小説「たむらとこうたろう」
たむらは、歩きながらつぶやいた。
「しょうゆラーメンを食べたい・・・・・」
たむらの頭の上には渦になっていて、
空とつながるようにアンテナが立っていた。
たむらは毎日、隣人の人生相談に乗っているので、疲れると同時に、
たむらなりに他人のために行動できていることが嬉しかった。
たむらは3年前までニートだった。
たむらにいわせてみれば、ニート生活はそれなりにつらかったが、楽しくもあった。
ニートといいつつメルカリをしていたからだ。メルカリで、自分の書いた絵を売っていた。
300円で、1枚売って、1ヶ月に3枚ほど売れた。
実家暮らしだったし、スマホ代も母親が払ってくれていたので、
その900円を貯金することが生きがいだった。
それに、たむらは、恋人ができたことがあった。
恋人は、机のなかに買っている人形だった。
その人形のおっぱいをなでたり、服を着替えさせてあげることで、恋人だと思っていたし
その人形もたむらのことを恋人だと思っていたとたむらは思った。
だから、寂しくなかったのだ。
それなのに、いまは寂しい。
週に4回、派遣の仕事に追われ、休日は母親の介護をしている。
恋人と遊ぶ時間も、メルカリをする時間も削られていった。
たむらは思った。
なんで世の中、こんなに不景気不景気ゆってるんだ?
働くってなんでこんなに苦痛なんだ?
恋人と遊ぶ時間もない、これが充実というのか?
介護のときについた手のひらの尿のにおいをかぎながら自分は頑張りすぎていることに気がついた。
このままでは、嫌気がさしてしまうだろう。
派遣をやめよう。
貯めた100マンをなるべく長く使って、100マン円が残っているうちに次の生き方を模索しよう。と思った。
たむらの時給は1000円、1日8時間労働で16日はたらいて、月に13万円ほど稼いでいた。
たむらは月に3マン貯金して3年働いたから、100マンほど貯めることができていた。
ほんとうは、母さんに、お金をあげたかったけど、この生活をこのまま続けていくことをやめるためにも、母さんには、介護施設に入ってもらおう、と決心した。
数年後に自殺してしまうのがいやだった。
たむらは、3年前、ニート仲間のこうたろうを亡くしていた。
こうたろうは、唯一のニート仲間で、音楽をやっていた。
こうたろうは全然売れてなかったけど、たむらはこうたろうのライブが500円だったから、
絵を売って稼いだお金でらいぶに入くぐらい、こうたろうの歌が好きだった。
でも、こうたろうはある日、彼女にふられたのをきっかけに真面目な生活を始めた。
あんなにいい曲つくれるのに、もったいねえよと言ったが、
こうたろうは彼女にふられたのがよっぽどショックだったのだろう。
でも、正社員になった。こうたろうは音楽をやめた。そして、いなくなった。
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