見出し画像

『調べる2021年』とは何だったのか

西暦2121年の最後の日、一夜限りのDJイベント『調べる2021年』が地球のどこかで開催されました。その夜何があったのか。2021年とはいったい何だったのか。セットリストを通して見えてきた、その全貌に迫ります!

【イントロダクション】「2021年」および「2021年の人類」は滅亡した!ある瞬間をもって、すべてが生まれ変わり、作り変えられ、すべてが「2022年」となった。しかし!2021年の音楽は100年経っても2021年の音楽として存在し続けたのだ!よって我々はいま一度ここで、滅亡したすべてを、音楽をもって宇宙へと還すこととする。

ビジュアル.030
ポスタービジュアル

「2019年から始まったパンデミックにより世界中で多くの犠牲者が出た。この年の音楽は、その状況下で時間をかけ、より熟したものが生まれているように感じる」

「つまり、死と生に対してより冷静に観察し、向き合うことから音作りが始まっているんだ。一見するとテーマがシンプルだから、当時の若者には刺激的だったと思う。でも、この年の音楽は、死生観と同じで、実はカンタンに説明が付かない。この2021年という年じゃなきゃ生まれなかった音が確かに存在するんだ」

#1 CO LO s NA/ZOC

「1曲目から3曲目は”生”の曲だ。生きることの歓び、そして生きることによる苦しみは同時に存在しうる。私たちは生きているのに、『生きるとは何か』を知らない、分からない。だから今日まで音楽が作られ続けている」

「パンデミックを経て、保障されなかった命の極限状態をまっすぐに訴え、それでもなお生きねばならない、死んでたまるかと叫ぶ。死ぬ思いで生に足掻く。当時は女性アイドルが大ブームを迎えていたが、このZOCは一線を画す存在だ」

#2 創造/星野源

「こいつはヤバい。タイトルの通り、ものを作り出すときの、作り手にしかわからない一瞬の高鳴りを1つの曲にしてしまって、聴き手全員を震えさせている。本来そんなことはできるはずがないんだ、しかしこの曲を聴けば誰でも、たったの30秒足らずで飛べる」

「彼は一度、自身の持病で死ぬ思いをしたことを『生まれ変わった』と表現し、自身がその運命にあったことの素晴らしさ、尊さを歌っている。一見普遍的なテーマの曲に見えるが、それは極めて私的な経験あってのものなんだ」

#3 赤裸々/BREIMEN

「この曲には小さなアパートの一室、男が2人しか出てこない。冷房はつけなくてもいいものの、やけに湿度が高く、顔はうっすら汗ばんでいる。そんなことは気にもせず缶を開け、低く力のない声と汚い笑い方でネタをひねり出しあう。それもじきに尽きてしまうが、他に誰もいないこの部屋は、自然と話題を深くする。お互いなにも恥ずかしがることはないのだ、ずいぶん前に聞きたかったあのことを聞いてしまおう。きょうは寝るまでとことん付き合うとしよう。次の缶を開ける。もうしばらくしたら夜が明ける。」

#4 groggy ghost/DAOKO & TAAR

「ここからの3曲は生でも死でもない、またどちらでもある曲だ。生と死はハッキリと二分できるものではない。『どこからを死と扱うか』という議論は今でも続いている。生きていることと死んでいることが同時に存在している状態があるんだ。シュレディンガーの猫じゃないぞ!」

「この曲は聴き始めた瞬間、『何にもやりたくなくなる』というフレーズにまず衝撃を受ける。だったら何も生まれないはずなんだが、この曲は確かに存在する。つまり『作れません』という曲を作ったのだ。アーティストが置かれたロックダウンの時間は、この曲が生み出されるほどに長かった、あまりにも長すぎた。作り出せる瞬間だけがクリエイションではない、長い長い未完成の状態があって初めてクリエイションなんだ」

#5 浮遊感UFO/月ノ美兎

「この頃はVTuberの黎明期だ。VTuberはとても不思議な存在だ。画面を通して作品内で観る登場人物、キャラクターは作品の中で永遠に生き続けることができる。しかしVTuberは生身の人間がいて初めて成り立っている。だからいつか必ず死ぬ。VTuberは永遠性と死の可能性を同時にもつ存在だと言えるんだ」

「この曲はVTuberの『分からなさ』をUFOに例えている。インターネットを探っているうちに自分で『見つけちゃう』のであり、その存在、その放送で巻き起こっていることの分からなさに強く惹かれてしまう。インターネットをやっていてこれほど楽しい時間はない。ちょうどこの頃から『分からないことを楽しむ』エンターテイメントが大きく勢力を弱めた。ある国でモノローグだらけのわかりやすい映画が興行収入1位になったんだ。VTuberはそんな時に突然現れたUFOだったんだ」

#6 あびばのんのん/Tempalay

「テンパレイは最高だ。異論は認めない。同じ年に出た『ゴーストアルバム』は、このプレイリストにこそ入っちゃいないが最高のアルバムだ。なんでまだ聴いてないんだ。こんなもの読んでないでとっとと聴きに行くんだ」

「気持ちいい温度のお湯を溜めて全裸で浸かる”風呂”という最高でクレイジーなカルチャーがある。一度浸かったものは思わず『ああ生き返る』と呟くんだそうだ。だがここからがものすごく不思議で、同時に風呂は『極楽』なんだ。そしてこの曲はそんな”風呂”を見事に音楽にしている。東洋の神秘だ」

#7 黄金比/東京事変

「ここからの3曲は”死”の曲だ。死を悲しむだけではない。どう死と向き合うか、どう死後の世界へと見送るのか。死を想うことは同時に生を想うことだ。死神は『いつ死ぬか』を決めるとき、『いつまで生きるか』もすでに決まっていると言える」

「アルバム『スポーツ』にも現れているように、彼らは命のきらめく瞬間を描くのが本当に巧みだ。全身をもって、肉体をすべて使ってそれを表現している。もうまともに生きることはできない世界だから、死ぬように生きようじゃないか、あまつさえそれを楽しもうじゃないか。そんな思想が最高のダンスチューンに昇華されている」

#8 2992/millenium parade

「ミレニアムパレード(=百鬼夜行)のこのアルバムはこの年のトレンドになった。死後の世界を俯瞰的に、ハデに、そして刺激的に描いたのがこのアルバムだ。生活そのものが死に近しいものとなった世界で、まさに求められていた1枚だったのかも知れない」

「彼らの作る曲の世界には必ずその曲の映画が付随していて、それは何もミュージック・ビデオでひと通りに定められるものではない。そして逆に、このアルバムが一つの大きな映画のサウンドトラックだとも考えられる。聴いている我々がメガホンをとって思うがままに撮る、命を揺さぶる最高の映画だ」

#9 AFTER LIFE/AAAMYYY

「この年に発表されたアルバム『ANNIHILATION(アナイアレイション)』はまさにこの年を象徴している。この世に人が生まれ、亡くなること。そしてそれが今も同じ陸の上で繰り返されていること。そこに測り知れないほど大きい流れがありながら、人はそれぞれ小さな殻に閉じこもるほか無かったのだ」

「小さな殻の中から彼女自身が見つめていた世界の姿が、彼女の脳や肉体を通してこの曲に落とし込まれている。自然と呼ばれる大きな流れに身を任せることができればどれほど幸せか。ただ他の生物と同じように生を受けただけなのに、なぜそれができないのか。そう問いながら、命がいつか果てるその時に向かって進んでいる」

#10 VOYAGER〜日付のない墓標〜/鷺巣詩郎

「この年の人間は全員エヴァンゲリオンを観たらしい。この曲にお世話にならなかった者はいなかったんだそうだ。いま観ても当時がどういう時代だったのかを読み取ることができるし、しかしどの時代にも共通する、人間ひいては生きとし生けるすべてのものの強さと弱さを描いている。まさに神話だ」

「この映画はシリーズを絶対に終わらせるために作られたのだと私は思っている。しかしこの映画には未来への願いが込められている。生きている限り必ず自分に訪れるすべての運命や失敗を悔いて、そして立ち上がるのだ。だから、この曲がこの年をしめくくるのに最もふさわしいと思った」

「調べる2021年」のセットリストを配信中です!これを聴いて、2021年に想いを馳せましょう!


一本駄文を書くのにコーヒーを一杯消費するので、サポート分のお金は次の駄文をひねり出す分に使わさせていただきます。