2020宝塚記念 振り返り

先日Tweetした個別ラップですが、クロノジェネシスとサートゥルナーリアの200~400mの値、全く違うポイントで計測していましたので、改めて他の区間も見直した上位4頭の個別ラップを貼っておきます。10分の1秒単位なら、まずまずこの値で問題ないと思います。

宝塚記念1

まずは2着となったキセキの走りを振り返ってみたいと思います。上位4頭の100m毎における平均完歩ピッチの推移を見てもらいましょう。デコボコしているところは注視せず、スタートからゴールまでの大まかな変化を捉えてください。

宝塚記念2

キセキがピッチの上下動の少ない走りをしているのが感じ取れるのではないかと思います。前走天皇賞・春で鞍上武豊騎手が感触をつかんだキセキのリズム良い走りを、レースの流れに身をゆだねることを行わず実現させた、まさにマイペースという内容。2年前の天皇賞・秋、ジャパンカップで見せた走りと同様のことを、「逃げなくてもデキるんです」と言わんばかりの好騎乗でした。素晴らしいの一言。

誰もが度肝を抜かれたクロノジェネシスの圧勝劇でしたが、走りの内容を細かく見ていくと、その圧勝劇がより迫力ある形に映ります。それでは上位4頭およびブラストワンピースの、前半800mまでの100m毎の平均完歩ピッチの推移をご覧ください。

宝塚記念3

私が計測した前半800mまでのレースラップは12.3-10.9-11.7-12.4。時計の掛かる馬場状態で前半400mは23.2。序盤は先行激化となるレース展開となりました。そんな中、好発してから少し押し気味だったサートゥルナーリアは自重し1コーナーは12番手辺り。実に滑らかな完歩ピッチの推移となりペース的には理想的な序盤の入りでしたが、その一方、楽に先行体制に入っていたクロノジェネシスは300mから猛然とピッチアップ。これはすぐ外にいた特攻隊ブラストワンピースに煽られた影響です。実際クロノジェネシスの200~400m区間のラップは10.7程度。序盤で大きく余力を失ってもおかしくない状況であり、こういった影響を受けると、例えばサートゥルナーリアのように序盤をロスなくクリアした馬に、ラスト100mで差されるケースがしばしばあります。このポイントだけを見ても、恵まれた圧勝劇とは程遠い状況だったとも言えるでしょう。

少々本題とは離れますが、ブラストワンピースの前半800mまでのラップは12.8-10.6-12.0-12.5。400mまでの完歩ピッチを見ると、まるで後先考えずに何が何でもハナを奪い取ることのみ集中したスプリンターのような風情。MAX平均完歩ピッチは200~300m区間で0.398秒/完歩。参考までにブラストワンピースが有する平均完歩ピッチの値は、スローの流れから末脚を爆発させた2018新潟記念でMAX平均完歩ピッチが0.414秒/完歩、全開に追われた今回の宝塚記念の1週前追い切りでMAX平均完歩ピッチが0.392秒/完歩。よくぞここまでガンガン行かせたなと感心するばかり。そして700~800m区間ではサートゥルナーリアよりもピッチダウンするというアッパレな序盤の走り。昨年の凱旋門賞同様、道悪馬場が苦手とのレース後コメントがありましたが、それ以前の問題のように思います。あまり思いたくないことですが、陣営はレースでの実際の走りを、レース後詳細に分析していないような気配があります。凱旋門賞は単に息を入れる間もないまま終盤まで追走した結果、大バテしたわけで、経験の乏しい、また合わないレース内容に問題があったはずなのですが、開口一番、道悪馬場というだけではちょっと・・・。それにしても日本競馬は急⇒緩⇒急が好まれますね。

では本題に戻りまして、次は上位5頭の、後半1000m区間における100m毎の平均完歩ピッチの推移をご覧ください。大きい丸印はスパート時の最速完歩ピッチ区間を表しています。

宝塚記念4

終始平均的な完歩ピッチで走ったキセキの波形があまり目立たないほど、各馬耐えながらラストスパートを行っている様子が伺えますが、ブッちぎった通りクロノジェネシスのスパート余力は飛び抜けていた形になります。3コーナーを過ぎて外から迫ってきたキセキに交わさせなかった時点で勝負アリでしたが、力を振り渋ってキセキを抑え込んだ状況ではなく、鞍上北村友一騎手の手応え通り、楽にあしらった形。4コーナーを回り切って残り300mからグンとピッチアップできるほどの余力があったからこその圧勝劇となりました。前述の序盤で過度に突っ込んだ事象がまるでなかったかのような、ビッグパフォーマンスだったと思います。

今までの内容はごく一般的なレース回顧になりますが、今回の本題はここからです。今回の宝塚記念におけるクロノジェネシス、キセキ、サートゥルナーリアのバックストレッチ区間、残り1400~800mとなる600m区間のラップと平均完歩ピッチを、現在のスタンダードな良馬場となる東京競馬場でのバックストレッチ区間、残り1600~1000mとなる600m区間を走った時のデータと比較してみたいと思います。中・長距離戦なら、このバックストレッチ区間はレース中最もリラックスした状態で走っているケースが多いので、個々の線での比較、他馬との相対的な比較をするのにふさわしいだろうと考えます。まずはクロノジェネシスから。

宝塚記念5

最初の区間は平均完歩ピッチがほぼ似た値でラップ差は0.5秒。その後の区間はラップ差が縮まっている分、宝塚記念では平均完歩ピッチが速くなっています。次はキセキ。

宝塚記念6

若干宝塚記念の方が平均完歩ピッチの値は速いですが、概ねラップ差はクロノジェネシス同様0.5秒ほどと言えるでしょうか。次はサートゥルナーリア。

宝塚記念7

2019天皇賞・秋では道中掛かり気味だった点を考慮しなければならないものの、平均完歩ピッチの値はかなり似通っています。ただ、前述2頭よりもラップ差は大きくなっています。概ね0.8秒程度はあるでしょう。

外目の進路を採ったクロノジェネシスとキセキのラップ差0.5秒と、内目を進んだサートゥルナーリアのラップ差0.8秒との差の値、0.3秒が何を意味するのか、何となくイメージできるかと思います。そうです、この値はトラックバイアスと道悪適性を示していると考えて良いでしょう。

最大外を通ったキセキのコースロス分は、大きく見積もって1周20m程度、時計にして1.2秒としてみましょう。逃げて終始最内を通ったトーセンスーリヤとの走破タイム差は1.8秒。内と外のトラックバイアスが200mに付き0.3秒あったと考えるのは、さすがに無理があると思います。スバリ何秒か正確な値は出せませんが、200mに付き0.3秒以内のどこかの値分、サートゥルナーリアはクロノジェネシスとキセキより道悪適性が乏しいと判断して問題ないと考えられるでしょう。

サートゥルナーリアはレース序盤、他馬よりスムーズな入りとなったにも関わらず、バックストレッチの中間部分となる残り1200~1000m区間でルメール騎手が促すシーンがありました。1000m少々走った段階で既にへこたれていた可能性が高いです。また、スパート時の最速平均完歩ピッチは残り500~400m区間での0.433秒/完歩。通常なら0.420秒/完歩を切ってきますから、早い段階で余力を失っていたのは間違いありません。

宝塚記念当日の芝レースは、宝塚記念のみ特異な状況となったので馬場差の判断が難しいと感じておられる方がいらっしゃるだろうと思いますが、この上記のラップ差、これを馬場差判定の材料にすれば良いんじゃないでしょうか。現在のスタンダードとなる東京競馬場良馬場に対し、200mに付き0.4秒時計の掛かる状態だとしたら、2200mで4.4秒分、即ち補正走破タイムは2:09.1。200mに付き0.5秒時計の掛かる状態と考えるのなら補正走破タイムは2:08.0。現東京競馬場は2200m戦がありませんが、仮に2400m戦と同様に1コーナーまでの距離を設けて2200m戦があるとすれば、2018ジャパンカップでアーモンドアイが斤量53kgでマークした2400m戦2:20.6という走破タイムと同レベルの2200m戦における走破タイムは、私の計算上2:07.9程度。今回のクロノジェネシスの斤量が56kgだった点を踏まえると、極めて高いパフォーマンスレベルと考えるのが妥当でしょう。アーモンドアイの2018ジャパンカップ、2019天皇賞・秋、リスグラシューの2019有馬記念、グランアレグリアの2020安田記念といった、牝馬による高レベルレースが近年ありましたが、この宝塚記念でのクロノジェネシスの快走ぶりは全くヒケをとることがありませんし、その中でも最上位にランクすると考えても不思議ではないと思います。

最後になりますが、この道悪適性と馬場差を考える手法、なかなか骨を折る作業となりますが、非常に有効な手段だと思います。もちろん、風の影響も考慮しなければなりませんが、私は各々の持ち指数、およびこういった作業により馬場差を算出しております。みなさんも是非試してみてください。

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