ギベオンの走りで風と馬場の違いを考えてみよう

今年の金鯱賞を逃げきったギベオンは、昨年の同レースでは道中3、4番手を進み4着入線。同じようにインを通っていただけに、多少は比較しやすい面があろうかと思いますので、この2レースの走行データから風の様子や馬場の違いを考えてみましょう。とは言っても、ハッキリと結論付けできるほどではありませんので、いくつかポイントだけ簡単に触れておきます。

まずは個別ラップから。精度は95%ほどです。

2021年
2:01.8
13.1-11.8-12.2-12.4-11.9-11.7-11.9-12.2-12.0-12.6

2020年
2:02.0
13.3-12.2-13.0-13.0-12.7-12.4-11.6-11.2-11.1-11.5

今年の方が0.2秒速い走破タイムだったとはいえ、上がりのラップの大きな違いから、馬場は昨年の方が速かったのに異論はないと思います。そんな状況を踏まえ書いていきますが、そもそも競走馬が走るスピードは、脚の回転数と地面を蹴ることによって受ける反力の値で決定されます。まあ、地面反力は値を弾き出すことができませんから、1完歩の長さ、つまりストライド長で置き換えてみましょう。例えば平均ストライド長が8mだったとして、1完歩に要する時間、即ち私が使うフレーズとなる完歩ピッチの平均値が0.400秒/完歩だったら、200mを10.0で走れることになります。新潟芝直線1000mの前半200~400m区間で9秒台がよくマークされますが、このケースだと平均ストライド長が8mを超すよりも、完歩ピッチが0.400秒/完歩を切ることの方が多い印象を持ちます。このピッチとストライドの関係ですが、加速する際はピッチを速めてストライドが伸びる形になります。そして減速する際は、ピッチが遅くなりストライドも狭くなります。個々の馬によって程度の差は若干あるものの、この関係性は普遍的なモノでもあります。また、トラックサーフェスの違いはピッチのリズムに影響を与えることが基本的になく、ただ単に地面反力の違い、即ちストライド長に影響を及ぼします。現在JRAが発表しているクッション値は、この地面反力の違いをズバリ表すモノではないことを、みなさんも既に理解していることでしょう。

完歩ピッチの値と区間ラップがわかれば、そこからストライド長を弾き出すことができます。それではここ2年の金鯱賞におけるギベオンの走行データを見ていただきましょう。200m毎の平均値となります。

画像1

スタートから残り1600mまでの400m区間、平均完歩ピッチの値が類似しているにもかかわらず、馬場の悪い今年の方が大きいストライド長をマークしている、つまりラップが速いという不思議な現象が見られます。今年はハナに立たせた分、ギベオンがより強く地面を蹴っていた可能性がありますが、それ以上に考えられるのが風の影響。昨年も今年もホームストレッチで向かい風となる西寄りの風が強く吹いていましたが、1周目のホームストレッチでは、昨年の方が強い向かい風だったか、あるいは今年のスタート後の20秒少々の間だけ、風が止んでいたという可能性が高いと見るのが妥当なところかと思います。

残り1600mから昨年はグッとペースが落ち、そのためギベオンのピッチは緩んでいます。今年はさほどピッチを落とさず推移。その結果、3コーナー残り800mまで、今年の方が絶えずストライド長が伸びているという結果になりました。11.7をマークした残り1000~800m区間が最大で7.51mほど。昨年11.6-11.2とペースアップした区間のストライド長に迫るほどで、馬場が悪かったとはあまり思えないほど。おそらくバックストレッチでは強い追い風を受けていたと考えられます。

今年最速ピッチをマークしたのが残り600~200m区間。ギュンとラストスパートしたところですが、ピッチは上がるもののストライドは逆に狭まっています。道中のペースによって、昨年よりスパート余力を失っていたのは確かですが、それにしてもかなりの落ち込み。4コーナーからかなりの向かい風を受けていた、という可能性が高いでしょう。前後半61.4-60.4という形でしたが、スローペースだったという範疇にはなく、追走勢もある程度余力を殺がれるようなペース配分のレースで、いわゆる平均的な流れ、という範疇かと考えられます。この金鯱賞のレースにおいては、ラップの値を額面通りに受け止めていては、理解するのが難しい内容で、馬場がどの程度悪かったのかも、判断が極めて難しい環境下だったと思います。

バックストレッチに関しては、デアリングタクトの走行データでも考えてみましょう。昨年53kgで出走したジャパンカップとの比較です。この金鯱賞での斤量は55kgで、個別ラップはこんな感じでした。

13.8-11.8-12.3-12.2-11.9-11.8-11.9-12.0-11.9-12.2

画像2

グラフは2コーナーから3コーナーまでを表しています。今回の金鯱賞ではえらく折り合っているなと感じたのですが、それもそのはず、テンの200mは緩かったものの、その後はジャパンカップよりピッチを上げて緩みなく追走していたからこその折り合いだったと思われます。

さすがにこの金鯱賞の馬場では、200m平均12秒を切るペースで2400mを走るのは難しかったでしょうから、馬場差は結構あったと考えるべきですが、いくらピッチが上がっているとはいえ、3コーナーに入る区間で金鯱賞の方がストライド長を伸ばしているのは、なかなか興味深いところであります。前述の通り、追い風の影響が大と見るのが筋でしょう。

最後にデアリングタクトのレースぶりに少し触れておきましょう。末脚の爆発感がもう一つ足りず、ギベオンを捕らえるまでには至りませんでした。スパート時のピッチの上がり方は秋華賞並みでジャパンカップ時のレベルには及ばず。4コーナーで早々と逆手前になった影響はありましたが、秋華賞ほど大きな影響にはなっていなかった様子で、案外追走に骨を折っていたのが真相でしょう。牝馬との対戦では問題なくとも、牡馬古馬と相対する時はジャパンカップのように2400mの舞台といった、2000m超の距離がより生きてくるんじゃないかと思います。もちろんペースが緩み、折り合いへの比重が高まるのが課題ではありますが・・・。

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