速。仮に同じピッチで順手前なら、コーナーで一気に突き放すような形。マトモならもっと余裕を持って最後の直線を迎えたはずで、ラストはブレーキを掛けられるほどの楽勝になっていただろうと推測します。よく「最後の直線で手前を替えてくれなかった」という話を耳にしますが、そんなことより勝負処のコーナーで逆手前のまま走り続けることの方が影響度は甚大です。次走はどこに向かうのでしょうか・・・。きっと、ジャパンカップですよね!

そのデアリングタクトからバトンを引き継ぐ形で、今週はコントレイルが無敗での三冠達成に挑みます。そんな折、カンテレさんがコントレイルの追い切りのスペシャル映像をYouTubeにアップしてくれました。もうみなさんもご覧になったと思います

以前、アーモンドアイの追い切りでも同様の映像を見る機会がありましたが、この馬上カメラの映像は実に迫力ありますね。というわけで、2020/10/14栗東CWでの調教における完歩ピッチデータを、過去3戦のデータとともに見ていきたいと思います。

この栗東CWコースは1周1800m。馬場に出てほどなくキャンターに移り、丸々1周走っているので、1800m戦という体でデータを採ってあります。100m毎の平均完歩ピッチはこのようになります。

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残り1100mまで、0.480秒/完歩以上のゆったりとしたリズム、200mを19秒台くらいのラップとなるスピードで走っているようです。数年前に行ったラップセミナーで話したように記憶していますが、2011スプリンターズSでビービーガルダンが放馬し、3周ほど空馬で走るという出来事がありました。放馬直後の4コーナーからは実戦と同じようにラストスパートし、その後も結構なスピードで走り続け、3周目に入ったくらいではバテバテの状態。そのバテた時でも200mのラップは18秒台でした。このコントレイルの残り1100mまでの走りは、いわゆる楽走状態ですね。

5か月ほど経ちましたが、私は今もなお家の前にある公園の周回路を週2、3回ほど走っています。1周1100mのコースを3~5周ほど走るランナーの姿が数多くいますが、その方々の中で一般的な成人男性だと、100m平均30秒台前半くらいのペースで走っている様子です。おそらく全開走行での100mのスピードの半分あるいは半分強といったペースで、いかにもジョギングという形だろうと思います。もし余力十分のコントレイルが栗東CWを全開走行すれば、200mをおそらく11秒を切るラップをマークするはずで、この追い切りの序盤のペースは全開時の55%程度のスピードになると考えられ、人間の一般的なジョギングと非常に近いイメージと捉えることができます。その一方、有馬記念等でまれに200m14秒台までペースが落ちることがあり、そんな場合は「ジョギングのようなペース」と評されることが多いですね。G1に出走する馬たちなら、芝コースで全開走行すれば200mを10.5くらいで走るスピードを兼ね備えており、仮に全開時10.5、ペースダウン時14.0とすると、「ジョギングのようなペース」は全開時の75%のスピードとなります。

例えば100mを15秒で走れる方、厳密には助走区間ありきで計測し15秒となりますが、その75%のスピードとなる100m20秒のペースで200mを助走した後スパートすれば、どれくらいのスピードが出るか、その助走距離を300m、400m・・・と伸ばせばどうなるか、体験すればいろいろわかってくることがあるでしょう。全開時の75%のスピードでも、必ず余力を削られていきます。競馬において余力をほとんど削られないような「ジョギングのようなペース」というのは存在しないのです。ちなみに私は筋肉が付かないタイプではありますが、距離適性はCC型そのもの。特に気性的には超CC型なので、1周1100mのコースを何周もすることは不可能です。いつも1100m限定のタイムトライアルで走っております。

さて本題に戻りますが、この追い切りでのコントレイルは残り1100m辺りからピッチアップ。数完歩後にスピードに乗っているので、追い切りの距離としては実質1050m程度かと思われます。そして実際のレースと同様のピッチとなるのが残り800mから。それまでの完歩ピッチの波形の違いから、調教時は実際のレースよりも遥かに余力を保ったまま、ラストスパートに向かっているということがハッキリとわかるかと思います。

では次に、このラスト800m区間を50m毎に細分化して見ていきましょう。

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皐月賞での最速ピッチ区間は残り500~450m区間。ここでコントレイルは最も外に膨れています。ギュンと踏み込んだら弧を描くように走れなかった形でしょう。その後、小出しするかのように脚を使い、この3戦の中では最も負荷の高い末脚を使うレースとなりましたが、インを器用に立ち回るのは、この馬にとっては難しいだろうなと再認識する部分もありました。

日本ダービーでの最速ピッチ区間は残り450~400m区間。前を行くディープボンドに並び掛けるところですが、その後はじんわりとピッチダウン。その間に背後からサリオスが迫り、鞍上福永祐一騎手が激しく手を動かし始めますが、コントレイルの反応はもう一つ。残り250mを切ってから初めてムチを入れられると、やっと重い腰を上げコントレイルは再びピッチアップし、残り200mからグンとスピードアップしました。ソラを使ったと言われるケースの多くは、実はバテていたという事象になりますが、この時のコントレイルは正真正銘のソラ使い。その後は鞍上の所作にしっかり応えゴール板まで強靭な末脚を披露。見事なまでの2段階スパートだったと言えるでしょう。

前走神戸新聞杯での最速ピッチ区間は残り350~300m区間。前走と同じように前を行くディープボンドに並び掛けるところですね。このレースはラストスパートに至るまでの過程が、前2走より遥かに楽です。他馬にとっては追走時の消耗度合いが大きかったようですが、コントレイルにとっては随分と楽なペース。残り150m辺りまでは鞍上に促されてそれなりに走っているものの、ラスト100mはスピードを落とし放題。父同様、ブレーキング性能は抜群です。6戦目にして初めて上がり3Fがトップではなくなりましたが、ラスト10完歩少々で大きく緩めて走れた分、レースでの消耗度は他馬と多大な差が付いたことでしょう。

いざ前を行く馬を捕らえる、という局面になった際はガツンとピッチアップするコントレイル。実に反応のよいピッチタイプという面があるものの、追い抜いてしまえばすぐにトーンダウンしてしまうような側面もありますね。今回の1週前追い切りでもまさにそんな様子。その2020/10/14栗東CW調教での最速ピッチ区間は残り250~200m区間。そう、併走馬を一気に追い抜く瞬間です。徐々にピッチを上げていき一瞬の内に捕らえるという、草食動物でありながらまるでハンターのような動き。追い抜いた後も鞍上に促されていたのでそれなりに走っていましたが、追い切りでのゴール地点ではもう緩めていました。このラスト400mの間でのピッチの推移は非常に落差があり、この映像を見られた方もそんな印象を受けたのではないでしょうか。

本番菊花賞での死角があるとすれば、それは2点ほど挙げられるかと思います。このハンターと呼べるような特徴は、当然しかるべき場所で発揮され、4コーナーを回って最後の直線に向いた時にスイッチが入ります。あのゴールドシップでさえ、1周目スタンド前では自ら前へ進もうとしていました。こういったレベルの奴らは、どこで本気を出すべきか、場所を見極める能力も十分持ち合わせています。死角の1点目はこの1周目スタンド前を落ち着いて走れるかどうかでしょう。ちなみにコントレイルは京都競馬場でのレースは初めてとなります。初めて見る4コーナーの植え込みに気を取られて物見でもするようならば、案外落ち着いてクリアできるかもしれません。

もう1点目は、200mを13秒前後のペースになった際、上手く走れるか否か。レースや調教の動きを見ると、緩いペースで上手に走っている姿をほとんど見たことがありません。身体的な距離適性はさておき、気性的にはいかにも中距離ホースといった印象があります。序盤速く中盤でグッと遅くなるようだと、他馬との相対的な意味において、余力を過度に消耗する可能性があるかもしれません。

ソラ使いという点から早め先頭に立った際どうか、という部分もあるでしょうが、そこは鞍上福永祐一騎手、百も承知ですからキッチリ対応してくるでしょう。前週に続いて無敗の三冠馬誕生のシーンを見られるかもしれないなんて、こんな機会が訪れるのは幸運というしかありません。思う存分、菊花賞を楽しみましょう!

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