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アドベントリレー小説 2日目

「アドベントリレー小説」は、25人の作者で紡ぐリレー小説です。
ここまでのお話と企画の詳細は↓から
https://adventar.org/calendars/6460

2日目・作・ちーさん

『緋色のヒーロー』#2

マスク越しにでも、ちひろだとすぐにわかった。きゅっと目を細めて笑う顔は、最初に出会ったあの日からずっと変わらない。

「バイト中?元気してた?いま何してるの?あ、バイトか」
冷たいプラスチックにこもる声。いっぺんにたくさん話すせいで、マスクの目のところが白く曇っている。
「今年もこうしてプレゼント配りだよ。それよりドレス、すごく似合ってる」
「やるねえ。キミのおひげもよく似合ってるぞ」
そう言いながらひげをもしゃもしゃさせる。させすぎだ。
「あとでゆっくり話しようよ。バイトが終わったら連絡する」
「オッケー、バイトがんばれ」羽織っていたショールを掴みわざとらしく肩をすくめ、じゃあね、と手を振って渋谷の街へと彼女は戻っていった。その後ろ姿を、見えなくなるまで目で追った。
ずっと息が上がっている。手のひらが汗をかいている。腕時計をみる。午前十時五十分。時間通りだ。ここで会うことは分かっていたけど、まさかドレス姿だとは思わなかった。
このバイトが終わったら、おれは──

誰もいない休憩室に戻る。すぐにOKされたけど、ドレスを着ていくほどの用事があるのに、俺なんかのために時間を作ってよかったんだろうか。
帽子とガスマスクとひげを取り、ロッカーにしまう。つけっぱなしのテレビが、今年一番の寒波の訪れを告げる。今日も、あの日と同じ、きれいな青い雪の日だ。

つづき → https://note.com/abecyan83/n/nb12414bdc762

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