カラテの615.1倍未勝利戦と東京新聞杯を比べてみよう

単勝オッズ615.1倍で迎えた4戦目となる未勝利戦から2年3か月後、カラテはG3東京新聞杯を制するまで成長を遂げました。この2レースは距離こそ200m違いますが同じ東京芝コース。この2年少々での変貌ぶりを比較してみましょう。まずは個別ラップから。

2018/11/11東京4R2歳未勝利
14.0-12.1-12.5-12.8-12.6-12.7-11.5-11.3-11.3

2021/02/07 東京新聞杯
12.6-11.3-11.5-11.6-11.4-11.4-11.3-11.3

どちらかと言えば未勝利戦時の方が馬場は若干速いと思うものの、大きく見積もっても400mで0.1秒程度。さほど差のない馬場の速さで風の影響も似たような状況。斤量は東京新聞杯の方が1kg重いとはいえ上がり3Fは似たような内容。勝ち馬から1秒差の10着だった未勝利戦とG3東京新聞杯での勝者の違いは相当大きなモノがあるはずですが、上がりの脚からはその違いが全くうかがえません。しかし、残り600mまでのラップ推移はまるで違う形。未勝利戦での残り600mまでにあたる前半1200mでの200m平均ラップは12.78。この値を1600m戦で換算すると12.6~7程度。今回の東京新聞杯での残り600mまでの平均ラップは11.68だったので、200mに付き実質約1秒、1000mトータルで5秒速く走ってかつ、ほぼ同等の末脚をカラテは発揮したことになります。そう考えると、件の未勝利戦からの成長ぶりの凄さがよく浮かび上がってきます。

では、この走りの大きな違いのポイントはどこにあるのか、平均完歩ピッチでハッキリわかることになります。以下の表をご覧ください。

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未勝利戦のスタートダッシュではピッチを全く上げられていません。鞍上がソロッと出したわけでもなく、ある程度促してのこの結果。初戦芝、その後2走ダートを走って連闘で迎えたこの一戦でしたが、レースに対する前向きさがないというか、競走馬としてはかなり未熟な段階。それが今や、鞍上の指示取りにガツンとスタートダッシュを決め、一流の競走馬の域に達しました。体重が30kgほど増え、筋肉量が増したのがその要因の一つだと言えるかもしれません。

さて、これからが私の言いたいことの本題。この2レースでの残り600mからのラップと平均完歩ピッチの相関関係には、データ的に良く似ており差はありません。今回の東京新聞杯では最後の直線で進路が見付けられず、平均完歩ピッチの値が上下動していますが、未勝利戦も似た波形。ただ、こちらは前方の馬との間隔がある程度開いていたにもかかわらず、スムーズな走りができていません。ラスト100mで再ピッチアップしているように、余力を振り絞ったスパートという体ではなさそうです。また、現在のカラテでも、この未勝利戦の道中くらいピッチを落として走れば、200m12秒半ば~後半くらいのラップを刻むこととなります。カラテ自身の走りの本質は、ほとんど変わっていないんですね。もちろん馬体がたくましくなった関係で、今、未勝利戦のようなペースで走れば、ピッチを上げてスパートし、より速いラップを刻める進化は遂げているとは思いますが、フットワーク一つ取って、別馬のように大きな変貌を遂げたわけではないと思うんですよ。

以前の記事でも触れましたが、競走馬が走る根底は、草食動物であるがゆえの本能によるものだと私は考えています。ピンポイントで言えば、肉食動物から逃れるための一気の瞬発力。これは競走においての全開ラストスパートに相当すると思います。この能力はかなり早い段階、レース初戦で既にピークになっている馬が大多数かと思っているんです。米国のトレーニングセールでは1F10秒を切ってくる馬をよく見かけますよね。それです。例えば現役3歳牝馬レッチェバロックはトレーニングセールで資料上9.8をマークしたことになっていますが、映像を確認しても確かに9.8台後半で走っていて、強烈なスピードを早くから開花させています。調教をしっかり積んだ馬なら、競走デビュー後にいくらトレーニングしたところで、産まれ持ったMAXスピードが上がることはほとんどないだろうと私は考えます。

サバンナでの草食動物と肉食動物との位置関係を見るに、草食動物は肉食動物との絶対安全マージンを取っていますよね。そのマージンを取るために移動する際は、いわゆる楽走しているケースがほとんどではないかと思います。レッドゾーンに突入して一気の瞬発力を発揮するために、余力を限りなく温存しているように見えます。つまり、本能たる走りという部分は、「超緩急」という世界であって、その一方、競馬におけるラストスパートまでの追走状態、200mを12秒程度で走る部分は、本能ではない分野だろうと思うのです。したがって競走馬における伸びしろの大部分は、この道中の追走状態にある、という見方をしています。

いわゆる「成長」という考え方は、人によってモノサシがいろいろあろうかと思いますが、私が端的に表現するならば、この追走状態のレベルアップがイコール「成長」。例えば前半1000mを60秒で走って、後半600mが34.0で走るのが現時点でMAXだとしたら、その後に前半をより速く走っても後半同じラップで走れるようになれば、「成長した」≒「強くなった」と解釈します。今回のカラテはまさにその典型例で、調教、レース経験に加え、肉体的なパワーアップが進み、同じスピードで走っても2歳時より遥かに余力消耗度が少なくなった結果だったと言えるのではないでしょうか。

それにしても、現代のトレンドとも言うべき一気に脚を使える馬たちに交わされても、ラスト1Fで差し返して勝利をもぎ取ったレース内容は実に素晴らしかったです。また、初勝利まで8戦を要し、その後2勝目を挙げるまで更に10戦を要しながらも、粘り強くレースを使い続け、遂に素質を開花させた陣営の手腕も素晴らしいの一言。いいですね、このような個性派は。そして鞍上の菅原明良騎手。カラテの特徴を生かし躊躇なく前目のポジション取り。勝てる十分な手応えを感じながら4コーナーでは外の馬の脚色をしっかりチェック。相手と競う覚悟が感じられました。最後の直線ではなかなか進路を見付けられませんでしたが、慌てず隙をうかがい、前を行くエメラルファイトが内に切れ込んだタイミングで、ヴァンドギャルドとの間に生まれた進路を突き進み、後はカラテの力を信じて全開に追うのみ。前走で感じ取ったであろう感触、自力勝負に出て全然OKという流れで好位を取りにいったのが、勝利への大きな要因だったと思います。人馬一体感のある、胸を打つレースを見せてくれました。彼には更なる高みにどんどんチャレンジして欲しいですね。

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