ジャックドール 全9戦走行データ

デビュー以来一貫して芝2000m戦を走ってきたジャックドール。全9戦の走行データとともにその走りを振り返ってみましょう。データはジャックドール自身が刻んだラップタイムと100m毎の平均完歩ピッチとなります。また、ラストスパート時の平均完歩ピッチのピーク区間は丸印で表現しています。まずはデビューから3戦まで。

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道中3、4番手を進んだ新馬戦では4コーナーを回り切る前に手前を替えてしまい外に膨れるロスがありながらも残り200mを過ぎて先頭に立ちました。しかしアオイショーの豪脚に屈し2着。並のレベルの新馬戦なら勝っていた内容だったと思います。続く未勝利戦では4コーナーから先頭に立つも新馬戦と同じようにハッピーオーサムに差され2着。同レース3着だったアリーヴォが後に今年の小倉大賞典を勝ったように、この時期の未勝利戦としてはまずまずレベルの高い一戦。続く4か月後となった3戦目となる未勝利戦では過去2戦の鬱憤を晴らすかのような9馬身差の圧勝劇。このレースではスローな流れを嫌い完歩ピッチのグラフでもわかるように700mを過ぎてから先頭に立ち、1200m地点・後半800m辺りからペースを引き上げて大楽勝となりました。差された過去2戦と同じ轍を踏まないレースぶりで、この走りがジャックドールの原点かと思います。ただ、このレースのメンバーは過去2戦と比べると低調で、9馬身差の圧勝とはいえスピード指数的には2戦目未勝利戦とさほど変わらない内容でもありました。

今では「○○○の再来」とジャックドールを評する声が高まっています。類似性を感じる視点の違いによって様々な意見があるのは当然ではありますが、よく名の挙がるミホノブルボンやサイレンススズカとは、個人的には似ているところが全く感じられません。その2頭はデビュー前から坂路調教で抜群のタイムをマークしており、そのスピード能力の高さで話題になっていました。ミホノブルボンは現在より時計の掛かる芝走路だった旧中京芝1000mの新馬戦でラスト400mを11.0-10.7程度という驚異的な末脚で差し切り勝ち。サイレンススズカの京都内回り芝1600m新馬戦の勝ちタイムは同日同条件の新馬戦より2.6秒も速い1:35.2。同日の900万下(現2勝クラス)外回り芝1800mの勝ちタイムが平均的に流れて1:48.7。芝1600mにおける200m平均ラップと比べ、芝1800mでは概ね0.12秒ほど遅くなることから芝1600m1:35.2に相当する芝1800mの走破タイムは1:48.2程度。新馬戦の時点で既にサイレンススズカは古馬2勝クラスを凌駕するほどの走力を有していました。先天的要素となる絶対的スピード能力をその2頭に近いレベルでジャックドールが持っていたのなら、さすがに新馬戦で負けることはありません。そのような先天的要素ではなく後天的要素でジャックドールを捉えるのが、より現実味ある分析となるのではないかと私は思います。

次は6戦目までの走行データを見てみましょう。

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4戦目プリンシパルSは800m通過まで過去走より断然速いスプリットタイムとなり、完歩ピッチのグラフを見てもその走りの様子がよくわかるかと思いますが、このレースについてはまた後述します。4か月の休養を挟んだ5戦目1勝クラスでは後半1200mで各区間11秒台のラップを刻み続けています。3戦目未勝利戦の延長線上となるレースぶりであり、ジャックドールの個性が上手く表現できた内容。続く6戦目浜名湖特別では序盤ドスローとなる流れで、一般的な表現となる瞬発力勝負あるいはキレが要求される形となる一つのレースでしたが、同レース2着馬のノースザワールドと後半1000mでの走行データを比較するとその実態がよく現れてきます。

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今でも上がり3Fが末脚の指標とされますし、そのラップタイムの値から前述のような瞬発力やキレの程度を導き出されるケースが多いのですが、この2頭の値からすると私には瞬発力やキレはノースザワールドの方があるなと見えます。ピッチの上げ方も急ですしLast400m区間のラップも0.22秒速いわけです。しかしLast200m区間では0.19秒逆にジャックドールの方が速くなっています。ノースザワールドは0.8秒ほど減速ラップとなっていますがこの中京競馬場芝コース、Last400m区間は約2m上ってLast200m区間はほぼ平坦。ノースザワールドは実質1秒近くラップダウンしており、効率の良いラストスパートとは思えない形。その点ジャックドールはLast400m、600m、あるいは800mトータルで速く走ろうというスパート形態であり、前半極度のスローながらも勝った未勝利戦や前走1勝クラスのレースと後半は同じ分類となる走りの質。競馬における勝ち負けに関して何が重要なのかをよく示した一例であり、ジャックドールのストロングポイントとなり得る部分でしょう。ちなみに上がり3Fが32秒台に入ったら凄いという印象になりますが、このレースのLast800m区間を12.2辺りで走ったなら上がり3Fはこの2頭どちらも32秒台に突入します。上がり3Fのラップ価値はそういったモノとなります。

次は近3走のデータとなります。

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基本スタイルとしてはここ3走同様の走りをしています。序盤は飛ばし過ぎない、中盤過度に緩めない、ラストスパートは早い段階で踏み込まない、といった形です。細かく見ていけばウェルカムSでは中盤少し緩めた分、Last400m区間はよくスピードに乗っていました。続く白富士Sではピッチが速まっていないもののLast600m区間でスピードアップし過ぎたところがあり、Last200mは脚色がいっぱいになった感がありましたが、前走金鯱賞ではその辺りを修正したかのような、ほぼ理想的な走り。後続勢からすると末脚を生かすためのタメが効かない流れといえる他、徐々にスピードアップしていくタイミングでジャックドールもペースアップしている関係上、なし崩し的にラストスパートさせられてしまうという瞬発力を削ぐ流れでもありました。1走毎の進化がよくわかる走りの内容で実にキレイな成長曲線を描いていると感じます。

改めてジャックドールの走りの質をまとめる上で、全9戦の個別ラップ一覧表と前後半1000mで分けた平均完歩ピッチのグラフを貼っておきます。

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「後述する」と書いた4戦目プリンシパルSですが、全9戦の中でも前半ピッチが圧倒的に速いのが目立ちます。800mまでスプリットタイムは確かに速いのですが、その後の400m区間ではラップを大きく落としています。しかしピッチの値はさほど緩まっていません。また、ラストスパート時の平均完歩ピッチのピーク区間が他のレースより早い地点であり、さらにピッチの上がり方が急でもあります。この時はまだ力をつけていない段階なのでやむを得ないところではあるものの、キャリア上唯一連対を外したレース。その敗因はジャックドールにとって異質のレースとなった側面があるかもしれません。では、200m毎の1完歩当たりの平均ストライド長も見ていきましょう。この値はコースロス分も考慮してあります。

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競走馬はスピードアップしようとした際、別の表現をすれば騎手のGOサインを受け取った際、必ずピッチを上げていきます。また同時に、地面を蹴る力が大きくなりストライドも長くなります。その程度は当然個体差がありますが基本構造は全競走馬共通です。ただし、トラックサーフェスの違いや馬場の速さの違いでピッチは変動しませんがストライド長は変化します。例えば完歩ピッチが0.400秒/完歩の馬が200mを10.0秒で走れば、200mを25完歩で走り平均ストライド長は8.00mとなります。それより遅い馬場で200mが11.0秒だったとすると、200mを27.5完歩で走り平均ストライド長は7.27mとなり、約73cmストライドは狭くなります。今でも時々耳にするのが「この馬はピッチが速いのにストライドも良く伸びるんだ」という表現。これ、馬場の速さを無視したおかしな表現ですね。強いて言えば単に強い馬を総称しているのに過ぎません。逆にスピードダウンする場合、ラストスパート末期のバテている段階ではピッチが徐々に遅くなると同時にストライドも徐々に狭まります。一方、道中ペースダウンとなる場合はピッチが遅くなるレベルほどストライドの狭まり方は少なくなる傾向にあります。これも個体差がありますが長い距離を走るのが得意な馬はピッチを大きく落とすタイプが多いです。また、掛かっている馬はより脚を回転させよう、つまりピッチを上げようともがいている雰囲気が感じられます。

プリンシパルSは中盤でペースダウンした際、ストライドの狭まり方が目に付きます。ピッチをもっと落とす方が自然な形。あくまでも机上の立場である個人的見解にすぎませんが、このプリンシパルSは終始掛かっていたように思います。その最大の要因はスタートダッシュを利かせ過ぎた点。馬がはやる気持ちのまま走り続け、その分ラストスパートでガツンと反応してしまいゴールまで脚が続かなかったと思われるのです。

つまり、序盤からガンガン行って逃げるようなスタイルはジャックドールの本質ではないと思うのです。もちろん、今後強くなるためにレース序盤から攻めるというのは長期的に見て必要だとは思うものの、本質はそこではないと感じます。序盤で書いたようにサイレンススズカとは全く似ていないという点はココにあります。ほぼ同等の馬場の速さだったこの2走は800~1600m区間を7.8m少々のストライドで走り続けており、この部分がジャックドールのストロングポイントだと私は考えます。少し言い方を変えればゆっくりとスピードに乗せてそのままずっと走り続ける、そして良い意味でラストはその惰性力でスパートするといった形です。

参考までに金鯱賞で2着となったレイパパレと平均完歩ピッチの推移を見てみましょう。同馬が昨年大阪杯を勝った時のデータも加えてあります。

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おそらくレイパパレが本気を出してスタートダッシュすればジャックドールを制して逃げられると思われます。また、その出脚にジャックドールが付き合うのは得策ではないとも思います。来る大阪杯では1コーナーへの進入をいかにゆったりとしたリズムで入れるかがポイントになるように想像します。スタートダッシュで脚を使えば騎手心理的に道中必ず緩めたくなります。そういった緩急の差が大きいレースはプリンシパルSのように合う舞台とは言えないでしょう。絶対的スピード値が要求されないレースに持ち込めるかだと考えます。

全9戦2000mを使ってきたジャックドールですが、より発展形はどこかと考えれば、平均スピードを上げる舞台よりも、そのスピードをさらに長く持続させる舞台。最終理想形は「現在のスタンダードな芝で2400mを2分20秒台で走破」。ネガティヴスプリットで真価が発揮するタイプだと見ています。今秋以降に完成していくスタンスで、この春のレースに挑んでくれればと思います。


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